【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

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第三部――序章 滑稽な次期王の一人きりによる懺悔劇

第五話 世界が怯えた悲劇を抱える男

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「鷲座が……来たの、ですか。ついに? じゃあ、果物は……」
「そうだ、柘榴が来るんだよッ! 専用妖術師になれそうな腕になったんだよ! 嫌いな妖術と向き合う勇気が出来たんだよ!」
「――そうですか。鷲座は、その、此方に来たとき何か変わった様子などは……?」

 夜に、鴉座は戻り、夜会議を久々に行う。それまでは、黒雪が何処で聞いてるか判らなかったからというのもあったのだが、鴉座の三年間観察した最近の傾向では、しっかりと決まった時間に眠らされている様子で、妖術も陽炎の時や国の何かに使うとき以外は禁止されてるようだ。
 それ故に、今夜、鷲座と会えたからこその今夜、会議をすることに。
 そんな黒雪の事情も関係なしに、陽炎は今日の衝動ならばやりたかっただろうが、鴉座の許可も出たのでこうして公に叫べる。
 あまり大声を出すと、蟹座が五月蠅いと己に刃物の指先を向けるが。

「変わった様子――何か、プラネタリウムにあったのか?」
「……――仕組みがね、少し変わってしまったようですよ。一回、私は己の巣窟に戻り、ようく中を見てみたらね、やはり黒雪は弄っているようです。でもね、彼の恐ろしいところはそこじゃない。普通ならば、自分を第二主人にするまでしか弄れない筈なのです。――だが彼は第二主人ではなく、ただ私や新しい星座、それから他の者はまだ判らないのですが、彼に対する恐怖心だけを埋め込んで、行動を制限させている……恐怖だけによって、逆らえなくさせている」
「……――ほう、お前も怖いのか?」
「蟹座、貴方は神経が図太いから、余計にそういう属性には敏感ではないんでしょう。繊細な人ほどかかりやすいと思ったのですけれどね、鷲座は違うのですね。鷲座に恐怖が無いと言うのは、かなりあちらにとっては安心できる材料かと」

 蟹座がにやにやと笑うので鴉座は苛つく衝動を抑えながらも、にこりと微笑んで、陽炎へ安心材料を教える。
 陽炎は、その日はずっと嬉しげだったが、今度は鷲座と再会できたくらいに心から嬉しそうに安堵し、そうか、と頷き子供のように無邪気に微笑んだ。
 陽炎がそこまで破顔する姿なんて、この三年で暫く見ては居なかった。陽炎は何処にいても心から笑う事なんて――出来るわけがなく。だからこそ、この笑みを再び目に出来た時の鴉座と蟹座の感動は、険悪な二人が互いに目配せをして苦笑をしあってしまうほどだった。
 そこで、悪役というか、憎まれ役を買うのが蟹座の役目だと蟹座は心得ているので、それで、と陽炎に問いつめる。
 陽炎は、表情をきょとんとさせて、何だよと首を傾げてホットレモンを飲む。
 鴉座は夜に紅茶は眠れなくなるからやめろと止めたのだが、今日だけは眠りにつくのが遅くたっていいと陽炎が駄々をこねたので、ホットレモンで妥協してもらったのだ。


「オレ達は手の内を明かしたぞ。陽炎、柘榴について話して貰おうか?」
「まだ全部明かしてないだろう?」
「何を? これ以上話すことは――」
「黒雪は、プラネタリウムを弄って何を企んでいる? 黄道十二宮と、自分の下克上の可能性無くし。もう一つ狙っているような気がする」


 陽炎は記憶と痛みを消されても、何かをされているのだろうというのは知っている。
 そして国が、黄道十二宮の力を得たがっていることも知っている。
 国の利益を求める黒雪ならば、それには応えそうなのだが、それと同時に何かを生み出して「嗚呼、手元が狂ったんだ」で誤魔化しそうな気がして。

(――かげ君、妖術オタクは自分に何か得がないと何もしないんだよ)

 柘榴の忠告を脳内に思い出してから、目を細めて、二人に今度は陽炎が問いつめる。


「俺は、何を作らされようとしているんだ?」
「――貴方はね、本当に夜空には星にしか興味がないのですね。小さき星以外に何がありますか、夜空には」
「……月」
 そういうことです、と鴉座は呟いてから、月についての説明を蟹座にさせる。己は、月など知らないから。表に出て関わったこともないし、月に関してはプラネタリウムの中からは見られないのだ。


「――月は、プラネタリウムの主人には従わん。オレら星座とは、在り方が違う」
「能力は?」
「全て持っている。合わせ技が出来るからこの世で出来んことはない。星座全てを作るより、そいつ一人居た方が楽だし、作るのは難しいが全員集めるよりお手頃。月が居れば、本当に何もかもが叶えられる。――だが、……月の困ったところは、主人には必ず愛属性の癖に、己を作る決め手となった痛み虫を与えた奴の願いを叶えて、そいつには逆らえない。主人としてではなく、ただの力で恵んでやる感覚でな。だがどうやって作られるか、覚えてない――通常の作り方ではなかった気がするんだ……卵、そう卵がいる」
「太陽は? 月があるんなら、太陽があるんだろ? 太陽は?」
「太陽は、星座の存在を全て消して――……己だけが生まれる。力は月と同じで星座全ての力を持っているが、主人には絶対に忠実属性である代わりに、主人以外の者を敵視していて近づくもの全て追い払い、殺し独占する――」
「昔のお前らみたいだな」


 黙り込む二人に、陽炎は冗談だよ、と言ってから、酷い冗談を言ったのだと気づき、しょうがなしに、柘榴の秘密を打ち明けることにする。
 それは確信を得たわけではない。だが、だが昔の会話と調べた書物に書かれている事がほぼ一致して、柘榴がやけに妖術を嫌う理由も納得出来てしまうのだ。
 そして、――妖術を昔、やっていたという理由も。

「柘榴はね、ガンジラニーニの血を持っている」
「がんじらにーに?」
「プラネタリウムを作るのに、人一人の力や朝昼働いてる奴らだけでどうにかなると思う? ガンジラニーニはな、夜にしか生きられない民族で、それ故にプラネタリウムを作るのに協力したんだよ。星の位置も、何の星があるかも知ってるから。嗚呼、あの妖術がかかってる方じゃなくて……昔、沢山あった施設の方のプラネタリウム。まぁ妖術の方はそれを元にしてるからかもだから、どっちみちガンジラニーニのお陰だろう、プラネタリウムが存在するのは」


 二人が嫌そうな顔をするのを見ると陽炎は苦笑して、そういう顔をするから話したくなかったのだと心の中で教えるが、もう話してしまった以上最後まで聞かねば彼らは納得しないだろうと考え、話を続ける。

「ガンジラニーニは青白い肌で、誰から見ても生きた屍としか見えない色素だったんだってさ。それ故に人々に迫害された民族だ。何より、太陽の下では生きられないから――太陽の熱が熱すぎて彼らには耐えられなかったようだ――、夜にだけ働く民族だから余計に恐れられて迫害された……民族なんだよ」
「ちょっとお待ちください。それならば、どうして柘榴は日の下でも……それに褐色肌ですよ!?」
「まぁ、続きを聞けよ」


 陽炎は、本人の居ない所で彼の正体を口にするのが心地悪いのか、苦い顔をして、暖まる筈のホットレモンを口にするが、全然暖まらない心を感じた。


「ガンジラニーニは、そうやって恐れられた民族だからな、いきなり迫害してきた奴にプラネタリウム作るから手伝ってーって言われても頷くわけない。だから、世界中がもう迫害しないというサインをして、それを得てからプラネタリウムを作った……此処は、書物にないが、民族や王族に伝わる忌まわしい話なんだって」
「……――何故忌まわしいのですか?」


 陽炎は、ため息をついて、柘榴の今までの振る舞いや言葉を思い出す。
 それだけ凄惨な過去や、生き様をしてきた民族なのに、どうしてああまで人に拘って生きて行けたのだろう。迫害なんて、己以上にされてきただろうに、強く強く彼は生きて、彼はまっすぐと生きていた。普通に人付き合いをしてきた。人に怯えることもしないで。
 己より年下なのに。
 だからこそ、彼の今まで言ってきた言葉は、より重みを増して、己を励ませる。
 体験者の言葉だからこそ。逃げるな、と言った彼の言葉を思い出す。

「プラネタリウムが完成した日、そのサインされた紙が全て燃やされ、または破られた。ガンジラニーニはそのサインのことを知ってる同胞を見せしめに一人殺されて、功績を忘れろと脅された。……――そして、徐々に迫害どころか民族を減らされて。世界中からリンチくらったわけさ。中には、ガンジラニーニを生かさなければ! という人たちも居たけれど、大きな力に小さな人々は勝てない。だから、ガンジラニーニは……世界最高峰と言われる妖術師に、ガンジラニーニの誇りを捨てても生きたいと願う者も居るから、この体質をどうにかしてくれと頼んだ」

 黙り込む二人に陽炎は言葉を続ける。

「悲劇はまだ続くんだよ。その妖術師がガンジラニーニの娘に惚れてしまってね、妖術師はガンジラニーニへ生き残るために、肌色を誤魔化す術と、他の人と同じように昼間でも生きられる術を教えた。それからこれは憶測だけど、襲われたときのために彼らの為だけの妖術も考え出した。柘榴が妖術嫌いなのに、妖術を習ったことがあるってことを聞く限りでは。きっと黒雪には思いつかないだろう数式なんだろうなって思う。ガンジラニーニの妖術を使ったのを聞いたことがないからね」
「美談ではないか。悲劇が何処に――」
「世界に伝わるガンジラニーニの伝説を教えようか、どう言われているか。ガンジラニーニは生きた屍であり、月夜と戯れる聖霊。人にあらず。愛を囁かれたら、その愛を囁かれた人は死に神に嫉妬されて殺されるだろう。屍を管理するのは、死に神だけだから――」

 鴉座は少し、考えた後、本気で人間を疎むような顔つきで、陽炎へ己の考えた悲劇の理由を答え合わせに言ってみる。
 「その妖術師が、彼らの知らない間に、呪いを仕掛けた――? 惚れた娘や、その娘の血族が他の者へ、恋愛出来ぬように……?」
「……――柘榴なんて、特にその惚れられた娘の血を強く強く引くんだ……青いカードを覚えてるか? あれが証拠だ――保護者がいる」
「……――星座にも、妖術にも厳しい理由が分かったが……スッキリとはしない話だな」

 蟹座はため息をついて、予測してみる。
 世界最高峰であり、彼らのためだけの妖術を考え出せて、その妖術はガンジラニーニ以外には使えないような数式を作り出せる人物。
 きっと、プラネタリウムに妖術をかけた人物だろう。
 嫌われるのも当然だ。昔の主人のこともあるだろうが。元から好かれようとは思っては居なかったが、己を個人として見て嫌いなわけではなく、原因だからこそ嫌われるのは何処か釈然と行かないが。

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