【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

文字の大きさ
上 下
86 / 358
第二部――第三章 大事な人を守る聖戦

第二十九話 仕組みを超えた愛情

しおりを挟む
 
 数秒、数分、数十分、数時間と時は過ぎていき、通常の人間ならばそろそろ起きるはずの時間にも陽炎は目覚めず、毒の熱に魘され、苦しみもがいている。
 ベッドのシーツをぎゅっと無意識に掴んでいて、その手に鴉座は触れたかったが、彼を守ることを許されたとはいえ、今触れるのは自分には許されないこと。
 自分は数ある星座の代理なのだ、今は。
 本来ならば、何の能力もない自分が此処にいて良いはずはないのだから。
 だから、せめて星座を代表して陽炎が苦しみながらも、痛み虫を得て毒から逃れることを見守ることだけが自分の役目。
 
「星座の誰もがきっと苦しんでいる、果物だって苦しんでいる。だけど、それでも貴方達は幸せだ――愛してる人が下手したら死ぬかも知れない光景を、直に目の当たりにしないのだから」
 
(プラネタリウムの仕組みなんかじゃない、この思いはきっと。プラネタリウムの仕組みだとしたら、今この方に被害を与えないために忠実属性に変えてる私の――この心のざわつき、それに自然と口に愛してると出せるのはどういう訳だ?)
 
 鴉座はため息をついて、首を振る。
 柘榴に自分が現れる条件に一つ出したのだ。自分は陽炎をもう傷つけたくないから、自分の属性だけ操ることを。それを柘榴も了承した、というよりも寧ろ望んでいた。
 だから、――現れたときから忠実だった筈なのに……。
 
「……プラネタリウムが狂っているのか、それともこの方に私が狂っているのか。……どちらもあり得そうだ。他に、私みたいなのが居ないといい」

 そうじゃなくても、自分が現れる前の陽炎の心は、不安定だった。
 それはこの状況の所為ではなく、柘榴の言葉で――。
 思い出すだけで腹立たしく知らぬうちに拳に力が宿り、陽炎には見せられない凶悪な顔をしてしまう。
 歯の奥を噛みしめ、怒りを抑える。

(――だから人間は嫌いだ。弱っているところに、戸惑いをもたらすな。煩わせるな。お前がもしも本気になってしまったら――また、お前に奪われる。今度こそ、心まで……。この人は、お前には底なしに弱いのだから)

 弱くさせた原因の己を憎みつつも、そんな自分を選んではくれないだろうか、と鴉座は少し欲が出ている自分に気づき、苦笑する。

(――何を、期待して居るんだ。自分が何をしたか、忘れたのか? 本来なら、許される存在じゃない。今、此処に居るだけでも――苦しむ姿でも見守れることを、良しとしろ。私を……もう二度と期待させないで。貴方は、あの時何を言おうとしたの?)
 
「俺は、の先はこの事件が終わったら聞いても宜しいでしょうか? 我が……愛しの神」
 
 本気ではない。
 そしてこの言葉は全部嘘にしよう。
 鴉座は覚悟しながら、苦しんで聞こえないであろう主人に問いかける。
 丁度、その時だった。ノック音が聞こえたので、赤蜘蛛だろうかと思い、部屋に入るのが駄目なことを説明しようとしたのだが何か言葉を発するよりも先に、やけに耳障りの良い男の声が聞こえた。
 脳に響くようで、すぐにその声音は忘れてしまう、だけどどんな印象だったかは覚えてしまうような声。
 印象は、やけに耳に優しい低い声。

「陽炎君はいる? 鴉の妖仔も居る?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】元魔王、今世では想い人を愛で倒したい!

N2O
BL
元魔王×元勇者一行の魔法使い 拗らせてる人と、猫かぶってる人のはなし。 Special thanks illustration by ろ(x(旧Twitter) @OwfSHqfs9P56560) ※独自設定です。 ※視点が変わる場合には、タイトルに◎を付けます。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

どこにでもある話と思ったら、まさか?

きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

処理中です...