【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

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第二部――第三章 大事な人を守る聖戦

第二十八話 ペテン師の才能

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 鴉座は主人が他の手紙を大事そうにポケットへ入れて、それから屋敷の中に入ろうとするのを見てから続いた。
 屋敷の中に入ると、そこには赤蜘蛛が大あわてで何かを探しているようで、益々柘榴の病状が悪化したのだと陽炎は痛感し、現状をより悪いものになったのだと理解する。
 陽炎が話し掛けようとすると、赤蜘蛛は柘榴の状況を悟られないように努めるばかりで、陽炎は胸を苦しめる。

「我が愛しの君、プラネタリウムは手放さないように」

 考えを見抜かれていた陽炎は、鴉座に木枯らしのような笑みを向けるだけで、黙ったまま食事や風呂よりも、眠りたいと告げて、己の部屋へと帰りたがる。
 鴉座は、こくりと頷き赤蜘蛛に聞きたいことがあると、告げて待って貰う。
 陽炎には聞こえぬ声で、鴉座は赤蜘蛛に問いかける。陽炎は無理にそれを聞こうとはしないで、何かを考えているようでぼーっとしていた。

「柘榴は誰に借りられたのですか? 居なくなったのでしょう?」
「知っているのか? ……先ほど、物凄い症状が悪化した状態で、消えたあの部屋で見つかった」
「何と言ってましたか?」
「あの高熱で死にかけてるのですから、言葉にならないよ」
 
 鴉座はそれを聞くと礼を告げて陽炎を部屋に連れて行き眠らせようとする……が、部屋の扉を陽炎があけた瞬間閉じようとした。
 しかし、もう陽炎は部屋に入っているので、己は扉を後ろ手で閉めて、通路へ「それ」が出ないようにするだけ。
 その突然の言動に陽炎は、少し疲れたような表情でどうした、と問いかけると鴉座は真剣な眼で、言葉を紡ぐ。

「何者かがこの部屋に果物の症状に似て異なる毒を、仕掛けておりました。匂いからして、これはあの手紙主ではなく――もう一人の妖術使い、胡蝶でしょう」
「嗚呼、じゃあいいよ。毒吸ってやるよ」
「陽炎様!」

 己を叱る声に、陽炎はため息をついて、鴉座の自殺を考えてると思われている誤解を解こうとする。
 陽炎はベッドに腰をつきながら、足のむくみをとるため、筋肉をほぐす。

「だって、時間ないし。大きな星になりそうだし。こうなったら、敵の攻撃も利用させてもらう。百の痛み虫って二つ名、舐めンな。痛み虫なら、何でも受けてやるよ。呪いじゃないんだろう?」
「ッ呪いじゃないですが、完璧に殺意のある毒で――ッ」
「柘榴やお前には効かない? 屋敷の人たちには広がらない? 大丈夫?」

 嗚呼、こんなときまで、いっつも陽炎は身内の無事を考えるのだから、偶には己を顧みて欲しいと鴉座はため息をつきながら、諦める。
 緊急時以外は己の身を第一と考える人なのに、どうしてこういう時ばかり己を優先させないのだろうか。
 
「大丈夫。扉は毒が充満する前に塞ぎました。今頃、誰かが廊下の窓を開ける頃でしょう。毒に気づかず、空気の入れ換えとして。私は大丈夫なのですが、困りましたね」
「どうして?」
「だって愛しの我が君が、熱で魘されてその声で私の名を呼ぶと自我が……って、あいた!! 殴らないでくださいよ~これも愛情表現ですよ?」

 鴉座のおちょくりは自分の疲れをとるが、たまに苛立たせる。
 陽炎は、べぇと舌を出して、おやすみ、と横になって眠りにつく。毒なんて最初から知らないとでもいうような態度で。
 その姿を見て鴉座はため息をつき、己は扉を背に突っ立ったまま、陽炎を見守り、扉に背を預ける。
 
(真面目な話ですけれどね、実は多分この毒は私と貴方が恋仲だと思われて仕掛けられたようですよ。だって、貴方が水瓶と話してるとき、散々貴方の惚気を遠回しにしましたからね、恨まれてしまったようです――)
 
 鴉座はその時の作り物めいた胡蝶の顔を思い出し、確かに以前の自分と似ていると自嘲気味に笑った。
 強引に自分へ愛を囁かせるところ、とか、と共通点を探してから鴉座は怒気を含みながら、目を閉じて黙り込む。己を落ち着かせるため。
 
(だって許せないじゃないですか、あの忌まわしい水を使いもせず貴方から好きだの愛してるだの言わせるなんて。嫉妬深いのだから、私は。あることないこと吹き込むのは得意なんですよ――? 私は星座で一番の嘘つきですからね)

 笑った後は顔を引き締め、さて、と思案する。この毒が自分を含めてならば自分もかかったふりをしなければならないのだが、陽炎は身近で苦しむ誰かの姿なんて演技でも見たくないはずだ。

(――嘘には嘘を重ねる。ペテン師の基本ですか?)

 鴉座はくつくつと相手が厭がりながらも毒にかからなかったかしょうがないと納得いってしまうどんな嘘をつこうか、色々候補をあげて思案していく。
 その間に陽炎が苦しみだし、毒と戦う。
 その姿に心臓が一瞬止まりかけたが、己は黙ってそれを耐えて見続けなければならない。

(今、この方には、私しか居ない。私だけしか守れない――)

 例え自分が見たくないものでも、見続けて耐えるしかない。
 唇を噛みしめて、拳に力を込めながらも、鴉座は、陽炎の名を呟き応援することとした。
 
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