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第二部――第三章 大事な人を守る聖戦
第二十五話 水瓶座の献身
しおりを挟む「水瓶座ッ」
「あ……誰……。か、陽炎……様?」
「水瓶座、お前、大丈夫か?! そんな、こんなになるまで……ッ!」
「……陽炎様、大丈夫? 僕らが居なくて、泣いていない?」
水瓶座はこんなに真っ青な顔で今にも死にそうな表情なのに、自分のことを心配していて。
しかも、寂しがっていることも見抜かれていて。
陽炎は心配させまいと嘘をつこうかと思ったが、やめておこうとすぐに考えを取り消して、代わりに笑ってやる。
「夢に出たよ、お前ら」
「……泣いちゃった、泣かせちゃったんだね、僕ら……」
「違う、泣かせたのは、呪い。だから、お前は気にするな。それに今、何とか頑張ってる」
「……――良かった」
水瓶座ははにかむような笑みを浮かべて、それから陽炎にこっそりと小瓶を渡す。その中には癒しの水が入っているのは火を見るより明らかで、陽炎は慌てる。
受け取れないと言いかけたが、それよりも先に懐へ忍ばされて、水瓶座へ馬鹿と叱ると、水瓶座は嬉しそうに笑った。
「陽炎様が馬鹿って言うと、何だか安心する。此処の人は、皆、僕を崇めていて……僕は、そんな人じゃないのに。僕は、貴方を酷い目に遭わせたような、奴なのに、皆は僕を聖なる者としていて、許した貴方を悪魔と呼んでいて……僕、気が狂いそう。狂って一生このままで黄色い馬車が来て……」
「深く考えンな。お前、精神的に弱いからなぁー? ほら、俺は悪魔で別に良いよ。この宗教嫌いだから、この宗教から悪魔呼ばわりされるなら、大歓迎。だからお前ら気にするな。皆に伝える時間はないかもしれないけど、そう言っておいて」
陽炎がそうけろりと言うと、水瓶座は本当に安堵感を得たからか、微笑んでから再び眠りに入る。深い眠りに。
寝息が聞こえて安心した陽炎は、ゆっくりと水瓶座を寝ていた場所へ下ろすと、胡蝶へ視線を向ける。
胡蝶は鴉座と何か話をしている。だがそんなの構うものか。
自分だけでなく、柘榴だけでなく、……崇めている筈の星座でさえ、こんなに疲労させて。
疲労しているのも気づかず、酷使して。
陽炎は静かな怒りがどんどんと沸いてきた。
「十五夜、行こう。俺が悪魔というのは本当みたい、俺此処にいるととっても気分悪くなる」
「おや、陽炎様の体に差し障りがあるのなら此処へは来られない……かもしれないですね。でも、きっと胡蝶さん、貴方にまた是非とも会いたいと言うと思いますので、その時は来てもいいでしょうか?」
鴉座は陽炎が心底怒っているのに気づくと、苦笑を浮かべて、胡蝶へ向き直り、そう問いかけた。
胡蝶は、にこりと微笑んで今度は胡蝶が何処からどう見ても聖人君子の笑みで、勿論と答えた。
見送りは要らないと、断って、陽炎は早足でその場から立ち去ろうとする。
その時、蟹座とばったり出くわして。
蟹座は己の顔を見ると、にやりと笑い、鴉座にも凶悪な笑みを送る。
「悪魔を怒らせたら大変だからな、見張っとけ、手下」
「……蟹座、ごめん、聞いちゃった、さっきのその……」
「嗚呼、別に構わん。やましいことはしてない。――今、オレはお前の星座ではない」
蟹座はそう言うと、陽炎の戸惑った顔を見ることはなく、それでも鴉座へ通りすがりに何か呟いてから、去っていく。
陽炎は立ち止まったままだったが、すぐに早足に戻り、その場から逃げるように出て行く。
それから、すぐにB地区へ向かうために、近道で裏路地を使う。
鴉座は無言のままの主人に、流石に心痛めたか、背中へ言葉を投げかける。
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