【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

文字の大きさ
上 下
111 / 358
第三部――序章 滑稽な次期王の一人きりによる懺悔劇

第三話 歪な玉座

しおりを挟む
 ――かつかつと、静かに歩く姿は雅やか。されど何処か不思議な空気が彼を好んで放さないので、彼には威圧感が漂う。
 後ろからついてくる女騎士。黒雪は女騎士が時折歩くのを止めて呼吸をゆっくりとしているのを見れば、足を止めて、大丈夫? との言葉は、態度で聞いてみる。
 首を傾げれば、平気? とのできあがり。
 女騎士はこくりと頷き、それから彼に倣って歩き、王室へと向かう。


「スノウブラック、十二宮は全部、まだ出てこないのか?」
「両陛下、お元気で何より、ご機嫌麗しゅう」
 両手をあわせる儀礼的な挨拶をしてから、スノウブラックは口元に穏やかに笑みを浮かべて、王様に返事をする。

「想像以上に苦戦しそうです」
「十二宮が出ればこの国は安泰だ。プラネタリウムを国宝としよう」
「それはおやめください」
 女騎士が無礼にも口を挟んできて、むすっとした面を隠しもせず、王様を見やる。
 王様を見た後は第一王妃も。第一王妃はつんとした顔で我が子を見た後、ついと視線をそらす。視線をそらされた黒雪は王様を見やるが、王様も黒雪の目は見ては居ない。

(――嗚呼こんなんで、オレ、本当に王様になれるかな。親子愛、感じられないね)

 そんな陰りを見せもせず、黒雪は両陛下にもう一度両手をあわせる挨拶をしてから、陽炎の衣服を破った布に包まれた黒玉を見せつける。

「彼らは非情に――デリケートでして。そういう扱いは、我が義弟が主人である限り、厭がるでしょうね。煙たがって逆に力を貸さなくなるかと」
「そんなのは簡単だ。次期国王のお前が主人になればいい」
「そうは簡単に言いますけれど、あれの怖さは赤蜘蛛の報告を聞けば判るでしょう? 何かあったときは自分だけではなく、この国事巻き込まれる可能性はありますよ」
「その時はお前は確かプラネタリウムの妖仔を研究してたな、消す方法も得たのだろう? 消せばいい」

 その言葉を聞いて怒っても決して荒ぶることなく、表情にも出さず、黒雪はサングラスに手をかける。
 そのサングラスをずらすように、半分下ろし目を見せて、両陛下に瞳を見せてチェシャ猫のようにもとより掴めない思考が更に掴めない笑い方をした。


「両陛下、妖仔を殺せと? 妖術を私が愛してるのはご存じでしょう?」
「妖仔とは元来、都合が悪くなれば消せるためにある」
「……両陛下。世界一の妖術師が作った妖仔を消す方法はまだ見つけてません」
「探せ」
「――御意に」

 儀礼的な仕草を見せればまたかろやかに出て行き、女騎士も義務的に礼をして出て行く。
 少し廊下を歩いたところで、黒雪はため息をつく。
 女騎士は、くつと笑うと、黒雪が反応して、何さと振り返る。

「悪鬼なら悪鬼らしく、消せばいい」
「冗談。オレの仔を消せるかい? 世にも可愛い妖仔との仔をさ――名前も決めてあるんだ。ウールなんてどうだろう」
 その言葉には女騎士は無反応で、黒雪を睨み付けるように見やっていたのに目が合うと、視線をすぐにそらし、苦虫を噛み潰したような顔をする。
 黒雪は彼女の額に手をやろうとしたが、近づけば震える彼女に諦めて、軽く頭を撫でてやってから、再び歩き出す。

「スノウブラック皇太子」
「何?」
「国王候補に嫌気を?」

 黒雪は歩む足をぴたりと止めて、肩を竦めさせてから、さぁねと呟いた。

「国王に一番相応しいのはオレだと思うよ」
「答えになってません。貴方がなりたいかどうかを訊いてるのです」
「星の回答によるかな。占星術だと、このままの道が安泰だっていってるんだよね。安泰のほうがそりゃいいさ――誰だって、明日しか考えられない生き方は実生活困る」
「――……第二皇子の話?」
「うん。このままじゃ破滅型。だから、オレが幸せを与えるんだ――月を、月を作らないと。月を作って、彼らを導かないと」
「スノウブラック皇太子、公務と違って幸せというのは押しつけないものです――この黒飴目玉」
「あはっ……そう、かなぁ。押しつけられたレールは歩いてみると、案外快適かもよ?」
「快適か? 『皇太子』」
「――……さぁね、と言っただろう」
 黒雪は不機嫌そうな声で、威圧感を強く漂わせ、さっさと自室に歩んだ。
 通り過ぎれば羨望と、陰口の両方。
 どいつもこいつも好き勝手言ってくれる。

(――国王に、ならなきゃいけないんだ)

「国の妖仔ね。妖術が使えるばかりに可哀想に」

(――生まれながらオレは国王の宿命を受けていたんだ。占星術でそうでている)

「スノウブラック皇太子だ! かっこいいなぁ、あんな人になりたいなぁ」

(――世の中には生まれたときから陽炎くんのように、捨てられてる子もいる。衣食住に一切困らないこの生活の何処が――)

「妖術ばかりにかまけた化け物さ」

(――何処が不満だっていうのさ、オレ)

「あんな王様になりたいなぁ」

(――王様に、ならないと)


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】元魔王、今世では想い人を愛で倒したい!

N2O
BL
元魔王×元勇者一行の魔法使い 拗らせてる人と、猫かぶってる人のはなし。 Special thanks illustration by ろ(x(旧Twitter) @OwfSHqfs9P56560) ※独自設定です。 ※視点が変わる場合には、タイトルに◎を付けます。

超絶美麗な美丈夫のグリンプス ─見るだけで推定一億円の男娼でしたが、五倍の金を払ったら溺愛されて逃げられません─

藜-LAI-
BL
ヤスナの国に住む造り酒屋の三男坊で放蕩者のシグレは、友人からある日、なんでもその姿を見るだけで一億円に相当する『一千万ゼラ』が必要だという、昔話に準えて『一目千両』と呼ばれる高級娼婦の噂を聞く。 そんな中、シグレの元に想定外の莫大な遺産が入り込んだことで、『一目千両』を拝んでやろうと高級娼館〈マグノリア〉に乗り込んだシグレだったが、一瞬だけ相見えた『一目千両』ことビャクは、いけ好かない高慢ちきな美貌のオトコだった!? あまりの態度の悪さに、なんとかして見る以外のことをさせようと、シグレは破格の『五千万ゼラ』を用意して再び〈マグノリア〉に乗り込んだのだが… 〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜 シグレ(26) 造り酒屋〈龍海酒造〉の三男坊 喧嘩と玄人遊びが大好きな放蕩者 ビャク(30〜32?) 高級娼館〈マグノリア〉の『一目千両』 ヤスナでは見かけない金髪と翠眼を持つ美丈夫 〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜 Rシーンは※をつけときます。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

どこにでもある話と思ったら、まさか?

きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

処理中です...