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第三部――序章 滑稽な次期王の一人きりによる懺悔劇
第六話 鬼面の脅迫
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「……――だから、柘榴が専用妖術師になるのですか?」
「多分ね。普通の妖術を学んで普通の妖術を得て、普通の外見で忠誠代わりでも冗談でもいいから黒雪に“親「愛」なる陛下”とか言っちゃえば……柘榴は、黒雪を殺せる。これが、長年言えなかった俺と柘榴の計画。いや、俺は正確に言えば、こっちに来てから柘榴の計画を理解出来た、んだろうなぁ――。多分、調べてくれると信じてくれて……でも柘榴のことだから違うかも知れないけれど」
「陽炎、珍しくお前は……柘榴の心配をしないんだな」
蟹座が言いにくそうにそう言うと、陽炎は、少しぬるくなったホットレモンを両手から机において、何とも苦しそうな笑みを浮かべた。
何と言えばいいのだろうか、この悲壮の主人に。
陽炎は、二人に笑みを浮かべた後、嫉妬しないよな? と、二人の気持ちを聞いてから、何も言えなくなった蟹座の代わりに「努力いたします」と返事をした鴉座に視線を向けてから、有難う、と頷く。
「あのな、俺はな、例えばこの世界で一番何が大事かと問われたら、即座に柘榴と答えられる。その感情は友情だと思っていた」
陽炎はかぶりをふり、嘆息をついた。
「だけど、最近判らないんだ。早く来て欲しいと、あんなにも願ってたし、鷲座が来てくれたのも嬉しかった。だけど、実際この街に柘榴が居るのを考えると、……ガンジラニーニだとばれるのを考えると、怖くて怖くて堪らない。目の前で、処刑されたら? 目の前で虐められてそれを止めたら計画も、知り合いだっていうのもばれる。……――そこまでしなくてもいいよって言いたい。城下街にいって、そう教えに行きたい。だって、俺が我慢すればいい話だって思った。三年前、意固地になって皆で暮らしたいなんて思わなければ、柘榴は普通に人にとけ込んで生きられたんだ――。嗚呼、でも俺と出会わなければ、なんて考えないぜ? そこまで俺は優しくないし? でもな――……柘榴が、失敗して目の前で処刑されるとする。こうやって口にするだけで、怖さで泣きそうな感情になるのは何だろうって思った。しっくり来たのが――むかつくことに、黒雪に攫われたとき、言われた初恋途中、なんだろうなって。おかしいよな、あれだけノンケって言い続けていたのに、初恋が柘榴だなんて! 俺は初恋は済ませたはずなのになぁ」
陽炎は、ははっと笑ってから、頭をがしがしとかきむしり、嗚呼もうとため息をつく。
それから机に両腕を置いて、拗ねたような顔つきで言葉を続ける。
彼らを信じて。なるべく嫉妬しないと約束した彼らを信じて。
何より、正直に己の気持ちを言った方が、彼らの真面目な気持ちへの応えになりそうな気がして。
「止めたい。今すぐに、あいつを止めたい。でも、止めたら、あいつは一生俺を許してくれない。止められるぐらいなら、ガンジラニーニとばれたって平気って笑いそうな気がして。処刑された方が苦しむ俺を見なくて済むって笑いそうで。――……くそっ、あいつ、卑怯だよ。俺より卑怯だ! いっつもへらへらしてるから、そういうイメージしかくれない! 助けてくれって頼むあいつが思い浮かばねぇの! 三年前だって、あいつ――呪いで弱ってたのに、頼らずにいこうと思ったら怒ったし……――だから、もう俺はね、心配しちゃいけねーんだよ、きっと。信じ切らないといけないんだ。成功以外考えちゃ……いけないんだ」
「…………――本当に、酷い奴だ。あの果物は。長年思っていた私から、貴方を突如、また攫う……」
「暴走するなよ、鴉」
「判ってる、お前こそ。蟹座」
ただ、他の一般人だったならば、鴉座や蟹座は即座に暴走していただろう。
思い人が一般人だったなら、思い人のやや意中の人が一般人だったならば。
彼らの関係も、そして彼らの環境も知ってしまった今だからこそ、それはただの憎まれ口を叩く嫉妬ぐらいで済んでいる。
何より、柘榴が酷く己には危険な状況だというのに、それでも陽炎を助けるために頑張っているのが判ったから、それならば思われても仕方ないと悔しくも思ってしまう。
そういえば、柘榴は黒雪に売られた筈――それは、ガンジラニーニだからだろうか。それを確かめようと鴉座は聞くが、そこは陽炎も知らないのか、首を振って「あいつは秘密だらけだ」と口にする。
その時、陽炎は何者かの気配を感じ取ったのか、蟹座に声をかけて、窓の方へ警戒するよう視線を向ける。
蟹座は即座に動こうとする……だが、蟹座は何故か移動途中で倒れ込んでしまい、ふと鴉座も気づけば机の上に顔をがたんとぶつけて、気を失ったように――眠っている。
陽炎は状況についていけず、とりあえず、窓辺に立つ――東洋の劇に出てきそうな鬼の面と、東洋の不思議な……和装のような赤と黒に包まれた衣服の男を見やる。
髪の毛は面で隠されてる顔と一緒に、大きくて派手な赤いカツラのせいで、判らない。
陽炎は、せめてもの武器にと思って、そこにあったペーパーナイフを手にしようとするが前に、からん、と自分の前に短剣が与えられるように放り投げられた。
陽炎は目を瞬かせて、何かと思い、相手を見やれば、相手はただ冷たい声で言葉を、漸く口にする。
「自害しろ」
その声は酷く淡泊な癖に感情が籠もっていて。
陽炎は少し呆気にとられたが、口の端をつり上げて、相手に挑発するように声をかけてみる。
「――それは、無理な話だな? 殺し屋か?」
「自害しろ」
「なぁ、これはどの星座のどんな能力かな。この二人がこんな不自然に気絶するなんて、隠された黄道十二宮の力なんだろうな。……お前は知ってるか? プラネタリウムっていう存在」
「……自害しろ」
相手はテープレコーダーのように、同じ言葉しか繰り返さない。
「――自害しなかったら、殺すのか? こう見えても、俺はそれなりに戦えるよ」
好戦的に陽炎が短剣を手に取り、笑いかけると、鬼面の青年は戦闘をしかけてきた。
相手はどうやら鉄の甲をはめてるようで、通常より重い拳が己の頬をかすったが、陽炎はまるで男が最初から己に当てるつもりはないのを読んでいたかのように一切微動だにせず、にこにことしている。
鬼面の男は殺意がないのがばれると、舌打ちをして去っていく。
窓から飛び降りたので、思わず驚いて、おい! と声をかけながら外を見やるが、彼はもう居ない。
ただ、聞こえるのは――。
“お許しを。お許しを、主(しゅ)よ――。我が夜空の神よ――。どうか、どうかお許しください、貴方に仕えないことをお許しください、我が主よ――。主よ、貴方が望むのなら夜だけは平穏にします。黒雪様にも決してばれない細工です。何かをお話しされるのならば、今度から夜の十二時以降に――。主よ、お許しを、お許しを! 私はあの悪魔が恐ろしいのです! あの悪魔に逆らって貴方と許し無く会うのが恐ろしい! あの悪魔が貴方に何をするのか……怖いのです”
女性のすすり泣き……。
陽炎は、この声の主がきっと今鴉座たちに何かした、黄道十二宮なのだと感じて、夜空に笑いかける。
「許してやらないから、ちゃんと夜の平穏をくれながら、かくれんぼするんだよ? 任せたぜ、黄道十二宮の誰か」
――すすり泣きに、少し笑い声が交じったような気がして、陽炎は少し安心した。
「多分ね。普通の妖術を学んで普通の妖術を得て、普通の外見で忠誠代わりでも冗談でもいいから黒雪に“親「愛」なる陛下”とか言っちゃえば……柘榴は、黒雪を殺せる。これが、長年言えなかった俺と柘榴の計画。いや、俺は正確に言えば、こっちに来てから柘榴の計画を理解出来た、んだろうなぁ――。多分、調べてくれると信じてくれて……でも柘榴のことだから違うかも知れないけれど」
「陽炎、珍しくお前は……柘榴の心配をしないんだな」
蟹座が言いにくそうにそう言うと、陽炎は、少しぬるくなったホットレモンを両手から机において、何とも苦しそうな笑みを浮かべた。
何と言えばいいのだろうか、この悲壮の主人に。
陽炎は、二人に笑みを浮かべた後、嫉妬しないよな? と、二人の気持ちを聞いてから、何も言えなくなった蟹座の代わりに「努力いたします」と返事をした鴉座に視線を向けてから、有難う、と頷く。
「あのな、俺はな、例えばこの世界で一番何が大事かと問われたら、即座に柘榴と答えられる。その感情は友情だと思っていた」
陽炎はかぶりをふり、嘆息をついた。
「だけど、最近判らないんだ。早く来て欲しいと、あんなにも願ってたし、鷲座が来てくれたのも嬉しかった。だけど、実際この街に柘榴が居るのを考えると、……ガンジラニーニだとばれるのを考えると、怖くて怖くて堪らない。目の前で、処刑されたら? 目の前で虐められてそれを止めたら計画も、知り合いだっていうのもばれる。……――そこまでしなくてもいいよって言いたい。城下街にいって、そう教えに行きたい。だって、俺が我慢すればいい話だって思った。三年前、意固地になって皆で暮らしたいなんて思わなければ、柘榴は普通に人にとけ込んで生きられたんだ――。嗚呼、でも俺と出会わなければ、なんて考えないぜ? そこまで俺は優しくないし? でもな――……柘榴が、失敗して目の前で処刑されるとする。こうやって口にするだけで、怖さで泣きそうな感情になるのは何だろうって思った。しっくり来たのが――むかつくことに、黒雪に攫われたとき、言われた初恋途中、なんだろうなって。おかしいよな、あれだけノンケって言い続けていたのに、初恋が柘榴だなんて! 俺は初恋は済ませたはずなのになぁ」
陽炎は、ははっと笑ってから、頭をがしがしとかきむしり、嗚呼もうとため息をつく。
それから机に両腕を置いて、拗ねたような顔つきで言葉を続ける。
彼らを信じて。なるべく嫉妬しないと約束した彼らを信じて。
何より、正直に己の気持ちを言った方が、彼らの真面目な気持ちへの応えになりそうな気がして。
「止めたい。今すぐに、あいつを止めたい。でも、止めたら、あいつは一生俺を許してくれない。止められるぐらいなら、ガンジラニーニとばれたって平気って笑いそうな気がして。処刑された方が苦しむ俺を見なくて済むって笑いそうで。――……くそっ、あいつ、卑怯だよ。俺より卑怯だ! いっつもへらへらしてるから、そういうイメージしかくれない! 助けてくれって頼むあいつが思い浮かばねぇの! 三年前だって、あいつ――呪いで弱ってたのに、頼らずにいこうと思ったら怒ったし……――だから、もう俺はね、心配しちゃいけねーんだよ、きっと。信じ切らないといけないんだ。成功以外考えちゃ……いけないんだ」
「…………――本当に、酷い奴だ。あの果物は。長年思っていた私から、貴方を突如、また攫う……」
「暴走するなよ、鴉」
「判ってる、お前こそ。蟹座」
ただ、他の一般人だったならば、鴉座や蟹座は即座に暴走していただろう。
思い人が一般人だったなら、思い人のやや意中の人が一般人だったならば。
彼らの関係も、そして彼らの環境も知ってしまった今だからこそ、それはただの憎まれ口を叩く嫉妬ぐらいで済んでいる。
何より、柘榴が酷く己には危険な状況だというのに、それでも陽炎を助けるために頑張っているのが判ったから、それならば思われても仕方ないと悔しくも思ってしまう。
そういえば、柘榴は黒雪に売られた筈――それは、ガンジラニーニだからだろうか。それを確かめようと鴉座は聞くが、そこは陽炎も知らないのか、首を振って「あいつは秘密だらけだ」と口にする。
その時、陽炎は何者かの気配を感じ取ったのか、蟹座に声をかけて、窓の方へ警戒するよう視線を向ける。
蟹座は即座に動こうとする……だが、蟹座は何故か移動途中で倒れ込んでしまい、ふと鴉座も気づけば机の上に顔をがたんとぶつけて、気を失ったように――眠っている。
陽炎は状況についていけず、とりあえず、窓辺に立つ――東洋の劇に出てきそうな鬼の面と、東洋の不思議な……和装のような赤と黒に包まれた衣服の男を見やる。
髪の毛は面で隠されてる顔と一緒に、大きくて派手な赤いカツラのせいで、判らない。
陽炎は、せめてもの武器にと思って、そこにあったペーパーナイフを手にしようとするが前に、からん、と自分の前に短剣が与えられるように放り投げられた。
陽炎は目を瞬かせて、何かと思い、相手を見やれば、相手はただ冷たい声で言葉を、漸く口にする。
「自害しろ」
その声は酷く淡泊な癖に感情が籠もっていて。
陽炎は少し呆気にとられたが、口の端をつり上げて、相手に挑発するように声をかけてみる。
「――それは、無理な話だな? 殺し屋か?」
「自害しろ」
「なぁ、これはどの星座のどんな能力かな。この二人がこんな不自然に気絶するなんて、隠された黄道十二宮の力なんだろうな。……お前は知ってるか? プラネタリウムっていう存在」
「……自害しろ」
相手はテープレコーダーのように、同じ言葉しか繰り返さない。
「――自害しなかったら、殺すのか? こう見えても、俺はそれなりに戦えるよ」
好戦的に陽炎が短剣を手に取り、笑いかけると、鬼面の青年は戦闘をしかけてきた。
相手はどうやら鉄の甲をはめてるようで、通常より重い拳が己の頬をかすったが、陽炎はまるで男が最初から己に当てるつもりはないのを読んでいたかのように一切微動だにせず、にこにことしている。
鬼面の男は殺意がないのがばれると、舌打ちをして去っていく。
窓から飛び降りたので、思わず驚いて、おい! と声をかけながら外を見やるが、彼はもう居ない。
ただ、聞こえるのは――。
“お許しを。お許しを、主(しゅ)よ――。我が夜空の神よ――。どうか、どうかお許しください、貴方に仕えないことをお許しください、我が主よ――。主よ、貴方が望むのなら夜だけは平穏にします。黒雪様にも決してばれない細工です。何かをお話しされるのならば、今度から夜の十二時以降に――。主よ、お許しを、お許しを! 私はあの悪魔が恐ろしいのです! あの悪魔に逆らって貴方と許し無く会うのが恐ろしい! あの悪魔が貴方に何をするのか……怖いのです”
女性のすすり泣き……。
陽炎は、この声の主がきっと今鴉座たちに何かした、黄道十二宮なのだと感じて、夜空に笑いかける。
「許してやらないから、ちゃんと夜の平穏をくれながら、かくれんぼするんだよ? 任せたぜ、黄道十二宮の誰か」
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