113 / 358
第三部――序章 滑稽な次期王の一人きりによる懺悔劇
第五話 世界が怯えた悲劇を抱える男
しおりを挟む
「鷲座が……来たの、ですか。ついに? じゃあ、果物は……」
「そうだ、柘榴が来るんだよッ! 専用妖術師になれそうな腕になったんだよ! 嫌いな妖術と向き合う勇気が出来たんだよ!」
「――そうですか。鷲座は、その、此方に来たとき何か変わった様子などは……?」
夜に、鴉座は戻り、夜会議を久々に行う。それまでは、黒雪が何処で聞いてるか判らなかったからというのもあったのだが、鴉座の三年間観察した最近の傾向では、しっかりと決まった時間に眠らされている様子で、妖術も陽炎の時や国の何かに使うとき以外は禁止されてるようだ。
それ故に、今夜、鷲座と会えたからこその今夜、会議をすることに。
そんな黒雪の事情も関係なしに、陽炎は今日の衝動ならばやりたかっただろうが、鴉座の許可も出たのでこうして公に叫べる。
あまり大声を出すと、蟹座が五月蠅いと己に刃物の指先を向けるが。
「変わった様子――何か、プラネタリウムにあったのか?」
「……――仕組みがね、少し変わってしまったようですよ。一回、私は己の巣窟に戻り、ようく中を見てみたらね、やはり黒雪は弄っているようです。でもね、彼の恐ろしいところはそこじゃない。普通ならば、自分を第二主人にするまでしか弄れない筈なのです。――だが彼は第二主人ではなく、ただ私や新しい星座、それから他の者はまだ判らないのですが、彼に対する恐怖心だけを埋め込んで、行動を制限させている……恐怖だけによって、逆らえなくさせている」
「……――ほう、お前も怖いのか?」
「蟹座、貴方は神経が図太いから、余計にそういう属性には敏感ではないんでしょう。繊細な人ほどかかりやすいと思ったのですけれどね、鷲座は違うのですね。鷲座に恐怖が無いと言うのは、かなりあちらにとっては安心できる材料かと」
蟹座がにやにやと笑うので鴉座は苛つく衝動を抑えながらも、にこりと微笑んで、陽炎へ安心材料を教える。
陽炎は、その日はずっと嬉しげだったが、今度は鷲座と再会できたくらいに心から嬉しそうに安堵し、そうか、と頷き子供のように無邪気に微笑んだ。
陽炎がそこまで破顔する姿なんて、この三年で暫く見ては居なかった。陽炎は何処にいても心から笑う事なんて――出来るわけがなく。だからこそ、この笑みを再び目に出来た時の鴉座と蟹座の感動は、険悪な二人が互いに目配せをして苦笑をしあってしまうほどだった。
そこで、悪役というか、憎まれ役を買うのが蟹座の役目だと蟹座は心得ているので、それで、と陽炎に問いつめる。
陽炎は、表情をきょとんとさせて、何だよと首を傾げてホットレモンを飲む。
鴉座は夜に紅茶は眠れなくなるからやめろと止めたのだが、今日だけは眠りにつくのが遅くたっていいと陽炎が駄々をこねたので、ホットレモンで妥協してもらったのだ。
「オレ達は手の内を明かしたぞ。陽炎、柘榴について話して貰おうか?」
「まだ全部明かしてないだろう?」
「何を? これ以上話すことは――」
「黒雪は、プラネタリウムを弄って何を企んでいる? 黄道十二宮と、自分の下克上の可能性無くし。もう一つ狙っているような気がする」
陽炎は記憶と痛みを消されても、何かをされているのだろうというのは知っている。
そして国が、黄道十二宮の力を得たがっていることも知っている。
国の利益を求める黒雪ならば、それには応えそうなのだが、それと同時に何かを生み出して「嗚呼、手元が狂ったんだ」で誤魔化しそうな気がして。
(――かげ君、妖術オタクは自分に何か得がないと何もしないんだよ)
柘榴の忠告を脳内に思い出してから、目を細めて、二人に今度は陽炎が問いつめる。
「俺は、何を作らされようとしているんだ?」
「――貴方はね、本当に夜空には星にしか興味がないのですね。小さき星以外に何がありますか、夜空には」
「……月」
そういうことです、と鴉座は呟いてから、月についての説明を蟹座にさせる。己は、月など知らないから。表に出て関わったこともないし、月に関してはプラネタリウムの中からは見られないのだ。
「――月は、プラネタリウムの主人には従わん。オレら星座とは、在り方が違う」
「能力は?」
「全て持っている。合わせ技が出来るからこの世で出来んことはない。星座全てを作るより、そいつ一人居た方が楽だし、作るのは難しいが全員集めるよりお手頃。月が居れば、本当に何もかもが叶えられる。――だが、……月の困ったところは、主人には必ず愛属性の癖に、己を作る決め手となった痛み虫を与えた奴の願いを叶えて、そいつには逆らえない。主人としてではなく、ただの力で恵んでやる感覚でな。だがどうやって作られるか、覚えてない――通常の作り方ではなかった気がするんだ……卵、そう卵がいる」
「太陽は? 月があるんなら、太陽があるんだろ? 太陽は?」
「太陽は、星座の存在を全て消して――……己だけが生まれる。力は月と同じで星座全ての力を持っているが、主人には絶対に忠実属性である代わりに、主人以外の者を敵視していて近づくもの全て追い払い、殺し独占する――」
「昔のお前らみたいだな」
黙り込む二人に、陽炎は冗談だよ、と言ってから、酷い冗談を言ったのだと気づき、しょうがなしに、柘榴の秘密を打ち明けることにする。
それは確信を得たわけではない。だが、だが昔の会話と調べた書物に書かれている事がほぼ一致して、柘榴がやけに妖術を嫌う理由も納得出来てしまうのだ。
そして、――妖術を昔、やっていたという理由も。
「柘榴はね、ガンジラニーニの血を持っている」
「がんじらにーに?」
「プラネタリウムを作るのに、人一人の力や朝昼働いてる奴らだけでどうにかなると思う? ガンジラニーニはな、夜にしか生きられない民族で、それ故にプラネタリウムを作るのに協力したんだよ。星の位置も、何の星があるかも知ってるから。嗚呼、あの妖術がかかってる方じゃなくて……昔、沢山あった施設の方のプラネタリウム。まぁ妖術の方はそれを元にしてるからかもだから、どっちみちガンジラニーニのお陰だろう、プラネタリウムが存在するのは」
二人が嫌そうな顔をするのを見ると陽炎は苦笑して、そういう顔をするから話したくなかったのだと心の中で教えるが、もう話してしまった以上最後まで聞かねば彼らは納得しないだろうと考え、話を続ける。
「ガンジラニーニは青白い肌で、誰から見ても生きた屍としか見えない色素だったんだってさ。それ故に人々に迫害された民族だ。何より、太陽の下では生きられないから――太陽の熱が熱すぎて彼らには耐えられなかったようだ――、夜にだけ働く民族だから余計に恐れられて迫害された……民族なんだよ」
「ちょっとお待ちください。それならば、どうして柘榴は日の下でも……それに褐色肌ですよ!?」
「まぁ、続きを聞けよ」
陽炎は、本人の居ない所で彼の正体を口にするのが心地悪いのか、苦い顔をして、暖まる筈のホットレモンを口にするが、全然暖まらない心を感じた。
「ガンジラニーニは、そうやって恐れられた民族だからな、いきなり迫害してきた奴にプラネタリウム作るから手伝ってーって言われても頷くわけない。だから、世界中がもう迫害しないというサインをして、それを得てからプラネタリウムを作った……此処は、書物にないが、民族や王族に伝わる忌まわしい話なんだって」
「……――何故忌まわしいのですか?」
陽炎は、ため息をついて、柘榴の今までの振る舞いや言葉を思い出す。
それだけ凄惨な過去や、生き様をしてきた民族なのに、どうしてああまで人に拘って生きて行けたのだろう。迫害なんて、己以上にされてきただろうに、強く強く彼は生きて、彼はまっすぐと生きていた。普通に人付き合いをしてきた。人に怯えることもしないで。
己より年下なのに。
だからこそ、彼の今まで言ってきた言葉は、より重みを増して、己を励ませる。
体験者の言葉だからこそ。逃げるな、と言った彼の言葉を思い出す。
「プラネタリウムが完成した日、そのサインされた紙が全て燃やされ、または破られた。ガンジラニーニはそのサインのことを知ってる同胞を見せしめに一人殺されて、功績を忘れろと脅された。……――そして、徐々に迫害どころか民族を減らされて。世界中からリンチくらったわけさ。中には、ガンジラニーニを生かさなければ! という人たちも居たけれど、大きな力に小さな人々は勝てない。だから、ガンジラニーニは……世界最高峰と言われる妖術師に、ガンジラニーニの誇りを捨てても生きたいと願う者も居るから、この体質をどうにかしてくれと頼んだ」
黙り込む二人に陽炎は言葉を続ける。
「悲劇はまだ続くんだよ。その妖術師がガンジラニーニの娘に惚れてしまってね、妖術師はガンジラニーニへ生き残るために、肌色を誤魔化す術と、他の人と同じように昼間でも生きられる術を教えた。それからこれは憶測だけど、襲われたときのために彼らの為だけの妖術も考え出した。柘榴が妖術嫌いなのに、妖術を習ったことがあるってことを聞く限りでは。きっと黒雪には思いつかないだろう数式なんだろうなって思う。ガンジラニーニの妖術を使ったのを聞いたことがないからね」
「美談ではないか。悲劇が何処に――」
「世界に伝わるガンジラニーニの伝説を教えようか、どう言われているか。ガンジラニーニは生きた屍であり、月夜と戯れる聖霊。人にあらず。愛を囁かれたら、その愛を囁かれた人は死に神に嫉妬されて殺されるだろう。屍を管理するのは、死に神だけだから――」
鴉座は少し、考えた後、本気で人間を疎むような顔つきで、陽炎へ己の考えた悲劇の理由を答え合わせに言ってみる。
「その妖術師が、彼らの知らない間に、呪いを仕掛けた――? 惚れた娘や、その娘の血族が他の者へ、恋愛出来ぬように……?」
「……――柘榴なんて、特にその惚れられた娘の血を強く強く引くんだ……青いカードを覚えてるか? あれが証拠だ――保護者がいる」
「……――星座にも、妖術にも厳しい理由が分かったが……スッキリとはしない話だな」
蟹座はため息をついて、予測してみる。
世界最高峰であり、彼らのためだけの妖術を考え出せて、その妖術はガンジラニーニ以外には使えないような数式を作り出せる人物。
きっと、プラネタリウムに妖術をかけた人物だろう。
嫌われるのも当然だ。昔の主人のこともあるだろうが。元から好かれようとは思っては居なかったが、己を個人として見て嫌いなわけではなく、原因だからこそ嫌われるのは何処か釈然と行かないが。
「そうだ、柘榴が来るんだよッ! 専用妖術師になれそうな腕になったんだよ! 嫌いな妖術と向き合う勇気が出来たんだよ!」
「――そうですか。鷲座は、その、此方に来たとき何か変わった様子などは……?」
夜に、鴉座は戻り、夜会議を久々に行う。それまでは、黒雪が何処で聞いてるか判らなかったからというのもあったのだが、鴉座の三年間観察した最近の傾向では、しっかりと決まった時間に眠らされている様子で、妖術も陽炎の時や国の何かに使うとき以外は禁止されてるようだ。
それ故に、今夜、鷲座と会えたからこその今夜、会議をすることに。
そんな黒雪の事情も関係なしに、陽炎は今日の衝動ならばやりたかっただろうが、鴉座の許可も出たのでこうして公に叫べる。
あまり大声を出すと、蟹座が五月蠅いと己に刃物の指先を向けるが。
「変わった様子――何か、プラネタリウムにあったのか?」
「……――仕組みがね、少し変わってしまったようですよ。一回、私は己の巣窟に戻り、ようく中を見てみたらね、やはり黒雪は弄っているようです。でもね、彼の恐ろしいところはそこじゃない。普通ならば、自分を第二主人にするまでしか弄れない筈なのです。――だが彼は第二主人ではなく、ただ私や新しい星座、それから他の者はまだ判らないのですが、彼に対する恐怖心だけを埋め込んで、行動を制限させている……恐怖だけによって、逆らえなくさせている」
「……――ほう、お前も怖いのか?」
「蟹座、貴方は神経が図太いから、余計にそういう属性には敏感ではないんでしょう。繊細な人ほどかかりやすいと思ったのですけれどね、鷲座は違うのですね。鷲座に恐怖が無いと言うのは、かなりあちらにとっては安心できる材料かと」
蟹座がにやにやと笑うので鴉座は苛つく衝動を抑えながらも、にこりと微笑んで、陽炎へ安心材料を教える。
陽炎は、その日はずっと嬉しげだったが、今度は鷲座と再会できたくらいに心から嬉しそうに安堵し、そうか、と頷き子供のように無邪気に微笑んだ。
陽炎がそこまで破顔する姿なんて、この三年で暫く見ては居なかった。陽炎は何処にいても心から笑う事なんて――出来るわけがなく。だからこそ、この笑みを再び目に出来た時の鴉座と蟹座の感動は、険悪な二人が互いに目配せをして苦笑をしあってしまうほどだった。
そこで、悪役というか、憎まれ役を買うのが蟹座の役目だと蟹座は心得ているので、それで、と陽炎に問いつめる。
陽炎は、表情をきょとんとさせて、何だよと首を傾げてホットレモンを飲む。
鴉座は夜に紅茶は眠れなくなるからやめろと止めたのだが、今日だけは眠りにつくのが遅くたっていいと陽炎が駄々をこねたので、ホットレモンで妥協してもらったのだ。
「オレ達は手の内を明かしたぞ。陽炎、柘榴について話して貰おうか?」
「まだ全部明かしてないだろう?」
「何を? これ以上話すことは――」
「黒雪は、プラネタリウムを弄って何を企んでいる? 黄道十二宮と、自分の下克上の可能性無くし。もう一つ狙っているような気がする」
陽炎は記憶と痛みを消されても、何かをされているのだろうというのは知っている。
そして国が、黄道十二宮の力を得たがっていることも知っている。
国の利益を求める黒雪ならば、それには応えそうなのだが、それと同時に何かを生み出して「嗚呼、手元が狂ったんだ」で誤魔化しそうな気がして。
(――かげ君、妖術オタクは自分に何か得がないと何もしないんだよ)
柘榴の忠告を脳内に思い出してから、目を細めて、二人に今度は陽炎が問いつめる。
「俺は、何を作らされようとしているんだ?」
「――貴方はね、本当に夜空には星にしか興味がないのですね。小さき星以外に何がありますか、夜空には」
「……月」
そういうことです、と鴉座は呟いてから、月についての説明を蟹座にさせる。己は、月など知らないから。表に出て関わったこともないし、月に関してはプラネタリウムの中からは見られないのだ。
「――月は、プラネタリウムの主人には従わん。オレら星座とは、在り方が違う」
「能力は?」
「全て持っている。合わせ技が出来るからこの世で出来んことはない。星座全てを作るより、そいつ一人居た方が楽だし、作るのは難しいが全員集めるよりお手頃。月が居れば、本当に何もかもが叶えられる。――だが、……月の困ったところは、主人には必ず愛属性の癖に、己を作る決め手となった痛み虫を与えた奴の願いを叶えて、そいつには逆らえない。主人としてではなく、ただの力で恵んでやる感覚でな。だがどうやって作られるか、覚えてない――通常の作り方ではなかった気がするんだ……卵、そう卵がいる」
「太陽は? 月があるんなら、太陽があるんだろ? 太陽は?」
「太陽は、星座の存在を全て消して――……己だけが生まれる。力は月と同じで星座全ての力を持っているが、主人には絶対に忠実属性である代わりに、主人以外の者を敵視していて近づくもの全て追い払い、殺し独占する――」
「昔のお前らみたいだな」
黙り込む二人に、陽炎は冗談だよ、と言ってから、酷い冗談を言ったのだと気づき、しょうがなしに、柘榴の秘密を打ち明けることにする。
それは確信を得たわけではない。だが、だが昔の会話と調べた書物に書かれている事がほぼ一致して、柘榴がやけに妖術を嫌う理由も納得出来てしまうのだ。
そして、――妖術を昔、やっていたという理由も。
「柘榴はね、ガンジラニーニの血を持っている」
「がんじらにーに?」
「プラネタリウムを作るのに、人一人の力や朝昼働いてる奴らだけでどうにかなると思う? ガンジラニーニはな、夜にしか生きられない民族で、それ故にプラネタリウムを作るのに協力したんだよ。星の位置も、何の星があるかも知ってるから。嗚呼、あの妖術がかかってる方じゃなくて……昔、沢山あった施設の方のプラネタリウム。まぁ妖術の方はそれを元にしてるからかもだから、どっちみちガンジラニーニのお陰だろう、プラネタリウムが存在するのは」
二人が嫌そうな顔をするのを見ると陽炎は苦笑して、そういう顔をするから話したくなかったのだと心の中で教えるが、もう話してしまった以上最後まで聞かねば彼らは納得しないだろうと考え、話を続ける。
「ガンジラニーニは青白い肌で、誰から見ても生きた屍としか見えない色素だったんだってさ。それ故に人々に迫害された民族だ。何より、太陽の下では生きられないから――太陽の熱が熱すぎて彼らには耐えられなかったようだ――、夜にだけ働く民族だから余計に恐れられて迫害された……民族なんだよ」
「ちょっとお待ちください。それならば、どうして柘榴は日の下でも……それに褐色肌ですよ!?」
「まぁ、続きを聞けよ」
陽炎は、本人の居ない所で彼の正体を口にするのが心地悪いのか、苦い顔をして、暖まる筈のホットレモンを口にするが、全然暖まらない心を感じた。
「ガンジラニーニは、そうやって恐れられた民族だからな、いきなり迫害してきた奴にプラネタリウム作るから手伝ってーって言われても頷くわけない。だから、世界中がもう迫害しないというサインをして、それを得てからプラネタリウムを作った……此処は、書物にないが、民族や王族に伝わる忌まわしい話なんだって」
「……――何故忌まわしいのですか?」
陽炎は、ため息をついて、柘榴の今までの振る舞いや言葉を思い出す。
それだけ凄惨な過去や、生き様をしてきた民族なのに、どうしてああまで人に拘って生きて行けたのだろう。迫害なんて、己以上にされてきただろうに、強く強く彼は生きて、彼はまっすぐと生きていた。普通に人付き合いをしてきた。人に怯えることもしないで。
己より年下なのに。
だからこそ、彼の今まで言ってきた言葉は、より重みを増して、己を励ませる。
体験者の言葉だからこそ。逃げるな、と言った彼の言葉を思い出す。
「プラネタリウムが完成した日、そのサインされた紙が全て燃やされ、または破られた。ガンジラニーニはそのサインのことを知ってる同胞を見せしめに一人殺されて、功績を忘れろと脅された。……――そして、徐々に迫害どころか民族を減らされて。世界中からリンチくらったわけさ。中には、ガンジラニーニを生かさなければ! という人たちも居たけれど、大きな力に小さな人々は勝てない。だから、ガンジラニーニは……世界最高峰と言われる妖術師に、ガンジラニーニの誇りを捨てても生きたいと願う者も居るから、この体質をどうにかしてくれと頼んだ」
黙り込む二人に陽炎は言葉を続ける。
「悲劇はまだ続くんだよ。その妖術師がガンジラニーニの娘に惚れてしまってね、妖術師はガンジラニーニへ生き残るために、肌色を誤魔化す術と、他の人と同じように昼間でも生きられる術を教えた。それからこれは憶測だけど、襲われたときのために彼らの為だけの妖術も考え出した。柘榴が妖術嫌いなのに、妖術を習ったことがあるってことを聞く限りでは。きっと黒雪には思いつかないだろう数式なんだろうなって思う。ガンジラニーニの妖術を使ったのを聞いたことがないからね」
「美談ではないか。悲劇が何処に――」
「世界に伝わるガンジラニーニの伝説を教えようか、どう言われているか。ガンジラニーニは生きた屍であり、月夜と戯れる聖霊。人にあらず。愛を囁かれたら、その愛を囁かれた人は死に神に嫉妬されて殺されるだろう。屍を管理するのは、死に神だけだから――」
鴉座は少し、考えた後、本気で人間を疎むような顔つきで、陽炎へ己の考えた悲劇の理由を答え合わせに言ってみる。
「その妖術師が、彼らの知らない間に、呪いを仕掛けた――? 惚れた娘や、その娘の血族が他の者へ、恋愛出来ぬように……?」
「……――柘榴なんて、特にその惚れられた娘の血を強く強く引くんだ……青いカードを覚えてるか? あれが証拠だ――保護者がいる」
「……――星座にも、妖術にも厳しい理由が分かったが……スッキリとはしない話だな」
蟹座はため息をついて、予測してみる。
世界最高峰であり、彼らのためだけの妖術を考え出せて、その妖術はガンジラニーニ以外には使えないような数式を作り出せる人物。
きっと、プラネタリウムに妖術をかけた人物だろう。
嫌われるのも当然だ。昔の主人のこともあるだろうが。元から好かれようとは思っては居なかったが、己を個人として見て嫌いなわけではなく、原因だからこそ嫌われるのは何処か釈然と行かないが。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
【完結】元魔王、今世では想い人を愛で倒したい!
N2O
BL
元魔王×元勇者一行の魔法使い
拗らせてる人と、猫かぶってる人のはなし。
Special thanks
illustration by ろ(x(旧Twitter) @OwfSHqfs9P56560)
※独自設定です。
※視点が変わる場合には、タイトルに◎を付けます。
超絶美麗な美丈夫のグリンプス ─見るだけで推定一億円の男娼でしたが、五倍の金を払ったら溺愛されて逃げられません─
藜-LAI-
BL
ヤスナの国に住む造り酒屋の三男坊で放蕩者のシグレは、友人からある日、なんでもその姿を見るだけで一億円に相当する『一千万ゼラ』が必要だという、昔話に準えて『一目千両』と呼ばれる高級娼婦の噂を聞く。
そんな中、シグレの元に想定外の莫大な遺産が入り込んだことで、『一目千両』を拝んでやろうと高級娼館〈マグノリア〉に乗り込んだシグレだったが、一瞬だけ相見えた『一目千両』ことビャクは、いけ好かない高慢ちきな美貌のオトコだった!?
あまりの態度の悪さに、なんとかして見る以外のことをさせようと、シグレは破格の『五千万ゼラ』を用意して再び〈マグノリア〉に乗り込んだのだが…
〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜
シグレ(26) 造り酒屋〈龍海酒造〉の三男坊
喧嘩と玄人遊びが大好きな放蕩者
ビャク(30〜32?) 高級娼館〈マグノリア〉の『一目千両』
ヤスナでは見かけない金髪と翠眼を持つ美丈夫
〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜
Rシーンは※をつけときます。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。

どこにでもある話と思ったら、まさか?
きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる