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第三部 第一章――再会
第十四話 選抜コック
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次の日、コック選抜の日だった。
まだ白律季には正式には会えない。何やら、妖術師同士で何か初めての国のための妖術を考え出してるようで、忙しいみたいだ。
陽炎は、少し胸が軋む思いで、王族の席に座っていた。鴉座と蟹座は今回は立会人としてしか許されて無く、二人とも他の城の従者と一緒に会場を見守っている。
会場には数人のコックスーツに身を纏った者と、白銀陽がいる。
白銀陽と黒雪の目はあわされることがなく、合った瞬間が恐ろしく陽炎はひたすら心臓の震えを実感する。
――もしもばれたら。
――もしも、ガンジラニーニだとばれたら、柘榴だとばれたら。
(神様、確たる証拠を与えさせませんように――)
陽炎は縋る思いで、滅多に信じないあらゆる神という神に祈っておいた。
そんな心情を察したように、陽炎と白銀陽が目を合わせた瞬間、白銀陽は微笑み調理器具の準備をする。
彼の笑みは、既に会ってる母親を思い出させる。
すぐ側にいるのに、側にいる母親よりも、母のような印象が強くて、陽炎はただの笑み一つで少し緊張が解ける。
「――では、調理開始」
選抜のための、王族に出すための料理対決が始まった。
全員同じ器具だがどれをどう使うかは任されている。そして食材もスパイスも同じだが、一つだけ何かを持ち込んでいいとされている。
白銀陽は手慣れた手つきで調理していき、他の者も緊張しながらも手際よく作っていく。
数十分後には、見目が見事で味も美味しそうな料理達が並ぶ。
飾り付けも味としての外見も、一番白銀陽が見事だっただけに黒雪は不快感を、陽炎は安堵を感じる。
それぞれ王族達に出される前に一口、毒味係が食べてから王族に渡る。
陽炎の隣にいる妹が、美味しそうね、と呟いて何処か嬉しそうなのが見える。
実際、厳しい顔つきをしているのは王様と黒雪くらいなものだ。そして複雑な顔をきっと己はしているのだろう、と陽炎は苦笑した。
幼い妹も、同い年くらいの妹も楽しげに料理を口にする。
そして行儀良く口にして満足そうな顔をしている。
陽炎も躊躇いがちに食べてみる。
口にすれば、ふわっと広がる香辛料と不思議な味付け。
目を見開き、思わず陽炎は飲み込んでから、美味しいと呟いてしまう。
柘榴が持ち込んだのはキクラゲだった。不思議な味付けに丁度よい食感がこりこりとする。
それぞれコック達はコック帽を脱いで、姿をちゃんと露わにする。
それぞれ胸にネームプレートを書いてある。
「そこの君」
黒雪が料理を口にしてから、にこりと微笑み白銀陽の隣の者を指さす。
突如名指され驚いた彼は目が落ちるのではと思うほど見開き、はいと今にも張りつめた糸が切れそうな声で返事をする。
「君は何を持ち込んだの?」
「はい、予め作っておいたラスクです。歯ごたえに少々工夫をと思いまして……」
「とても美味しいね。それに経済的だ。ラスクはパンの耳でも作れるからね。じゃあ隣の君は?」
目というか言葉が交わされる瞬間が、きた。
陽炎は目を背けたい思いの中、背いたらどうなるか判ってるだろうなという視線が蟹座からきてるのが判るので、後が怖くて背けられない。
鴉座も不安そうな視線を送っている。
二人に目をやって判ってるよという意味と安心させる意味を込めて笑みを向けてから、白銀陽に視線を向ける。
白銀陽は黒雪にはい、と返事をしてから何でしょうと問うた。
「君は何を使ったの?」
「キクラゲです」
「ああ、そう。キクラゲは体には良いけれど……ちょっと意味が、なぁ。今度から王族に出すときは気をつけた方がいいよ」
「……――何故だかお教えいただいても?」
「あのね、キクラゲって裏切り者の耳って意味なんだ。裏切り者の耳を食べるのは、ちょっとなぁ」
黒雪がそう言うと、妹たちが嫌そうな顔をして、王様までもが顔を顰める。
へまをしてしまったか、己が庇った方がいいのかと思案していると白銀陽はにこりと微笑んだ。
「皇太子様、キクラゲは桑、槐、楮、楡、柳の五木といって有用木代表の木に生えます。薬効もあって、気を益し、飢えず、身を軽くし、志しを強くする。そして穀を断ち、痔を治すという話を聞きます。とても素晴らしい食材でしょう? とても庶民である私たちには責任で重そうな王族という地位に、少しでも身が軽くなればと思ったのです。それに、長いこと椅子に座ってることが多いでしょう? ですから、その……」
「痔にも効くのか」
王様は反応した。それも嬉々として。
親父、痔だったのか、と陽炎と黒雪は戦慄いたが、白銀陽はにこりと微笑んで頷いた。
「それに胃も補うので、国務で食の連続が続いてる両陛下や皇太子や姫君にはいいのではと思いまして……」
「素晴らしい、気配りがよく行き届いている!」
親父、そこまで痔が酷いのか、と陽炎と黒雪は戦慄く程の、王様は喜びようが凄かった。
しかも従者達も少しざわつき、今度使ってみよう! というような顔をしている。
(白銀陽、すげぇ……一気に劣勢を跳ね返して優勢に立ったよ)
しかも黒雪の姑的な嫌がらせを利用して。
王様が、白銀陽を是非にと城のシェフの一人に出迎えたのは言うまでもない。
まだ白律季には正式には会えない。何やら、妖術師同士で何か初めての国のための妖術を考え出してるようで、忙しいみたいだ。
陽炎は、少し胸が軋む思いで、王族の席に座っていた。鴉座と蟹座は今回は立会人としてしか許されて無く、二人とも他の城の従者と一緒に会場を見守っている。
会場には数人のコックスーツに身を纏った者と、白銀陽がいる。
白銀陽と黒雪の目はあわされることがなく、合った瞬間が恐ろしく陽炎はひたすら心臓の震えを実感する。
――もしもばれたら。
――もしも、ガンジラニーニだとばれたら、柘榴だとばれたら。
(神様、確たる証拠を与えさせませんように――)
陽炎は縋る思いで、滅多に信じないあらゆる神という神に祈っておいた。
そんな心情を察したように、陽炎と白銀陽が目を合わせた瞬間、白銀陽は微笑み調理器具の準備をする。
彼の笑みは、既に会ってる母親を思い出させる。
すぐ側にいるのに、側にいる母親よりも、母のような印象が強くて、陽炎はただの笑み一つで少し緊張が解ける。
「――では、調理開始」
選抜のための、王族に出すための料理対決が始まった。
全員同じ器具だがどれをどう使うかは任されている。そして食材もスパイスも同じだが、一つだけ何かを持ち込んでいいとされている。
白銀陽は手慣れた手つきで調理していき、他の者も緊張しながらも手際よく作っていく。
数十分後には、見目が見事で味も美味しそうな料理達が並ぶ。
飾り付けも味としての外見も、一番白銀陽が見事だっただけに黒雪は不快感を、陽炎は安堵を感じる。
それぞれ王族達に出される前に一口、毒味係が食べてから王族に渡る。
陽炎の隣にいる妹が、美味しそうね、と呟いて何処か嬉しそうなのが見える。
実際、厳しい顔つきをしているのは王様と黒雪くらいなものだ。そして複雑な顔をきっと己はしているのだろう、と陽炎は苦笑した。
幼い妹も、同い年くらいの妹も楽しげに料理を口にする。
そして行儀良く口にして満足そうな顔をしている。
陽炎も躊躇いがちに食べてみる。
口にすれば、ふわっと広がる香辛料と不思議な味付け。
目を見開き、思わず陽炎は飲み込んでから、美味しいと呟いてしまう。
柘榴が持ち込んだのはキクラゲだった。不思議な味付けに丁度よい食感がこりこりとする。
それぞれコック達はコック帽を脱いで、姿をちゃんと露わにする。
それぞれ胸にネームプレートを書いてある。
「そこの君」
黒雪が料理を口にしてから、にこりと微笑み白銀陽の隣の者を指さす。
突如名指され驚いた彼は目が落ちるのではと思うほど見開き、はいと今にも張りつめた糸が切れそうな声で返事をする。
「君は何を持ち込んだの?」
「はい、予め作っておいたラスクです。歯ごたえに少々工夫をと思いまして……」
「とても美味しいね。それに経済的だ。ラスクはパンの耳でも作れるからね。じゃあ隣の君は?」
目というか言葉が交わされる瞬間が、きた。
陽炎は目を背けたい思いの中、背いたらどうなるか判ってるだろうなという視線が蟹座からきてるのが判るので、後が怖くて背けられない。
鴉座も不安そうな視線を送っている。
二人に目をやって判ってるよという意味と安心させる意味を込めて笑みを向けてから、白銀陽に視線を向ける。
白銀陽は黒雪にはい、と返事をしてから何でしょうと問うた。
「君は何を使ったの?」
「キクラゲです」
「ああ、そう。キクラゲは体には良いけれど……ちょっと意味が、なぁ。今度から王族に出すときは気をつけた方がいいよ」
「……――何故だかお教えいただいても?」
「あのね、キクラゲって裏切り者の耳って意味なんだ。裏切り者の耳を食べるのは、ちょっとなぁ」
黒雪がそう言うと、妹たちが嫌そうな顔をして、王様までもが顔を顰める。
へまをしてしまったか、己が庇った方がいいのかと思案していると白銀陽はにこりと微笑んだ。
「皇太子様、キクラゲは桑、槐、楮、楡、柳の五木といって有用木代表の木に生えます。薬効もあって、気を益し、飢えず、身を軽くし、志しを強くする。そして穀を断ち、痔を治すという話を聞きます。とても素晴らしい食材でしょう? とても庶民である私たちには責任で重そうな王族という地位に、少しでも身が軽くなればと思ったのです。それに、長いこと椅子に座ってることが多いでしょう? ですから、その……」
「痔にも効くのか」
王様は反応した。それも嬉々として。
親父、痔だったのか、と陽炎と黒雪は戦慄いたが、白銀陽はにこりと微笑んで頷いた。
「それに胃も補うので、国務で食の連続が続いてる両陛下や皇太子や姫君にはいいのではと思いまして……」
「素晴らしい、気配りがよく行き届いている!」
親父、そこまで痔が酷いのか、と陽炎と黒雪は戦慄く程の、王様は喜びようが凄かった。
しかも従者達も少しざわつき、今度使ってみよう! というような顔をしている。
(白銀陽、すげぇ……一気に劣勢を跳ね返して優勢に立ったよ)
しかも黒雪の姑的な嫌がらせを利用して。
王様が、白銀陽を是非にと城のシェフの一人に出迎えたのは言うまでもない。
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