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第二部――第一章 屈辱の譲渡
第十話 見返りの用意
しおりを挟む「だけど、周りから見たらそうであるように、お前らは振る舞え、絶対に。俺への忠義や情は捨てるんだ。それで、そのプラネタリムを狙ってる奴に偽物のプラネタリウムを渡すから、それが己の媒介であるように見せかけるんだ」
「……その偽物を渡すと? その方が後に邪魔者として消されるのではないでしょうか?」
鷲座が慎重にそう問いただすと、柘榴が少し熱で弱みのある声に戻りながら、そこへの返答を返す。
「おいら達は流行病に見せかけた呪い、いずれは死ぬようになってるから、直接手を下す必要はない。おいら達はその点は大丈夫。かげ君は、こんなパープリンでも一応ほら、あの大国の皇子だからさ、下手に手出し出来ないわけ。それでも、狙われると思う――ケド」
「なら、その時、誰が陽炎様をお守りに……?」
鳳凰座は不安そうに、そして今にも泣きそうな顔で柘榴と陽炎を見合わせる。
すると、二人はにこりと愛想の良い笑みを浮かべて、親指を立てて星座達を安心させようとする。
『ハンターと賞金首の生命力、舐めンな!』
ようは、己の身は己らで頑張って守ってみると言ってるのだろう。強がりの、宣言。
強がりの子供達の宣言だ。一人は既に二十歳を超えているのだが。
強がりの青年と少年は、立てた親指をゆっくりと下に向けて、互いを見やってから、「死んだらこれだから」と、線を親指で首元に引いて、笑いあう。
「…………陽炎君は、何と残酷な選択をするものじゃのう」
魚座が少し憂いを帯びながら苦笑する。それに合わせて、陽炎もお返しの笑みを魚座に浮かべる。
柘榴は、少し視線をそらしながら、魚座に、まぁ頑張って、と声をかける。
「それで、えっと、蟹座、鳳凰座、鷲座だけ残って。おいらの要求を飲んだら、それ相応の見返りは返すって約束すっから」
「今すぐ死にそうな奴の言葉など信じられるか」
蟹座は納得できないのか、だが珍しく許可が下りたのに陽炎の血をそれ以上見ようとせず、指を元の長い指に戻すと、陽炎の傷を水瓶座にすぐに治すように言いつける。
陽炎は、蟹座が水瓶座に治すよう言うなんて珍しくて、蟹座は動揺でもしてるのかと天地がひっくり返った衝撃を陽炎は受けた。
蟹座は怪我の治った陽炎を見ると愛属性皆の騒ぎたてる声と、静かな睨みを無視して己の腕の中に閉じこめて、それから柘榴に向き直る。
強く抱きしめると思ったが、意外と蟹座は壊れ物を触るような力でしか抱きしめなかったので、簡単に抵抗するだけで腕から抜けられるが、陽炎は、縋るように感じられて――しょうがないなと甘んじて抱きしめられたままでいた。
「こいつが死なない保証もない」
「嗚呼、それならね、大丈夫。多分、マフィアっぽい大人が影で画策するだろうし、赤蜘蛛に頼んで警備増やせばいいし、何よりかげ君だって星座の力があったからとはいえ、百の痛み虫っつー名でハンター業やってたんだから! か弱い御姫じゃぁないんでしょ?」
姫って何だよ、と文句を言う陽炎の怒鳴り声よりも先に蟹座が眉をひそめて、まふぃあ? と首を傾げた。
「よく分かんないけど、味方っぽい人がいる。その人に錠剤を貰った。どんな人か、想像つくデショ?」
柘榴のその言葉は水瓶座を納得させるのには十分で。
最初に呪いだと言って、水が効かずに持っていた錠剤を飲めばそれで少し落ち着くのは呪いの進行を止める効果を少し体内に宿らせる錠剤だったからか、と静かに感心した。
だがそれと同時に微妙にしかその効果が判らない錠剤を、呪った主ではなさそうなのに作れた腕前の見えない相手に怯えた。
完璧に治すわけでもなく、ちゃんと病人に見えるような程度の効力を作れるような相手に。
呪いは複雑で、妖術の分野の一つだが、数式を一つでも間違えればそれは自分へと跳ね返り、元の呪いよりも酷い呪いが己に来る。
手元にない数式を間違えず、微調整まで出来るような、高レベルの……――。
「妖術師、ですね」
「妖術師、普通の殺し屋より最低レベルでも動けなきゃなれないのは、知ってるか? そんな奴が影で見守ってるんだぞ」
水瓶座の強張って確認するような顔に、柘榴は己も得体の知れないものを感じていたから、その怖さは当然だと肯定するように慎重に頷いた。
正直な話、今死にかけていることよりも、その人間が少し怖かったりもする。
柘榴の妖術嫌いは、水瓶座は知っている。そして鷲座や獅子座、陽炎に至っては妖術師を扱う者も嫌ってることも知っている。
水瓶座は妖術嫌いの柘榴が、よくもこんなに高度の妖術を自分に調べさせる前に口にした物だ、と怪しんだ。
柘榴は妖術が高度であればあるほど、嫌う節があるから。
だが好き嫌いを選べないほどせっぱ詰まった状態が、今だと言うことを思いだし、納得する。
「素性の知れん奴にこいつを任せろと?」
「素性が判ってても危ない奴もいるデショ、あんたとか」
その言葉に蟹座は反論するつもりはない。他の星座より危ない気質だというのは自覚しているからだ。特に負い目はないのだが。
何より相手の言葉は尤もだと思い、蟹座は陽炎を離して、柘榴に詰め寄る。
「見返りとは、何でも良いのか――?」
「思いのままに、DV貴公子。それに、美しい霊鳥に、気高い大鳥?」
柘榴がそろそろ高熱にうなされる頃が復活すると己で察知したのか、早々に他の者に出て行くように命じて、水瓶座も陽炎もそこに居るのは許されなかった。
――とはいえ、大人しく出て行く一同ではなく、皆でドアに耳を当てて中の声を聞こうとするのだが、鷲座が滅多にあげない怒号を飛ばしていることしか判らなかった。
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