【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

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第三部 第一章――再会

第十一話 女騎士の激怒

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「初めまして。この国に、皇子が二人いるとは知りませんでした、申し訳御座いません、つい驚いて……声を……。鴉を飼ってるんですか?」
「あ、うん、そう……デス」

 手の甲の鴉が重いが、鴉が一声カァと鳴いた。
 それを見てから鷲座がまた笑みを向けて、可愛いですねと言った。

「可愛い鴉ですね。だけど、小生は黒い鳥よりは白い鳥をお勧めしますね。鳩とかどうでしょう、平和の証ですよ」
「……――は、はは。か、考えておきます」

 恐らくは――、鷲座なりに抑えていた気持ちが、鴉座を見て少し抑えられなくなった結果の発言だろうか。
 己を白き鳥だと意味してるのだ。髪の色が、白いから。
 鴉ではなく、己が肩に乗ったりしたいと言っているのだろう。

(鳩なんて可愛らしいもんじゃねぇだろ、お前。鷲だろ!)

 陽炎は、苦笑を浮かべて眼鏡を掛け直し、それから鴉座をとばせた。否、逃がした。
 蟹座の所へ行って、奴隷の子を見てきて、という意味も込めて。
 鴉座は素直に飛び立ち、城の方へ向かった。

「……――それでは失礼します。次のお披露目される方も待ってらっしゃいますし」

 そう言って鷲座は深々と頭を下げて、去っていく。
 嗚呼、嬉しさと気まずさが混同する。
 陽炎は落ち着かない感覚を誤魔化すために次の者のパフォーマンスを見守る。
 次の妖術師は女の子だった。
 可愛らしい容姿で、こんがりと焼けた肌に踊り子のような衣装の上に、半透明のマントを羽織っている。
 名前は、桃蓮歌(ももれんか)と名前の通り、桃色に染まっていく髪の色が綺麗で、陽炎は放心した後、拍手を惜しみなく他の民と同じく送る。
 桃蓮歌のしたパフォーマンスは太陽がじわじわと熔けていき、雪だるまへと変わる可愛らしい幻術だった。
 雪だるまも熔けて、最後は雪の精霊達が歌う不思議な幻術で、寒い景色の筈なのに心温まる。
 そうまるで、この季節のように暖かくて。

 その次の者は、名は茶鹿路(さろくろ)といって、姿を覚えては居ないが、黒雪のように簡略化するタイプのようで、何か派手なことをしたが、少し緊張からか失敗したようで、炎の蛇が己にまとわりつき己が少し炎上しかけて、それはそれで笑わせてくれた。
 笑えるのは当然、妖術師がそれくらいで怪我をするわけではないと知っているからだ。
 腕の良い妖術師を選抜したのだから、それくらいでないと困る。

 白律季、桃蓮歌、茶鹿路。
 白律季以外は髪の毛が短くて、何故か女の子である桃蓮歌でさえ、髪の毛が耳にかかるくらいの長さで、茶鹿路なんかわずかにそり残した坊主といった感じである。
 よく見ると、落選した候補者達も髪の毛が短くて、どうして鷲座だけが長いのだろうか不思議で黒雪に、妖術師にとっての髪の毛の長さの意味を問うと、長ければと長いほどハンデになるらしい。つまり、邪魔なのだ。

「髪の毛は自分の捧げる体の一部で、短い髪を妖術の力は好んでるんだよ。それにすぐに自分が妖術師だってばれるからね、気が荒立つと髪の色が変わることがある」
「……ふぅん」
「だから余計に、あの髪が長い妖術師が……基礎を――思い出せば、確かにあれは基礎を全部連ねただけで、そのまま挙げただけだったんだ――使うなんて信じられない。簡略化が全ての世界で」
「……――よくわかんないし、判りたくない世界だなぁ」
「陽炎君はそれでいいんだよ。さて、じゃあそろそろ城に帰ろうか。君のお供を先に帰してどうするの? オレはいいから、スリーパー、君がお詫びに護衛するんだ」


 スリーパーは目を見開き一瞬驚くが、すぐに陽炎を睨み付けて、断ろうとする。陽炎も断ろうとした。この男は先ほど、彼らが険悪だったのを忘れているのだろうか。
 だが断る間もなく追い出され「部屋までだけだから」と、妖術で城の城門前まで包まれて郵送された。
 あまりに突然のことにふたりは文句を言う間もなく、城門前に居た。
 スリーパーがため息をつき、視線だけで歩けと陽炎を促した。
 陽炎はふん、と鼻息を荒げて、ずんずんと前へ歩く。それとは対照的に、スリーパーは何処か上品な歩き方をするがそれは女性だからか、それとも騎士だからだろうか。

「随分と粗悪に育ったものですね」
「……――へ?」
「此処までがさつに育ってしまわれた子供など、国に招かず放って無かったことにすればいいのに」
「お前の国は、――俺の母国は、言わなくて良い悪口まで叩くんだな」
「私は第二皇子が嫌いですから。どうぞ第二皇子も嫌ってください」
「ああ、嫌ってるよ。悪口言われて何も言わないで居たら痛い目みたからな」


 それを言ったとき、スリーパーの僅かに笑った声が聞こえて、陽炎はこの女は黒雪がどういう目的で己を連れてきたのかを知っているのだと知った。
 陽炎は、立ち止まり、スリーパーへ敵意を持った眼差しを向ける。その眼差しにはいつもの穏やかな色合いは宿っては居ない。薄暗い人の心色だ。

「お前の主人は最低だな」
「! 我が主の悪態は許しませんよ! 幾ら第二皇子といえども!」

 主人を悪く言ったとき、スリーパーは突然金切り声で怒鳴り、息を荒げて視線を外した。
 まるで怒鳴ることが慣れてないからか、肩を震わせて、地面を睨み付ける。陽炎を睨む代わりに。
 陽炎は金切り声に耳を痛めて、怒鳴るなよと言おうとしたときに、ふと顔色に気づいた。
 スリーパーの顔色は怒鳴ったはずなのに、酷く真っ青なのだ。

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