【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

文字の大きさ
上 下
105 / 358
第二部――第六章 警鐘の鐘を鳴らせ

番外編――闇の帳の思案

しおりを挟む
 闇はもう、冷めなくて良いのに――どうして、声が聞こえる?

 それも、私から愛しいあの人を奪ったお前の声が。

 そして、そこに何故愛しき霊鳥と、目障りな鳥と、同罪人が居る?

 私はあの人の声を耳に焼き付けて、あの人の声だけを永久の記憶に封じ込めたかった。
 封印するということは次の主人が現れても、解かれるまでは私はあの人の従者のままだということで、あの人への思いを抱いたままだということだから――。
 完全に捨てるには、まだそこまでの度胸が足りなくて。

 それなのに。

「――……道具にまた頼りすぎでもしたのか、あの人が?」
 揶揄してそう言ってみる。
 まさか。そんなわけがない。あの人は、お前という存在を得たし、もう一人で泣くことはない。
 一人で泣くことはないし、もう妖術が関わらなければ幸せ。
 だから、揶揄したのに、お前の声と来たら笑ってる癖に、息荒く、あからさまに体調が悪そうで。
 ――私って、ダメなんですよね。
 弱ってるのに強く見せようとからかいの眼差ししている男の姿って、自分を見てるようで苛立つんですよ。
 それに、プラスされて、黒玉の中に居るのに、あの人の気配は黒玉から見えなくて。

「――……何をした、あの人に」
 自分でも、何て低い声が出るのかと驚いて、少し笑ってしまったら、それが奴を馬鹿にしたのだと誤解した鳥が、射抜くよりも恐ろしい瞳で黒玉越しの私を睨む。
 その目を、あの人に見せればいいのに。
 あの人はお前のそういう目を見たら、怯えるか威嚇して口をきかなくなるか、敵視するか、どれだろうな。

「――小生は反対だ、やっぱり! 柘榴、こんなのを信じられるとでも!?」
「同じ鳥だから嫉妬するのか? 側に居られる役目を貰えるこいつに。まぁ――役得だしな」
「わしちゃん、蟹座様、落ち着いて……! カァーちゃん、久しぶり……」
「こんにちわ、愛しき霊鳥。貴方の美しさは、久々に見ると目が美しさで痛くなってしまいます。私の目を守るために、どうか今一度封印を」
「あんたの目が痛くなるのは、かげ君の泣く姿じゃないかなぁ?」

 ――泣く。
 ――泣く姿、とこいつは言った。
 しかも、更にだ。

「そんでもって、誰かの手で殺されるのも困るんじゃないかなー?」

 そんな恐ろしい言葉を、ぶつけてきた。
 私はそれでも必死に自制し、宮からは出るつもりはなかった。
 だから、宮から黒玉越しに睨んでも視線の強さまでは届かないのだから、声を冷たく先ほどよりも低いのが出るように努めた。

「――お前は、外は明るいと言った。お前は、側に居て見守ると言った。それは、嘘だったのか?」
「嘘にしたくないけれどね。状況がそうさせてくんないんだ。誰かが罠を張っている――」
「……その罠で体調を崩したとでも? 馬鹿なこと……を…いう、な…」
 星座の中で主人にも厳しい鷲座が柘榴の体調管理をしていたのに、此処まで酷い声になるほど悪化するようなものなんて、妖術以外なくて。
 妖術を扱う者の大抵は、暗殺者並に動けることが多くて――。
 妖術師が、陽炎様を狙っているのか――?

「星座はね、やっぱり不幸を呼び寄せる」
 柘榴が言葉を続ける――。
「だけどな、それはおいらも同罪なんだ。きっと。おいらにも呼び寄せる力がある。まぁそれを今は説明してる場合じゃないからさ、今回は手を組もうよ。マイナスとマイナスをかければプラスだ」
「……――断る」
「鴉座、君には断れる権利なんかないんじゃないだろうか?」
「黙れ、鷲座。お前に、分かるものか――……何のために、私はあの方から離れて……」
「君だけが辛い思いをしないなんて、許さない。君だけが、あの人の従者で居続けることが黒玉の中で認められるなんて許さない」
 鷲座が酷く威圧的な声で、私に許さないと言うので、少し笑ってしまった。また。
 笑う事なんて、やめてしまえばいいのに、それは案の定、相手の怒りを買ってしまったようで。
 別にお前が可笑しかった訳じゃない。ただ、盲目的に愛するお前の姿が前の私と重なって苛ついただけだ。
 そんな姿になるな、私の後を追いかけるな、あの人が追いつめられる姿を見る辛さは星座の中でお前が誰より知っているだろう――?
 それなのにお前と来たら、今にも暴走しそうな目で私を睨む――。

「鴉、こいつは妬いてるだけだ。陽炎のお守りを出来ると思ったら、お前がまた美味しいところで封印解除をされたから。お守り役を得られたと思ったのに、奪われたから嫉妬でもしてるんだろう」
「相変わらず悪人のような笑みが似合いますね、同罪人」
「黙れ、自爆鳥」
 ふん、と鼻を鳴らして蟹座は笑う。
 お前はお前で、本当に変わらない。泣かしてないだろうな? あの人を困らせてないだろうな?
 お前はいつもどんなときでも余裕ぶって――なのに、今、何処か苛ついてるのは、その妖術師の所為か?

「……――宜しい、私が過去に何をしたか、全てそれを知っている全員です。あの場であの方がどうなって私が何を言ったか知ってる者ばかりです。事情を聞いてから、考えましょう――」



 そう、此処にいる星座は見せしめを知っている者ばかりだ。
 だから、聞く気になったのだと思うし、その見せしめを知ってる彼らだからこそ言葉の重みを私は受け止められたのだと思う――。

「――……果物、条件があります」
「何? かげ君の貞操ー? あんたもかに男も好きだねー?」
「蟹座、お前ッ!? そんな条件出したのか?! 果物、お前もお前でそれを引き受けるな! ……私の条件は、簡単なことですよ」

 だって、この気持ちを捨ててでも、貴方の身が大事ですもの。
 貴方だけが私に宿る心。傷。だから、貴方をまた危ない目にこれ以上あわせたくないですし、何よりやっぱり、怖いんですよ。
 また、拒否されるのが――。

「能力を使わせてください。私を忠実属性にさせてください」

 この思いを一度は捨てさせてください。

 永久にが望ましいでしょうね、貴方のことを思うならば。
 こんなにも重たい愛なんて、その名の通り掴めない「陽炎」の貴方はきっと耐えられないから――。
 耐えられない貴方を見て、胸を痛めるのは前回でうんざり。

 だから、この懸想、捨てさせてくださいね――?


 ――それなのに、貴方を前にした時の、この気持ちは何でしょう。

 闇よ、また私の前に降ってください。
 闇よ、また私を包み込んでください。
 でなくば、この方をまた傷つけてしまわないかという恐怖を、消してください。

 貴方という朝日が、怖くて仕方がないのです――捨てたものが、視界に戻りそうで。

 陽は、何もかも照らす。
 見てはいけないものに限って影で隠れることは、無いのだ――。

 どうせ、照らされるのなら、思いに遠慮などしないでみようか――ただし、慎重になることは忘れずに。

――――
外では皆が耳を澄ませて会話を聞こうとしている内緒話。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】元魔王、今世では想い人を愛で倒したい!

N2O
BL
元魔王×元勇者一行の魔法使い 拗らせてる人と、猫かぶってる人のはなし。 Special thanks illustration by ろ(x(旧Twitter) @OwfSHqfs9P56560) ※独自設定です。 ※視点が変わる場合には、タイトルに◎を付けます。

超絶美麗な美丈夫のグリンプス ─見るだけで推定一億円の男娼でしたが、五倍の金を払ったら溺愛されて逃げられません─

藜-LAI-
BL
ヤスナの国に住む造り酒屋の三男坊で放蕩者のシグレは、友人からある日、なんでもその姿を見るだけで一億円に相当する『一千万ゼラ』が必要だという、昔話に準えて『一目千両』と呼ばれる高級娼婦の噂を聞く。 そんな中、シグレの元に想定外の莫大な遺産が入り込んだことで、『一目千両』を拝んでやろうと高級娼館〈マグノリア〉に乗り込んだシグレだったが、一瞬だけ相見えた『一目千両』ことビャクは、いけ好かない高慢ちきな美貌のオトコだった!? あまりの態度の悪さに、なんとかして見る以外のことをさせようと、シグレは破格の『五千万ゼラ』を用意して再び〈マグノリア〉に乗り込んだのだが… 〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜 シグレ(26) 造り酒屋〈龍海酒造〉の三男坊 喧嘩と玄人遊びが大好きな放蕩者 ビャク(30〜32?) 高級娼館〈マグノリア〉の『一目千両』 ヤスナでは見かけない金髪と翠眼を持つ美丈夫 〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜 Rシーンは※をつけときます。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

どこにでもある話と思ったら、まさか?

きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

処理中です...