【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

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第二部――第四章 兄の賢さ、弟の弱さ

第三十四話 明日のパンを得られるか考えている

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 陽炎は意識を手放しかけているが必死につなぎ止めようと鴉座を掴んでいる。だけど、言葉までは聞こえていないだろう。何を言っているか。
 そんな陽炎の体内に早く痛み虫が宿ることを願いながら、鴉座は先ほどの人外を臭わせる笑みから、情けない普通の顔になって黒雪へと微笑む。
 
「だから、人間がどんな使い方をプラネタリウムにしてきたかは山ほど見てきて覚えて居るんです。見ていた感想は、こんな奴らに仕えるのは嫌だ、でした。外には出たかったけれど、嫌でした。でも――この方は違った。だって最初に偶然とはいえ、第一使徒として選んだのは、何の能力もない私。ただ寂しがりだったから、プラネタリウムを使っていただけ」
「……――星座としては嬉しい?」
「ええ、とっても。だから人間という生き物はこうも愛しいものかと驚喜しました。世話をするのがとても楽しかったです。……その後に傷つけてしまった結果は何とも言えません。ですがね、私さえ居なければ彼に安息が訪れるかと思えばそれは違った。人は誰よりも道具を大切に扱った人を悪魔と罵り、道具を道具らしく使う常人を聖者としました。そして悪魔を煙たがる。そんな人間に対して、星座達が持つ感情が何だか、判りますか?」


 黒雪は答えを予測して思い描きながらも、聞いてみる。その先を。
 敢えて聞いてくれる黒雪は優しい。
 
 だけど、この人形のような目の男もまた――。
 
「人間への憎悪ですよ」

 ――この男もまた、人間だ。
 鴉座は嫌悪感を表して、鼻で笑ってやる。
 人間嫌いは、プラネタリウムからひしひしと伝わってくる。
 皆がどんどんと人間へのマイナスイメージを持ち始めているのが判る。
 それでも陽炎という存在が居るから、柘榴や劉桜という存在が居るから己ほど嫌っては居ないだろうけれど、それでも星座を代表して嘘ではない言葉を黒雪にかける。
 黒雪は、微笑んでいた顔を、少し物憂げな顔にしてから、穏やかで低い声を、大きく叫んでるわけでもないのに響かせる。

「……オレがね、君と陽炎君を気にかけたのはもう一つ理由があるんだ」
「――……何ですか」
「君たちが羨ましかった。純粋に思って、純粋に疑って、純粋に傷つけて。どの行為も、妖仔と人間のやりとりとは思えない。どんな奴らだろう、って見たかった。君たちのように、互いを信じて愛し、愛されたのならどんなに幸せだろうって、羨ましかった。純粋に思い思われなんて、滅多に貰えない立場だから――羨ましいの裏の意味判る? 妬ましい、だよ」


 黒雪が声を漏らしてくすくすと笑うと同時に、鴉座も少しその場は笑みを思わず漏らしてしまった。
 黒雪の感想は、「良い」意味で人間的だ。だから、疑う余地もない。

「妬ましいから、こうして陽炎君に色々と言ってみた。君にも。だけど、通じないのな、君たちは。君たちは、とても苦しくて辛いけど――素敵な生き方を選ぶんだな、選べるのだな。明日だけを考える、生き方、とてもその言葉は面白い。してはいけない生き方だから、最初から生き方の定まってるオレには羨ましい」
「明日のパンがあるかないかしか考えられないような生活をしていた人ですからね」
「いいや、君も面白い。先ほどオレはプラネタリウムの数式を解読していると言った、消せると言ったのに君は寧ろ好都合だとでも言わんばかりの声色だった。それも、また――その仔を考えて、のことなんだろう?」

 陽炎の震えが止まった、それと同時に鴉座は黒雪へ、最後は貴方が回復してくれますかと尋ねる。
 それに頷くのを見るなり、最後の一滴を陽炎の口の中へ入れた。
 陽炎はぼんやりとした意識の中で、徐々に覚醒し、痛み虫を体内に増えてるのを感じ、大量摂取による嘔吐感を感じたが、そんなことにかまってる暇もない。
 
 最後は、黒雪からの妖術だ。
 
「……軽くいくけど、オレの軽いは他の人には中々痛いらしいからね、気をつけて。腹を狙うから、今動くなよ?」
「わか、た……」

 返事を紡ぐだけでも精一杯で、ぜぃぜぃと陽炎は息を乱していた。
 熱と嘔吐感、それからダメージの所為だろう。
 鴉座はしっかりと陽炎を支え治そうとしたとき、陽炎が微かに有難うと言ったような声が聞こえた気がした。
 鴉座は目を見開き、嗚呼もう、とため息をつく。今きっと、己の顔は赤いだろう。

「寝たふりなんて卑怯です」
「――また閉じこめようとしていたこと、チクるぞ、そういうこと言うと」
「おお、酷いお方。なんと、狡い。貴方は、別の意味で狡い大人ですよ。さぁ、最後の痛み虫ですよ――」

 鴉座がそう言うと、陽炎は黒雪の手先を、妖術を使うために光り輝く装飾をしている指先を見つめる。
 その指先には光が集まり、その光はほわほわとしていて、丁度子供が遊ぶボールサイズになったかと思えば、直球で予想外のスピードで陽炎の腹へと直撃した。
 だが、陽炎の体も、黒雪の腕も、流石というべきか。
 陽炎は百以上の痛み虫の持ち主らしく、黒雪は悲しいほどに天才的な妖術師らしく、痛み虫をただ一度のダメージで得て、すぐに陽炎を回復する。
 陽炎は回復されるなり、プラネタリウムを取りだして、星座を確認する。
 
 ――出来た星座は、蠍座。
 
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