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第二部――第二章 復活の黒き片翼
第十二話 敵陣前
しおりを挟む陽炎が見抜かれていたかと笑ったところで、獅子座と鷲座が来た。
二人を見やるなり、陽炎は手招き、二人を抱きしめてやる。
突然、陽炎らしからぬことをするので、二人は驚き、顔を真っ赤にして言葉を失う。その様子を魚座は楽しそうに見ていた。くつくつと笑い声を漏らしながらも、その笑い声は何処か陽炎には居心地良くて、他の二人には気恥ずかしいものだった。
「此処にいる三人は、柘榴のお陰で作られた星座。だから柘榴のことが心配だっていうのは判ンだよ、これでも」
「陽炎どのッ……」
鷲座はその言葉に動揺し、思わず陽炎の己を抱きしめている背中に手を伸ばす。
そして衣服を掴み、何かを耐えるような顔をする。
獅子座は陽炎がそこまで自分のことを考えていてくれたことと気遣って、今、間際にこうやって言葉をかけてくれることに感動し、泣きそうになる。
「いいか、鷲座、何か獅子座がばれそうになったらフォローしてやるんだ。守ってやれ。今回は力任せじゃなく、お前の知識と冷静さと客観視が必要だ」
「陽炎皇子ぃ、おら、今でも……嫌だ。おら、皇子の関係を信じながら、それとは反対に動かなきゃならんのが嫌だ。その狙ってる奴をおらたちが、暗殺してしまえば終わるんじゃないんだか?」
獅子座の言葉に、陽炎は苦笑を歪ませて、少し苦痛に満ちた顔をしながら、声を漏らす。
「暗殺したら、誰がし向けたか明かな状況だから、無理だ。そいつが危険な眼にあっても守らなければ、結果は同じ。お前はもう少し考えろ、な? 獅子座。いいか、何か思ったら即行動じゃなくて、一分考えてから行動しな」
「皇子ぃ、おらだけ此処に居るのは駄目だか?」
獅子座の大きな体の癖に縋るような声に、陽炎は苦笑して、駄目だという言葉を肯定するように頷き、二人を離す。
それから、しっかりと主人としての眼差しで三人を見やり、その後は友人として膝をつく。許しを乞うように。
「柘榴のことは出来る限り守る。もし守れなかったら、先に相手にプラネタリウムを送って俺たちの情を忘れ……」
「陽炎どの、小生らは柘榴も大事だが、君たち二人セットで守りたいからこそこの選択を許した、それをお忘れ無きよう」
鷲座はこんなときでもやはり甘やかすことなく、厳しい口調でそう言うと、それから他の二人に先に部屋で待機するように言ってから、陽炎に糸目を向ける。
その眼差しはいつもより数段鋭い色を宿していて、それでも安心させるように頭を一回撫でてから、珍しい貴重な笑みを浮かべて、手を振り部屋から去っていった。
レアすぎるものを見てしまった恐怖を今は感じている場合じゃない。陽炎は深呼吸をして、ゆっくりとはき出してから、窓の近くに歩み寄り、外を眺める。
外の門の前には、大勢の人が詰め寄っていて、己を出すよう罵声の嵐。
――その声を聞いて、皆が、星座達がどんな思いで耐えているだろうか、と考えてみる。
陽炎は全てを理解できるほど利口ではないし、平凡な人間なのだから無理だ。
ただ、――大事な相手を敵に回さなければならないという環境へのやるせなさは判るので、自分だけでもせめて平気なふりをして、堪えようと決めた。
己がいつまでもふらふらと弱まっていたら、皆はこの危機を乗り越えるよりも自分を気にするだろう。
「さぁ、出陣しますか――」
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