【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

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第二部――第六章 警鐘の鐘を鳴らせ

第四十六話 妖術狂いの逆鱗

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 思い違いも、シナリオに含めて描き直して、結局は思い通りに事を進められた。
 まず最初に柘榴が言われたとおりに動いてしまったことから、始まっていた訳じゃない。
 プラネタリウムと陽炎の話を聞いてから、彼の計画は始まり、それに胡蝶は踊らされて、教祖も踊らされたのだ。
 「教科書」とやらも、多分プラネタリウムに関する事で、その情報を胡蝶に与えることでプラネタリウムという便利な道具と、それを狙う者と、そこに関係する黒雪の義弟が居ると言うことを無言で胡蝶は気づかずに、教わっていた。
 
「陽炎君、オレはね君が愛しいよ。でも星座や、褐色の仔や、大きな仔のような愛しさじゃなくて、プラネタリウムをそこまで狂わせた君という存在に焦がれた」
「――ッ別に俺は特別何かをした訳じゃない」
「君は思わぬ間に何かをしているかもしれない、それをこれから調べたいんだよ。探求心だよ、妖術オタクの」
「随分と捻くれたブラコンで、捻くれた妖術狂いですね。否、妖術師らしいとでも言うべきか」

 鴉座が嘲笑うようにそう言うと、黒雪はくすくすと笑ったまま、サングラスを外し、黒目を見せる。初めて見る陽炎は、黒雪の目を見て、ぞわっと鳥肌が立つのを感じて、無意識に己を抱く蟹座の腕に力を込めた。
 蟹座はそれに答えるように、陽炎をより強く抱きしめた。威圧感も感じさせぬほど、己の威圧だけを感じさせて、黒いだけの目にも怯えず無反応で、珍しく陽炎を怯えさせたことだけに対し憤り、睨み付ける。
 鴉座は蟹座の威圧感だけは、この時有難く思った。この人形男の威圧感に対抗できるような気迫を持つ男と言えば、この悪人しかいないのだ。

「こいつに何をするつもりだ?」
「プラネタリウムの星座、手始めに黄道十二宮を作ってもらいたいな。それで、愛属性の傾向を見守ろうかなって。新しい属性を作ってもみたいし、月が見たい――。勿論、君たちの恋路には余計に協力するよ。鴉の妖仔だけじゃなく、蟹の妖仔、君からもプラネタリウムの鎖を感じ取れない。君もまた、陽炎君には本気でプラネタリウムは関係なし――嗚呼、こんなに面白いことはない」


 黒雪は次々と思考を巡るこれからの楽しいことを適当に口走り、嬉しそうに笑う。
 黒目がやけに細く三日月のような形を見せて、人形というより、人の形をしてはいないものにも見えた。
 人の形をしてるようでしていない、どう猛な獣――。
 それはこれだけの威圧感のせいかもしれない――。
 
「お前の協力なんぞ要らん」
「今度だけは口にする意味通り、同感です」

 星座二人の言葉に黒雪は寂しそうな表情を浮かべてから、うーん、と唸る。
 それから、馬車のカーテンを開けて遠くから見える、知った方向の夜なのに朝焼けのような色を浮かべている方角を指さす。

「見なさい。あれが、君の初恋相手と旧知の友の命の灯火だよ」
「初恋じゃないってば! ……黒雪、本当に物事全てがお前の思う通りに行ったと思うか?」

 陽炎は、カーテンから見えた景色に距離を大分感じてそろそろ良いだろうと、思ったのか、口の端をつり上げて、心の底の憎悪をぶつけるように黒雪へと笑いかける。
 それに黒雪は首を傾げる。

「……どういうこと?」
「皆にはな、お前が何を考えているか或る程度教えたんだよ。そしてそれは案の定、信じたくなかったが当たる確率を高めてくれた。胡蝶と決着をつけたとき、お前は鴉座に見られていたんだよ。その鴉座の報告で、確信出来たんだ、お前が何を思ってかは知らないが、柘榴と俺を引き離すことが最初からの目的だって」

 黒雪は暫しの間黙った後、鴉座に、何を報告したの、とやはり穏やかな声のまま問うた。
 鴉座はにこやかにだが何処か禍々しいものを感じさせる笑みで答える。


「お前が果物の事は言わなかったこと、お前が口調を変えたこと、お前が何かを胡蝶から奪ったこと、お前が胡蝶を殺さないで姿を変化させただけで終えた――なのに、呪いが全て解かれていたこと。それから、果物を駒扱い発言」
「……――それはどういう確信に繋がるの? 我が弟?」
「一つ、人間嫌い。二つ、二面性。三つ、最初から何か目的があったことを示す、四つ……柘榴から聞いたけど、妖術師っていうのは己の手を汚すのを厭がると聞いた。特に、妖術を崇拝していれば崇拝しているほど、相手を……美しいけれど、長生き出来ない生き物に変える。胡蝶が死んだら流行病もどきは解けるのに、死んでいないのに解けた呪いが決定打で、駒扱いなんて定番で悪役当選だ、おめでとう! ――妖術を崇拝しているってことがまず、俺には信頼出来ない点なんだよ。だって鴉座がお前を見張っている間、柘榴に聞いたが妖術師というのは無利益で手を貸すことはないって。胡蝶が典型的なタイプだって」


 黒雪が怪しく微笑めば、陽炎も負けじと気力だけで笑ってみせる。でも、睨み付ける目はそのままなので、口元だけで陽炎は笑った。
 黒雪は柘榴という単語が妖術のことで出てくると、片眉をつり上げて、不愉快そうな顔をした。

「妖術を知らない奴に妖術を語られたくないな。そんな奴の言葉で、オレの狙いを見つけたの?」
「――柘榴が妖術が嫌いなのは知ってるよな。何でだか知ってるか?」
「昔、プラネタリウムを持った友人でガンジラニー……――」
「あいつ、昔、妖術を習ったことがあるんだよ――」


 黒雪の言葉に割り込んできた返答。その言葉に蟹座も黒雪も絶句した。
 
 黒雪に至っては、顔には表してないが、酷く腹が立っている様子で。
 同じ妖術師でありながらプラネタリウムという魅力的なものを捨てさせようとしたことにも腹が立ち、そして妖術をやったことがあって妖術のすばらしさを知っているはずなのに嫌悪するという事に、腹を立てている。

 黒雪はそこで威圧感を消し、口角をあげて、ぎゃははははと大声で笑いだした。
 いつも静かだった声が、漸くその下卑た笑い声の時だけは崩れて、荒ぶる声となった。

「参ったなァ――、あいつぁ聡いのは、蛮族の血族だからと思っていたが……死に神の話は本当だったか」
「……蛮族?」
「あいつの正体を、知らないんだなァ? あいつは、とんでもない疫病神なんだぜェ? まぁ或る意味あいつは興味はそそられるけれどねぇ、ほら、オレぁさ、王様になっちゃう人だからね? 国益を考えなきゃ」
「……――お前は、妖術師にはなれるだろうよ、立派な。だがな、国王にゃなれないね! 俺が何も考えず此処に入ったと思うか? お前を失脚させるネタを向こうで掴んでやるためだ。無理だったら殺してやる!……――皆だって、今頃、柘榴や劉桜を守って、避難しているさ。さて、そこで問題です、黒雪兄さん」
 
 陽炎は、睨み付けてくる異様な瞳に怯えながらも、鴉座と蟹座が己にはついているから大丈夫だと己に言い聞かせて、挑発をしてみる。
 そう、きっと何があってもこの二人は己を守ってくれる。そして訳の分からない気持ちだって向こうに行ってしまえば決着がつくかもしれない。
 
「お前の国には、城専用妖術師は国民が選ぶって聞いたんだけれどな、お前が王様になるのと、正式に柘榴の手の者が妖術師になるの、どっちが早いと思う――?」
 
 黒雪はその瞬間、己の手ではなく風圧で陽炎を引っぱたき、気絶させた。
 髪の毛はその証に紫に染まりつつある。
 それにより一気に殺気立った星座の二人に、黒雪は妖術にだけは異常な愛情を示すように微笑みかける。
 

「大丈夫。向こうでは、皇子らしく扱ってあげるから。それに言っただろう? 君たち、星座の恋を応援するって。オレはね、妖仔が人に執着する姿なんて初めて見るから、とても興味深いんだよ。微笑ましいんだ。嬉しいんだ。だから、こんなにもオレはテメェら二人を愛して、義弟を尊敬しているんだろう――」
 
 黒雪を二人は睨み付けて、陽炎を守るようにいつでも殺せる準備をする。
 それでも今向かってる国の次期国王である自分を、絶対に殺せないと判っている黒雪は、何の変哲もなくそのまま馬車に揺られて、気絶している穏やかな弟の顔を見やる。
 
(――どうだい、陽炎君。オレみたいな人間が居るんだ。だから言ったじゃないか、現実をみろって。現実は人間というのは酷く醜く、それに比べて妖術によって生まれた妖仔はなんと酷く純粋か――。それに答えてやらないなんて、テメェは酷いんだぞ、オレなんかよりも。なぁ、陽炎君――? 大人なんかより、子供の方が狡ぃと思わねぇか?)

 ちらり、と蟹座を見てから鴉座を見やった黒雪は目を伏せる。
 
(……――なぁ。この目の所為で、妖仔扱いされてきたこともあるんだよ、オレ。だからさぁ、一番妖仔の気持ち判りやすいと思うの。それで人間に期待しないで生きていたとき、テメェの話を聞いて……凄く……嬉しかったんだ。妖仔の扱いを優しくしてくれる奴がいるって思って。人間みたいに過ちを犯しても許してくれる奴がいるって感動して。だからさ、こいつらの恋、叶えたいんだよ――)
 
「オレは、悪役じゃない」
「悪役ですよ、どう見ても」
「人間の目が二つなのは、見方が一つだけじゃないからだよ、鴉の妖仔――」
 
 
 馬車の音と、黒雪の様子はそれ以降何の変哲もなく、陽炎の母国へ目指す。
 
 
 馬車の上で、楽しそうに笑う男の声がする。
 だがそれは決して馬車の中にも、馬の手綱を握る者にも聞こえることはない結界を張られている。
 その結界は鳳凰座の張るような結界と酷く似ているが、それよりも強力で。
 結界を張る前に普通は妖術の気配を感じ取るのだが、張られた瞬間が早すぎて黒雪は感じ取れなかった。
 
「ほらね、売られた。僕がせっかーく、忠告したのに、ホーリーゴーストも、糸遊も聞かねぇから、当然か。荷馬車に揺れて~♪」

 夜に紛れることがないのは、時間の刻みからの脱獄者という証拠。
 どんな時間と寄り添うことも出来ない、刻の外の囚人。
 馬車の上の白い影は、口の端をつり上げて、馬車の上でげらげらと歌いながら大声で笑う。その声は誰にも聞こえない――。
 
「黒化粧――テメェ、しちゃいけないことしちまったなぁ? 糸遊はともかく、僕の愛すべき聖霊という民を売ったことだ……ホーリーゴーストには、死に神がついてるって知ってるだろう? ――死と敵対し続ける妖術師の死に神が」

 白い影は馬車からとん、と飛び降り、疾走していく馬車へひらひらと手をふって、ばいばいと見送る。
 見送るその微笑みは、目だけが笑っていないで、おぞましいほどに加虐的な目をしていた。

「カゲロウ、お前んとこは後で行ってやる。ホーリーゴーストが生きてるのを確認したら、黒化粧殺すの……手伝ってやる。世界一の妖術師の座を争い合おうぜ、黒化粧?」
 
 白い影はくくっと笑ってから――闇に消えたのではなく、時の狭間に割り込みした。
 さて、時間を割り込めば、同時に違う場所へ行けるというもので。
 つまりは瞬間移動。何も唱えずに。このような手段をとれることから、彼は化け物としても恐れられていた。
 黒雪なんかより、遙か昔から――。
 割り込みした先の場所では、火事にあった屋敷から逃げ出してるのに、ハンター達に囲まれた柘榴達の姿があって……。
 
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