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第二部――第六章 警鐘の鐘を鳴らせ
番外編――鷲座の憔悴と怒り
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闇の中、燃ゆる炎を後にし、再会に涙し肩を震わせる第二主人を遠目に、鷲座は木に腰掛けて、ぼうと炎を眺める。
「彼ら」は和解に成功した。
それはきっと喜ぶべき事である。自分にも、第二主人にも。
だが、その喜ばしい光景よりも、今やとても遠い地へ旅立ってしまった第一主人のどんな光景でもいいから視界に入れたくて。
(時折、思うのです)
鷲座は消火活動に努める体力専門の者たちを遠くに見やり、己は目を細めて炎を見つめる。
(時折、思うのです――もし、小生とあいつの羽の色が違うだけでも、貴方は小生を愛してくれましたか?)
その思いは、ほんの少しの八つ当たり。
自分が柘榴の方に置いて行かれた置き場のない怒り。
そして、それなのに過去酷いことをした彼らがついてくることを許した怒り。
蟹座は時間的に仕方なかったとはいえ、あの黒い羽の鳥は――……違う。
連れて行かれた理由が、鷲座には分からなかった。
「鷲、消火活動手伝え」
水を汲むのではなく招き寄せている魚座からそのような言葉が己に投げかけられた。
魚座は己の居る木の根本に居て、己は気配でさぼっているのに気づかれたのだろうと思った。
「魚座どの、君は悲しくはないですか?」
「何がじゃ」
「――もし妖仔じゃなかったら、愛して貰えたかも知れない。そう考えたことって、ありませんか――?」
あの光景、そう言って鷲座が示したのはかつての旧友たちが集い、陽炎のことについて話し合ってる光景。
柘榴はその中心地で色々確認し、現状を把握したり質問したりする。
それに答えるのは、女商人と、先ほどまで敵方だったハンター。
柘榴は隣にいる廃人状態から少し復活している友人の手を握り、何度も懐かしさを味わう。
その光景に悲しくないか、と聞いてるのではない。その光景に交じっている者に悲しくはないかと問うているのだ。
魚座は少し目元を赤くし、それでも強気に答える。
「――元から、ガンジラニーニと妖仔が結ばれる可能性は、低かった」
「そういって、負けた理由を決めつけるのですか」
「黙れ! そういう貴様こそなんじゃ、貴様とて選ばれなかったではないか!」
「――……やっぱりそういうことです、よね」
魚座は、口にした後苦い顔をしたが、撤回はしなかった。
その方が有難い。撤回された方が惨めな気分になるからだ。鷲座は、木から下りて、小さな翼を使う。
その翼から抜けた一本の羽を見て、鷲座は思う。
(例えばもしも、この羽が――真っ黒の、あいつのような羽色でしたら、君は)
(例えばもしも、小生が一番目の君の従者だったとしたら、君は――小生を選んでいた?)
「考えても仕方ないことばかり、考えてます」
「鷲の脳みそはそういう構造じゃからな、仕方なかろう。主人の知識を把握してしまう――常に主人が得た知識が脳を巡る。それが鷲の能力じゃからな」
「その知識が、ね。ずっと教えてくれるんですよ。こんな強制的に敗北を与える結果をくれた人物を――……スノウブラック」
鷲座は奥歯を噛みしめて、手のこぶしを強く握りしめる。
脳に過ぎるのは、陽炎を引っぱたいた瞬間の映像。
その時、怒り顔だった彼らの顔――。
微笑む黒雪の顔――。
「ねぇ、魚座。君に一つ聞きたい」
「何じゃ?」
「もしも、自分が物凄い力を手に入れるかも知れない。けれど、その代わりに自分が消えるかも知れない。そんなとき、どうしますか?」
「鷲――……?」
「その力で、あいつが消えたらとても楽しい――」
魚座には判らなかった。
そのあいつ、というのが鴉座を示すのか、それとも黒雪を示すのかは。
ただ判るのは、鷲座が――少し鷲座のようではなく見えるだけで。
「小さく、ね。声が聞こえるんです、プログラムから。君は変われる、君はあの方が傷つけば君は新しい君になる。力が得られるって――」
「鷲――」
「安心を。小生は、誰かから授かる力は、この能力だけで十分ですし、陽炎どのを傷つけたいとは思いません。ねぇ、魚座どの、頼みがあります」
「なんじゃ」
「これから先、少しづつ暴走していくと思いますが、その時はどうか君の手で止めてください――小生と、君は似てるから」
「……――不快だな、似てるなんぞ。でも了解したぞえ。よかろう、わらわがこぶしを作って殴ってやるわ」
「彼ら」は和解に成功した。
それはきっと喜ぶべき事である。自分にも、第二主人にも。
だが、その喜ばしい光景よりも、今やとても遠い地へ旅立ってしまった第一主人のどんな光景でもいいから視界に入れたくて。
(時折、思うのです)
鷲座は消火活動に努める体力専門の者たちを遠くに見やり、己は目を細めて炎を見つめる。
(時折、思うのです――もし、小生とあいつの羽の色が違うだけでも、貴方は小生を愛してくれましたか?)
その思いは、ほんの少しの八つ当たり。
自分が柘榴の方に置いて行かれた置き場のない怒り。
そして、それなのに過去酷いことをした彼らがついてくることを許した怒り。
蟹座は時間的に仕方なかったとはいえ、あの黒い羽の鳥は――……違う。
連れて行かれた理由が、鷲座には分からなかった。
「鷲、消火活動手伝え」
水を汲むのではなく招き寄せている魚座からそのような言葉が己に投げかけられた。
魚座は己の居る木の根本に居て、己は気配でさぼっているのに気づかれたのだろうと思った。
「魚座どの、君は悲しくはないですか?」
「何がじゃ」
「――もし妖仔じゃなかったら、愛して貰えたかも知れない。そう考えたことって、ありませんか――?」
あの光景、そう言って鷲座が示したのはかつての旧友たちが集い、陽炎のことについて話し合ってる光景。
柘榴はその中心地で色々確認し、現状を把握したり質問したりする。
それに答えるのは、女商人と、先ほどまで敵方だったハンター。
柘榴は隣にいる廃人状態から少し復活している友人の手を握り、何度も懐かしさを味わう。
その光景に悲しくないか、と聞いてるのではない。その光景に交じっている者に悲しくはないかと問うているのだ。
魚座は少し目元を赤くし、それでも強気に答える。
「――元から、ガンジラニーニと妖仔が結ばれる可能性は、低かった」
「そういって、負けた理由を決めつけるのですか」
「黙れ! そういう貴様こそなんじゃ、貴様とて選ばれなかったではないか!」
「――……やっぱりそういうことです、よね」
魚座は、口にした後苦い顔をしたが、撤回はしなかった。
その方が有難い。撤回された方が惨めな気分になるからだ。鷲座は、木から下りて、小さな翼を使う。
その翼から抜けた一本の羽を見て、鷲座は思う。
(例えばもしも、この羽が――真っ黒の、あいつのような羽色でしたら、君は)
(例えばもしも、小生が一番目の君の従者だったとしたら、君は――小生を選んでいた?)
「考えても仕方ないことばかり、考えてます」
「鷲の脳みそはそういう構造じゃからな、仕方なかろう。主人の知識を把握してしまう――常に主人が得た知識が脳を巡る。それが鷲の能力じゃからな」
「その知識が、ね。ずっと教えてくれるんですよ。こんな強制的に敗北を与える結果をくれた人物を――……スノウブラック」
鷲座は奥歯を噛みしめて、手のこぶしを強く握りしめる。
脳に過ぎるのは、陽炎を引っぱたいた瞬間の映像。
その時、怒り顔だった彼らの顔――。
微笑む黒雪の顔――。
「ねぇ、魚座。君に一つ聞きたい」
「何じゃ?」
「もしも、自分が物凄い力を手に入れるかも知れない。けれど、その代わりに自分が消えるかも知れない。そんなとき、どうしますか?」
「鷲――……?」
「その力で、あいつが消えたらとても楽しい――」
魚座には判らなかった。
そのあいつ、というのが鴉座を示すのか、それとも黒雪を示すのかは。
ただ判るのは、鷲座が――少し鷲座のようではなく見えるだけで。
「小さく、ね。声が聞こえるんです、プログラムから。君は変われる、君はあの方が傷つけば君は新しい君になる。力が得られるって――」
「鷲――」
「安心を。小生は、誰かから授かる力は、この能力だけで十分ですし、陽炎どのを傷つけたいとは思いません。ねぇ、魚座どの、頼みがあります」
「なんじゃ」
「これから先、少しづつ暴走していくと思いますが、その時はどうか君の手で止めてください――小生と、君は似てるから」
「……――不快だな、似てるなんぞ。でも了解したぞえ。よかろう、わらわがこぶしを作って殴ってやるわ」
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