【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

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第二部――第二章 復活の黒き片翼

第十九話 見守る星座

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“何か言えよ。楽になるぜぇ? テメェが跪けば、僕は何でもしてやるから。ホーリーゴーストを代表して、契約書に同意したのに欺いた国、年に一つずつでもいっぺんにでも潰してやってもいい”
「五月蠅い。黙れ――。いつ、来た?! 帰れッ……おいらは、おいらの闇じゃなく、かげくんの闇を信じるんだ――」
“死にかけると僕と妖仔が一度切り替わるシステムなのだよ。信じて騙され裏切られる。その代表作だからこそ重みがあるねぇー? しかもテメェの言うあれの闇たぁ、僕の作った妖術のことじゃないっすか。わお、おもしれぇ”
「……――黙れ、黙れよ。おい、…………手、出すなよ」
“さぁ、どうだろうなァ~? ホーリーゴーストのそれも、よりによって唯一無二の血脈をこんな目にあわせたんだからなァ――あの生意気なガキは。
 カゲロウ、厄介な奴だ。関わらなければ良かったんだ。また黒玉を見たときに殺せば、こうはならなかった”
 
 憎い声の聞こえた方向を睨み付けようと視線をあげたが、その視線はぼやけ、再び過保護すぎる情が彷徨う。陽炎へ。
 
 ――それに嫉妬するのは、聖霊を独占したい死に神。
 
“――真面目な話、嫌な噂が耳に入ってる。テメェが側にいたいと願うカゲロウが、国の王族だから”
「うぜぇ…………ッ。ん、だよ、噂……って」
“国と国の裏取引。ホーリーゴーストの大嫌いなことを、しでかそうとしてる奴が居てね。それで、現在、テメェの待ち人がよりによって今来てるらしーぜぇ?”
「……――今は……こま、る……」
“もう無理して喋ンな。テメェが存在を憎む相手は、この世で僕だけにしろ。あの言葉は、使うんじゃねぇ。あの言葉を誰かに使った瞬間、相手を殺してやる――……ホーリーゴースト、僕の糞生意気なホーリーゴースト……あれは僕だけに唱えて良い、挑戦状だ”
「……ゴースト、じゃない。ソウコクイツ……お前から教わった……妖術で、呪いは解け……るのか?」
 
 蒼刻一と呼ばれた「死に神」は、くすくすと笑い、彼の看病を己の妖術で出来た呪い――本物の死に神――に任せて、彼の質問に答える前に気配ごと消えた。
 試してみろということか。妖術の呪いは解除に失敗したら跳ね返ってくるのに、より恐ろしく。
 
 消えたことに気づけば、柘榴は忌々しげに舌打ちし、魘されるだけ。
 それでも死の敵対者が、絶対に己を味方内にいれるだろうから、死に神は己を守り、他者を傷つけるだけなのだろう。
 
「本当に何処までも、嫌な奴だ、妖術師って。そう思わねぇー?」
 
 ――思いますね。
 
 黒い気配は、死に神と、もう一つ。
 

 
 
 陽炎は自室に戻り、己の手の内のプラネタリウムを見つつ、ため息を。
 ベッドの中で先ほどから寝返りや、仰向けや、うつ伏せを繰り返している。
 今、時間は夜。
 あれからよくこの周囲の持ったことのない痛み虫を持ちそうな人間を調べてみたのだが、下手に動けばまだ己の手の内にプラネタリウムがあることがばれてしまうのではなかろうか、と考えに到達した。
 そうでなければ痛み虫を集める理由がなくなる。
 それに何より偽プラネタリウムに痛み虫は移動したことになっているのだから、免疫が誰かにばれて、密告されたら厄介だ。

「これまでの方法じゃ、痛み虫は集められないか――」

 プラネタリウムを手の中で弄り、それから手放して己の頭の隣付近に投げ出した。
 盛大なため息は、この先の不安ではなく、この先の行く末を案じていて。
 
(このまま、柘榴や星座、それからあの異様な手紙主に状況を任せてばかりじゃ駄目だ。俺も動かないと――。俺だって動けるんだから。もう、怖がらない――)
 
 でも虚しいかな、意志は強くても解決案は出てこない。
 解決策、解決策、解決策、その言葉ばかりが脳内を占めて、ため息ばかりをついてしまう。
 
(――なんかな、俺、弱くなったな。前は自分で動けたのに……)
 
 柘榴が居ないとこんなにも無力で。
 星座が居ないとこんなにも非力で。
 劉桜が居ないとこんなにも不安で。
 
「うじうじすんのは、やめたんだから。何とか考え出さないと――」
 
 そしてその策を実行せねば、柘榴は今のところは錠剤があるからいいが、劉桜は危ないだろう、どう考えてみても。
 少なくともあと一週間のうちで決着をつけねば、彼は死んでしま――。
 
(死――)
 
 その言葉に一気に鳥肌が立ち、恐怖心が蘇る。
 それと同時に、焦る気持ちが募る。
 時間が遅れれば遅れるほど、柘榴も同じ目に遭う。否、もしかしたら明日には喋れなくなっているかもしれない、あの薬は効力を止めるのではなく、ばれない程度に遅らせる程度だと言われた。
 
「――もうひとりぼっちは、嫌なんだ」

 こんな言葉を吐いたのを鷲座に見られれば説教を喰らうだろう。人間は、彼らだけではないと。
 それを自覚しながらも呟く。

「人間は確かに星のようにいる。その代わり、同じ星は居ねぇだろ――?」
 
 こういう困ったときに浮かんでしまうこまった星がいる。
 
 酷く恐ろしい眼にあわされた、酷く体を壊された、酷く精神を病まされた、今も怖くないかと聞かれればそれは否定出来ず。
 だけど、最後に見た笑みも、思いも、優しくて暖かくて安堵して。
 否定し続けて、見向きも、まともに反応もしなかった自分が悪いのに責任を全部自分が取ると引きこもった、あの星座……――。
 
「……鴉座、なんて呼んでも出てこないよな」

 陽炎は自嘲気味に笑い、ごろりと寝返りを打って、プラネタリウムに向き直る。
 かつて彼が自分へ向けていた安心させる瞳を、出来るだけ作れるように見つめて、微笑んでいたかと思えば、陽炎は表情をぐしゃっと歪めて、……上掛け布団を頭まで被る。
 
「もうどうしたらいいか、わかんねぇ……。俺、お前みたいに頭まわんねぇからさ。ん、とりあえず、……手紙を待ってみるか」
 
 陽炎は布団を被って目を閉じていたから、判らない。
 ――その時、プラネタリウムが優しい色を放っていたことを。淡く淡く。部屋全体に――鴉座の星座を描いていたことを。
朝が来るまで、か細い物を抱えて眠る主人を、ただ一つの星座が見守っていたことを。
 
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