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第三部――序章 滑稽な次期王の一人きりによる懺悔劇
第三話 歪な玉座
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――かつかつと、静かに歩く姿は雅やか。されど何処か不思議な空気が彼を好んで放さないので、彼には威圧感が漂う。
後ろからついてくる女騎士。黒雪は女騎士が時折歩くのを止めて呼吸をゆっくりとしているのを見れば、足を止めて、大丈夫? との言葉は、態度で聞いてみる。
首を傾げれば、平気? とのできあがり。
女騎士はこくりと頷き、それから彼に倣って歩き、王室へと向かう。
「スノウブラック、十二宮は全部、まだ出てこないのか?」
「両陛下、お元気で何より、ご機嫌麗しゅう」
両手をあわせる儀礼的な挨拶をしてから、スノウブラックは口元に穏やかに笑みを浮かべて、王様に返事をする。
「想像以上に苦戦しそうです」
「十二宮が出ればこの国は安泰だ。プラネタリウムを国宝としよう」
「それはおやめください」
女騎士が無礼にも口を挟んできて、むすっとした面を隠しもせず、王様を見やる。
王様を見た後は第一王妃も。第一王妃はつんとした顔で我が子を見た後、ついと視線をそらす。視線をそらされた黒雪は王様を見やるが、王様も黒雪の目は見ては居ない。
(――嗚呼こんなんで、オレ、本当に王様になれるかな。親子愛、感じられないね)
そんな陰りを見せもせず、黒雪は両陛下にもう一度両手をあわせる挨拶をしてから、陽炎の衣服を破った布に包まれた黒玉を見せつける。
「彼らは非情に――デリケートでして。そういう扱いは、我が義弟が主人である限り、厭がるでしょうね。煙たがって逆に力を貸さなくなるかと」
「そんなのは簡単だ。次期国王のお前が主人になればいい」
「そうは簡単に言いますけれど、あれの怖さは赤蜘蛛の報告を聞けば判るでしょう? 何かあったときは自分だけではなく、この国事巻き込まれる可能性はありますよ」
「その時はお前は確かプラネタリウムの妖仔を研究してたな、消す方法も得たのだろう? 消せばいい」
その言葉を聞いて怒っても決して荒ぶることなく、表情にも出さず、黒雪はサングラスに手をかける。
そのサングラスをずらすように、半分下ろし目を見せて、両陛下に瞳を見せてチェシャ猫のようにもとより掴めない思考が更に掴めない笑い方をした。
「両陛下、妖仔を殺せと? 妖術を私が愛してるのはご存じでしょう?」
「妖仔とは元来、都合が悪くなれば消せるためにある」
「……両陛下。世界一の妖術師が作った妖仔を消す方法はまだ見つけてません」
「探せ」
「――御意に」
儀礼的な仕草を見せればまたかろやかに出て行き、女騎士も義務的に礼をして出て行く。
少し廊下を歩いたところで、黒雪はため息をつく。
女騎士は、くつと笑うと、黒雪が反応して、何さと振り返る。
「悪鬼なら悪鬼らしく、消せばいい」
「冗談。オレの仔を消せるかい? 世にも可愛い妖仔との仔をさ――名前も決めてあるんだ。ウールなんてどうだろう」
その言葉には女騎士は無反応で、黒雪を睨み付けるように見やっていたのに目が合うと、視線をすぐにそらし、苦虫を噛み潰したような顔をする。
黒雪は彼女の額に手をやろうとしたが、近づけば震える彼女に諦めて、軽く頭を撫でてやってから、再び歩き出す。
「スノウブラック皇太子」
「何?」
「国王候補に嫌気を?」
黒雪は歩む足をぴたりと止めて、肩を竦めさせてから、さぁねと呟いた。
「国王に一番相応しいのはオレだと思うよ」
「答えになってません。貴方がなりたいかどうかを訊いてるのです」
「星の回答によるかな。占星術だと、このままの道が安泰だっていってるんだよね。安泰のほうがそりゃいいさ――誰だって、明日しか考えられない生き方は実生活困る」
「――……第二皇子の話?」
「うん。このままじゃ破滅型。だから、オレが幸せを与えるんだ――月を、月を作らないと。月を作って、彼らを導かないと」
「スノウブラック皇太子、公務と違って幸せというのは押しつけないものです――この黒飴目玉」
「あはっ……そう、かなぁ。押しつけられたレールは歩いてみると、案外快適かもよ?」
「快適か? 『皇太子』」
「――……さぁね、と言っただろう」
黒雪は不機嫌そうな声で、威圧感を強く漂わせ、さっさと自室に歩んだ。
通り過ぎれば羨望と、陰口の両方。
どいつもこいつも好き勝手言ってくれる。
(――国王に、ならなきゃいけないんだ)
「国の妖仔ね。妖術が使えるばかりに可哀想に」
(――生まれながらオレは国王の宿命を受けていたんだ。占星術でそうでている)
「スノウブラック皇太子だ! かっこいいなぁ、あんな人になりたいなぁ」
(――世の中には生まれたときから陽炎くんのように、捨てられてる子もいる。衣食住に一切困らないこの生活の何処が――)
「妖術ばかりにかまけた化け物さ」
(――何処が不満だっていうのさ、オレ)
「あんな王様になりたいなぁ」
(――王様に、ならないと)
後ろからついてくる女騎士。黒雪は女騎士が時折歩くのを止めて呼吸をゆっくりとしているのを見れば、足を止めて、大丈夫? との言葉は、態度で聞いてみる。
首を傾げれば、平気? とのできあがり。
女騎士はこくりと頷き、それから彼に倣って歩き、王室へと向かう。
「スノウブラック、十二宮は全部、まだ出てこないのか?」
「両陛下、お元気で何より、ご機嫌麗しゅう」
両手をあわせる儀礼的な挨拶をしてから、スノウブラックは口元に穏やかに笑みを浮かべて、王様に返事をする。
「想像以上に苦戦しそうです」
「十二宮が出ればこの国は安泰だ。プラネタリウムを国宝としよう」
「それはおやめください」
女騎士が無礼にも口を挟んできて、むすっとした面を隠しもせず、王様を見やる。
王様を見た後は第一王妃も。第一王妃はつんとした顔で我が子を見た後、ついと視線をそらす。視線をそらされた黒雪は王様を見やるが、王様も黒雪の目は見ては居ない。
(――嗚呼こんなんで、オレ、本当に王様になれるかな。親子愛、感じられないね)
そんな陰りを見せもせず、黒雪は両陛下にもう一度両手をあわせる挨拶をしてから、陽炎の衣服を破った布に包まれた黒玉を見せつける。
「彼らは非情に――デリケートでして。そういう扱いは、我が義弟が主人である限り、厭がるでしょうね。煙たがって逆に力を貸さなくなるかと」
「そんなのは簡単だ。次期国王のお前が主人になればいい」
「そうは簡単に言いますけれど、あれの怖さは赤蜘蛛の報告を聞けば判るでしょう? 何かあったときは自分だけではなく、この国事巻き込まれる可能性はありますよ」
「その時はお前は確かプラネタリウムの妖仔を研究してたな、消す方法も得たのだろう? 消せばいい」
その言葉を聞いて怒っても決して荒ぶることなく、表情にも出さず、黒雪はサングラスに手をかける。
そのサングラスをずらすように、半分下ろし目を見せて、両陛下に瞳を見せてチェシャ猫のようにもとより掴めない思考が更に掴めない笑い方をした。
「両陛下、妖仔を殺せと? 妖術を私が愛してるのはご存じでしょう?」
「妖仔とは元来、都合が悪くなれば消せるためにある」
「……両陛下。世界一の妖術師が作った妖仔を消す方法はまだ見つけてません」
「探せ」
「――御意に」
儀礼的な仕草を見せればまたかろやかに出て行き、女騎士も義務的に礼をして出て行く。
少し廊下を歩いたところで、黒雪はため息をつく。
女騎士は、くつと笑うと、黒雪が反応して、何さと振り返る。
「悪鬼なら悪鬼らしく、消せばいい」
「冗談。オレの仔を消せるかい? 世にも可愛い妖仔との仔をさ――名前も決めてあるんだ。ウールなんてどうだろう」
その言葉には女騎士は無反応で、黒雪を睨み付けるように見やっていたのに目が合うと、視線をすぐにそらし、苦虫を噛み潰したような顔をする。
黒雪は彼女の額に手をやろうとしたが、近づけば震える彼女に諦めて、軽く頭を撫でてやってから、再び歩き出す。
「スノウブラック皇太子」
「何?」
「国王候補に嫌気を?」
黒雪は歩む足をぴたりと止めて、肩を竦めさせてから、さぁねと呟いた。
「国王に一番相応しいのはオレだと思うよ」
「答えになってません。貴方がなりたいかどうかを訊いてるのです」
「星の回答によるかな。占星術だと、このままの道が安泰だっていってるんだよね。安泰のほうがそりゃいいさ――誰だって、明日しか考えられない生き方は実生活困る」
「――……第二皇子の話?」
「うん。このままじゃ破滅型。だから、オレが幸せを与えるんだ――月を、月を作らないと。月を作って、彼らを導かないと」
「スノウブラック皇太子、公務と違って幸せというのは押しつけないものです――この黒飴目玉」
「あはっ……そう、かなぁ。押しつけられたレールは歩いてみると、案外快適かもよ?」
「快適か? 『皇太子』」
「――……さぁね、と言っただろう」
黒雪は不機嫌そうな声で、威圧感を強く漂わせ、さっさと自室に歩んだ。
通り過ぎれば羨望と、陰口の両方。
どいつもこいつも好き勝手言ってくれる。
(――国王に、ならなきゃいけないんだ)
「国の妖仔ね。妖術が使えるばかりに可哀想に」
(――生まれながらオレは国王の宿命を受けていたんだ。占星術でそうでている)
「スノウブラック皇太子だ! かっこいいなぁ、あんな人になりたいなぁ」
(――世の中には生まれたときから陽炎くんのように、捨てられてる子もいる。衣食住に一切困らないこの生活の何処が――)
「妖術ばかりにかまけた化け物さ」
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