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第二部――第三章 大事な人を守る聖戦
第二十三話 鷲座の苦悩と、蟹座の順応
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水瓶座だろう。先ほどから教祖がお布施を貰えば多くの水を出させて、お布施が無くても人々の前ではアピールのために水を大量に配布する。
以前と違って、出来たばかりの水は瓶を満たすには水瓶座の気力と体力が必要となる。
何より、病や怪我によって複合方法も違い、ただ浴びせればいいだけの水ではなくなったのだから。
大犬座を落ち着かせるには黙らせるのが一番だと思ったのか、大犬座を羽交い締めにしながら、鷲座は水瓶座の元へ大丈夫か、と声をかけにいこうと思ったが、それよりもまた問題児がいるらしく、そっちに回る。
「片眼鏡!」
「獅子座どの? どうされた?」
「酷い話を聞いただ! 何か、魚座の姐さん、鳳凰の姐さんまで接待につかわれるって!」
「……どのレベルまでの接待?」
「鳳凰の姐さんは無垢だからそれをウリにされている。だけど、魚座の姐さんは……その、あれだから……まぁ……体を……」
その言葉に鷲座はプツっと何かが切れるものを感じつつ静かに獅子座に大犬座を預かって貰い、足音を隠さず、教祖の元へ抗議しに行く。
教祖は広く、だが良い印象づけるために質素な部屋にいて、そこで胡蝶とお茶を楽しんでいた。
鷲座が来ると、教祖はにこりと微笑む。
(人の笑う顔はこんなにも醜いのか――)
普段、柘榴や劉桜、それに他の星座や、――陽炎の笑みを脳裏にちらつかせてから教祖の笑みと比べて、見下す己を感じつつ、鷲座は少し怒気の孕んだ声で静かに抗議を申し立てる。
「魚座どのに、性交渉させるとは本当ですか?」
「嗚呼、そうよ。何か文句でもあるの? ご主人様の命令に文句があるの?」
「……あるに決まっている。小生は主人が間違ったことをするならば止めるのが、小生の在り方だ。本当に宗教の為にというならば、接待はともかく、性交渉は必要がないだろう?! 穢れた眼で見られる!」
「パトロンがいるんだよ、鷲座さん」
胡蝶がくすくすと笑いながら、持っていたティーカップをソーサーに置いて、鷲座をちらりと見やる。
いつ見ても大嫌いで憎いあの星座と似ていて、内心は腸煮えかえる思いだが、堪えて鷲座は抗議をする。
「もし本当に宗教の為を思うならば、そんなことはやめろ! 水瓶座どのの集めたお布施でどうとでもなるだろう!?」
「判ってないわね、鷲座。宗教っていうのはお金がかかるのよ。それに、楽な生活をしたいじゃない? 嗚呼、安心して? 貴方は性交渉させないから。貴方はそういうことをしちゃダメっていうイメージが強いみたいだし」
くすくすと笑う教祖に、それは即ちまだ幼い大犬座にもさせるということが瞬時に分かり、いずれは他の星座もさせられるのだと悟る。
一気に頭に血が上り詰めて、叱ろうとしたところ、皆の前での演説もとい、陽炎貶しを終えたのか、蟹座が此処へ来ていて、どうした、と声をかけた。
教祖は星座の中でも一番蟹座を気に入っていた。顔で言うならば水瓶座なのだが、彼は女性にとっては隣に歩かれると自分の顔と比べられる女性的な顔も持っているので、そういう意味では気に入っては居なかった。
だが蟹座は男らしく、強引でそして自分を積極的に口説いてくれる、一回寝てみたら床の相性は良いというか、上手すぎたので、それで惚れた部分もある。
何より、誰もを拒むような冷たい瞳が自分にだけ向けられているのは心地が良い。
そして、この組織に対してどういう扱いに自分が居るのか、分をわきまえ、己の使い方を己で理解しているという、いちいち命令しなくても行動しているところが気に入っている点だった。
「蟹座! 止めろ、この人は全員、金持ちの床相手にさせようとしてる!」
「……――嗚呼、彼女が言うならそれでいいんじゃないか? 星座は主人に尽くす、そう以前教えたのはお前とあの馬鹿だろう」
蟹座はにやにやと笑みを浮かべて、己の役割をこなす。
そこに鷲座は蟹座が心から楽しんでいるのか、それともたかが条件のために此処まで言うのかと呆れながらも怒り、蟹座の胸ぐらを掴む。
「正気か?! 君を思う鳳凰座どのも、巻き込まれて居るんだぞ!?」
「……――鷲、オレが鳳凰を嫌っているのは知ってるだろう? これであの女はどういった行動をすればどういうことに繋がるか理解出来て、もうオレには迫らないだろう」
言葉を最後まで言わせる前に、鷲座は蟹座を力一杯殴り、部屋から出ていった。
それから、ため息をつく。
(蟹座、すまない。鳳凰座どのの名を出してしまって。……一瞬でも、君の行動を疑った小生が悪かった。一瞬、君の目には動揺が宿っていた……鳳凰座どののことは、苦手でも嫌いではない。いや、嫌いに近い苦手かもしれないけど、君が嫌いなのは……)
がちゃ。
部屋のドアがあき、胡蝶が出てくる。
視線でどうしたと鋭く問うと、胡蝶は苦笑を浮かべて、部屋の中を指さす。
「ラブラブモードだから、ほら、人前でって趣味は教祖にはないから。蟹座さんは判らないけれど」
「……君たちは、性欲の塊だな。吐き気がする」
「君こそ、優等生の基本って感じで苛つくよ」
揶揄されて、鷲座はそれから部屋の中から教祖の喘ぎが聞こえ、慌ててその場から立ち去る。
彼は望んでないだろう、誰かに聞かれることを、行為を想像されることを。
(一番君が嫌ってるのは、体を重ねてる教祖だというのに――これは全て、本当に好きで大事な人を守る戦いなのに。それでもあの場は殴るしかなかった、お互いのために。すまない)
一人、蟹座を殴って痛い思いをした拳を片手で押さえて、本拠地から出て、ため息をついていると、思い人なのに、その名を呼んではいけない人がそこにはいた。
それも、大嫌いな奴と共に。
瞳を見開き、そんなに日は経っていないのに、酷く昔に会ったような懐かしさを覚えて、その感覚に少し暖かみが溢れて泣きそうになった。
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