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第二部――第二章 復活の黒き片翼
第十七話 柘榴の種族
しおりを挟む「柘榴、柘榴の言ってた毎日届きそうな何かが判った、この手紙だ。内容が、まるで今日を見抜いているみたいなんだ」
そう言うと柘榴は見せてと手を差し出し、手紙を読む。数回読んでから、手紙の一部に文字が滲んでいる部分があって、この手紙通り彼は泣いてしまったのだろう、と柘榴は苦笑した。
「ぼくちゃん、大丈夫でちゅかー」
「うるせぇ、馬鹿。とっとと解決して、あいつらボコるぞ」
からかうように言うと、陽炎は普段の陽炎であって、けらけらと笑いながら自分の頭を軽く叩いた。
柘榴はその笑い声に耳障りの良さを感じ取りながら、薬を一錠飲んで熱によるだるさから解放されながら、さっきまで起きたことを説明される。
胡蝶のことを説明するなり、柘榴は噴き出して、ぎゃはははと笑った。
「あんた、男役の人にしか人気ないかと思っていたら、ついに女役からアプローチきちゃったんだ」
「自分を口説けとか、しかも鴉座に容姿が似てるし……キスしやがって……!」
「ちょっと殴りに行ってくる」
キスの単語だけで柘榴が笑顔のまま凍り付き、拳を作って本気で追いかけるためにベッドから出て行こうとしたので、陽炎は慌てて止めて、蟹座が既に殴っていることを告げる。
それを聞くと柘榴は、複雑そうな顔をして、それから天井を仰いで、ベッドの背もたれにもたれ掛かる。
「何か前は厄介だったDVがこんなところで役立つなんてねぇ?」
「……教祖とやら、ご愁傷様。殴られる毎日を味わうが良い……!」
「いやぁ、そりゃぁないね」
陽炎は思わず高笑いしかけたとき、柘榴がやけににやにやとあくどい笑みを浮かべて否定した。
愛属性ということになるならば、毎日殴るのでは、と陽炎はきょとんとして首を傾げる。
偶に陽炎はこうやって子供っぽい仕草をする、己より年上なのに全然年上らしさを感じられない。その上彼の性格と稀に合わない仕草もしたりする。
柘榴は、多分こういう変に年齢を感じさせたりしないところが受けてしまうのだろう、とため息を少しつきながら、陽炎の頭をぽんぽんと叩くように撫でてやる。
「かに男に、もし教祖とか新しい持ち手が女だったら全力で落としにかかるよう頼んだ。男でも条件をのむんだったらやってやるって言ってくれたけれど。色仕掛けだよ、色仕掛け」
「……ってことは……尽くしたりするのか、あいつが?」
それは酷い寒気と悪寒を感じさせるものがあって、それと同時にあれだけ傲慢な蟹座がよりによって柘榴の言うことを素直に聞き入れるわけがないという考えに到達した陽炎は柘榴の胸ぐらを掴み、睨んでみる。
柘榴は、視線をそらしながら、ごめぇんと謝った、詫びれの無い声で。
呪いが解けたら、撲殺確定の瞬間。
「お、俺を売ったなぁ?!」
「一晩だけだから、安心して。わっしーにも一晩、鳳凰ねーさんには、かに男とのちゅー」
「鳳凰座姉さんとの条件を今すぐ、あいつの条件に変えろ!!」
「無理無理、もう旅立たれたから。それに、あいつの性格が今回一番やりやすいんだよ、あの中じゃ。あいつはあんたを平気で罵れるし、悪口も言える。それに対して罪悪感もない。何をしてもただ、あんたへの歪んだ愛になるんだ。だから例えば、忠誠の証にかげ君に攻撃しなさい! って言われても、死ぬ寸前までの攻撃をあいつは出来る、他の星座が出来なくても、なぁ? いやぁ悪役ぶりは前回ので知ってマスカラ」
柘榴の開き直ったような口調に、陽炎は怒りを隠せなくて病人を力のままにがくがくと揺さぶった。
陽炎の手による揺さぶられた世界は熱と共にぼやける世界になり、柘榴はそれでも白々しく笑った。
「あいつの一晩ってどんなことさせられるかわかんねぇよ!」
「いいじゃん、ケツの一つや二つ。女の子じゃないんだし」
「ざーーーくーーろおおおおお!!! お前ッ……!!」
「ギブアンドテイクがあいつの一番、おいらを信じて行動してくれる方法なんだよ、真面目な話さ」
「何でそんなこと信じ切れる!?」
「あーっと、昔妖術をちょっとかじってたことがあってさぁ。その妖術で出来た相手との交渉方法で一番に載ってる。独特の妖術……だから嫌いなんだけどね」
柘榴は少し薄暗い表情をして、頬をかいた。
陽炎は意外だった。柘榴はてっきりプラネタリウムという存在が昔友人を危機に陥らせたから嫌いなのだと思っていた。
「ガンジラニーニはね、かげ君。おいらは、ガンジラニーニだ。ガンジラニーニには、独特の妖術があるんだよ。だから、少し妖術はかじってるんだ。例えば肌色を変える方法、太陽の下でも生きられる方法とか、ね」
「誰から教わったんだ?」
「やーな奴さ! やーな奴が一族に伝えたの! 死に神を貰うプラス世界で一番綺麗な言葉を奪うのと引き替えにね!」
「何故妖術を嫌っている?」
陽炎はそこに触れて良いのかどうか戸惑いながら言葉を選ぶが、柘榴はけらけらと笑ってから、それから少し咽せた。それでも暖かい目は消えない。
「何これ、尋問? 嫌うに決まってるだろ、そんな――厄介な性質と引き替えの術なんて。おいらの同胞は、幼い頃から親から一度たりとも愛してると言われないんっすよ。聖霊なんて言われてるからねぇ、おいら達も聖者に値するわけだ。聖者に言うと、死んじゃうんだ。だから、――憎い、が最大の愛の言葉なんさね。……もしも、昔々に、世界が迫害をしないという誓約書を破らなければ、と思うこともあるけれど……まぁいいや、この話は今度。あー、やな奴思い出した」
柘榴は妖術のことに関しては話したくないらしく、苦い顔して主題を戻す。
やーな奴、と柘榴が吐き捨てるように言ったとき、何か笑い声が聞こえたような気がしたが、陽炎はそれに気を取られる前に、柘榴の別の言葉に気を取られた。
「あんただって、その胡蝶っていう坊やを鳴かせるより、かに男に鳴かされる方が楽デショ」
「あの、どっちにしろサド相手なんスけど、俺……」
真剣に落ち込む陽炎に、柘榴はわざと明るく笑い、大丈夫大丈夫と頭を撫でて、それからにやにやとまた冗談を飛ばす。
「怖いならおいらで男、試してみる?」
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