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第二部――第二章 復活の黒き片翼
第十四話 よく見覚えのある顔
しおりを挟む数十分物が投げられて、それから獅子座は陽炎を大きな図体で隠して守っていたが、教祖様と呼ばれる人間がやってきたのか、物が飛び交うのが止まる。
「プラネタリウムの持ち手よ! それは貴方にはふさわしくない!」
女性の声がした。
獅子座に少し退くように頼むと獅子座は悲しそうな泣き声をあげるが、陽炎の射抜くような強い眼に獅子座はおずおずと横へずれる。
教祖という人物は、想像していた人間より若かった。陽炎は老婆などを想像していたのだが、実際は鳳凰座には劣るが色気のある女性で、魅力的な整った顔だ。
だが言われてみると納得がいく、こんな三流の茶番劇、若さ故にでしか演じられないだろう。
スタイルもいいし、優しい眼をしていて、誰もが警戒心を一瞬で解きそうな容姿をしていた。
緑を基調とした服装で、その服装は如何にも、という聖職者の格好で、手には自家製聖典が。
その隣に、自分より幼くて柘榴よりも幼い感じの少年が居て、自分を見るなり、にこ、と微笑んだ。
少年は黒い髪の毛に、黒い瞳をしていて、陽炎は何処かで見たことのあるような面影だと思うと同時に、昔の星座を思い出し、少年の笑みを見ただけで、心臓が悪い意味で止まりそうになった。
(――か、らす座……)
鴉座のような容姿に、鴉座のような雰囲気を身に纏って、ただ鴉座が幼くなっただけのような少年を見るなり、陽炎は吐き気で物を言えなくなった。
過去に凄惨なことをされた陽炎だからこそのトラウマだ。例え最後の別れ方は綺麗だったとしても、体にされたことまでは忘れては居ない。
(――喉が、痛い。頭が痛い。何もかもが痛い――)
陽炎の調子が悪いのに気づいたのか、獅子座はすぐに人の姿へと戻り、陽炎の体を支えて名を呼ぶ。
「皇子ッ、大丈夫だ?!」
「――……ああ」
「気分が優れないならば、水瓶座様をお呼びすればどうでしょうか? 私とて、気分の優れない方相手に交渉はしたくないです」
「……ッく」
陽炎はその言葉は最大の皮肉だと賞賛を心の中でしながら、肩で息をしながら、大丈夫だと口にして、冷たい視線を教祖だけに、なるべく少年を視界にいれないようにする。
警告の鳴る頭を抑えて、目を数瞬瞑ってから、息をゆっくりと吐き出して、言葉もついでに吐き出してみる。
「それで? ――それで、無理矢理俺からプラネタリウムを奪う?」
「いいえ、私は争いに来たのではないのです。貴方は持ち手にはふさわしくないと諭しに来ただけです」
「……じゃあふさわしいのは、誰?」
「それは星座様のお力を必要としなさる者全て。代表者として、私と名を挙げましょう」
結局は奪いに来たと言ってるじゃないか、と陽炎は笑いたかったが、笑える余裕が少し無いのか、一睨みして、口の端をつり上げるだけだった。
「言っておくけれど、もし本当に流行病が治る水を水瓶座が持っていたら、うちにいる二人の人間は治っている」
「嗚呼、それは、貴方がプラネタリウムの持ち手に相応しくないと天も仰り、治す術を与え無くさせているのですよ。天罰です」
「……それってさ、普通なら俺自身に天罰ってこない? 今俺が無事なのは何故?」
「それは例え天といえども、天の神であられる被写体、星座様たちがお守りしているからです。不憫にも、プラネタリウムが悪人の手の内にあるうちは、星座様たちは正しい行いを出来ない!」
「嗚呼、そう? じゃあ、お前にプラネタリウム渡してやるよ。それで一週間の内にあいつらが死んだら、お前の行いも正しいとは言えねぇわけだな?」
――陽炎がそう嫌味たっぷりに笑うと、女は一瞬だけ陽炎にしか見えない不敵な笑みを見せつけてから、純粋な乙女の笑みを浮かべて、交渉に応じてくださって有難う御座いますと口にした。
それから、後ろの騒いでる者たちへ、これからは自分が持ち、皆を治すと宣言し、後ろの人間達はわっと喜んだ。
――大した茶番だ、と思いながら、事前に持っていた偽プラネタリウムを取りだして、女に渡そうとするが、少年が待ったをかけて、そのプラネタリウムを受け取る。
女は既に此方を見ていない。他の者も。己は、少年を警戒しつつ、少年を睨み付ける。
――少年は、くすっと笑った。その時少年は、見つけたと呟いたような気がしたがそれよりも気になる言葉が彼の口から出る。
「偽物渡されても困りますからね、此処でちょっと聖具の妖術レベルを確認させて頂きますよ」
――不味い。
――妖術なんてかけてはいないのに。
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