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第二部――第一章 屈辱の譲渡
第九話 主人の決断。
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水晶を探しに行っていた水瓶座は水晶を見つけ、そして頼まれていた彫刻刀を手に看病していた部屋へと戻ると、そこには柘榴に馬乗りになってビンタを何度も往復させている大犬座の姿があった。
水瓶座はテーブルにそれらを置くと、止めようか止めまいかと目を丸くして慌てた。
「馬鹿ッ、ゴキブリ肌ッ、人力皮むき器ーー!!! 何よ、何よそれ!? 捨てるなとは言わないけど、何も今捨てることないじゃないのよ!! 陽炎ちゃんも、貴方も危ないときに!」
涙をぼろぼろと零しながら、大犬座は容赦なく子供の力で柘榴の頬をビンタしまくる。褐色の肌が痛みで一瞬ずつ赤くなるが、痛みは痛み虫が食うのでダメージはない。
痛み虫がダメージを食うから抵抗をしないわけではない。柘榴はこの痛みを甘んじて受けるべきだと判断し、そのまま受けつつも、反対を認めないと言ったのは確かであると目で訴える。
その目に耐えられなくなった大犬座はついにはビンタをやめて、両手で顔を押さえて無き喚いた。魚座がずるずると大犬座を抱えて、あやす。
その目に耐えられなかったのは、大犬座だけではない。
「柘榴陛下、ワクチンで皇子が悪者にされるなら、水の女男だけ追い出せばいいだ!」
「獅子座どの、大犬座どの、少しお黙りなさい。彼の言葉を聞こう。蟹座、君もその刃物にしている指を普通の指に戻しなさい」
鷲座が片眼鏡をかけ直して、それから或る程度自分もショックだったのを大犬座に任せて思う存分殴らせてから、止めた。
大犬座のダメージならば体力のない彼には良い罰となるだろうけれど、そして己らの心の痛みを伝えられるだろうが、獅子座や蟹座となると殺意にまでいずれは到達する。
早速、蟹座の隠す気配のない殺気と、瞳の狂気に気づくなり、そう言葉で制した。
蟹座は殺気をそのままに柘榴へ歩もうとしたが、柘榴の隣に陽炎が居て、視界に入った。 陽炎は手の内のプラネタリウムを大事そうに抱えている。
その目には悲しみとほんの少しの悔しさが籠もっている。
夜色の目が己という星を映してくれない怒りは、すぐにも脳に伝達する。
(――これから捨てるというのに、今更大事にされてもな、ただむかつくだけだ、陽炎。いっそ今お前が主人でいる間に殺してやろうか? それはきっと最高の悦びを感じられる――)
蟹座は苛々としたまま陽炎へそのまま刃物になっている指を首元にゆっくりと振り下ろす。
だが、陽炎は柘榴から退く大犬座を視線だけで見送ってから、魚座をちらりと見、それから己へ振り返り……――その刃先を強い視線で見やり、己の肉を少し味見させるかのごとく、首から肩へ狙いをそらさせて肩へ思いっきり刺させる。
その感触と、瞬間溢れた艶やかな紅に蟹座は少し悦んだ。その証拠に一瞬瞳孔が開いた、だがそれと同時に驚き、思わず貶し言葉を口にし忘れた。
陽炎は痛みによる声などあげず、多少傷の痛みで震えたが、それを表にも出さず、毅然とした態度で、満足したか、と冷たく口にした。
「……――む?」
「お前は俺の血が見たいんだろ。この件が終わったら思う存分切り刻めばいい。だけど、今は俺はプラネタリウムの主人としてお前に接する。今、柘榴が何を考えているか少し判った……お前達が考えているようなことじゃない。捨てるように見せるだけだ。だけど……――」
そのまま出血したまま、皆を見やる。順番に、星座達を見つめて、それから今度は無理のない笑みを浮かべた。――それに何か苦渋が雑ざっていると気づいたのは、鷲座だけ。
鷲座は些細な陽炎の反応でも見逃さず、周囲の反応も見逃さず、彼を甘やかせる環境を作る気はないのだから気づけた。
彼が決断したことならばそれがどんな結果でも文句は言うつもりはないのだが、笑みを浮かばれると切ないものがあって悔しさだってある。
今、――己だって守りたい。だが、彼が何かを耐えながら決意したのなら、そしてそれが彼自身を守る術ならば少しはその成長を喜ぶべきだと思う。
(だけど、何かな、ご主人殿――)
鷲座は自然に浮かべられている「わけではない」笑みをそのままに問いただすことはしなかった。
周りは気づいてないのだから、黙ったままにしておこう。
水瓶座はテーブルにそれらを置くと、止めようか止めまいかと目を丸くして慌てた。
「馬鹿ッ、ゴキブリ肌ッ、人力皮むき器ーー!!! 何よ、何よそれ!? 捨てるなとは言わないけど、何も今捨てることないじゃないのよ!! 陽炎ちゃんも、貴方も危ないときに!」
涙をぼろぼろと零しながら、大犬座は容赦なく子供の力で柘榴の頬をビンタしまくる。褐色の肌が痛みで一瞬ずつ赤くなるが、痛みは痛み虫が食うのでダメージはない。
痛み虫がダメージを食うから抵抗をしないわけではない。柘榴はこの痛みを甘んじて受けるべきだと判断し、そのまま受けつつも、反対を認めないと言ったのは確かであると目で訴える。
その目に耐えられなくなった大犬座はついにはビンタをやめて、両手で顔を押さえて無き喚いた。魚座がずるずると大犬座を抱えて、あやす。
その目に耐えられなかったのは、大犬座だけではない。
「柘榴陛下、ワクチンで皇子が悪者にされるなら、水の女男だけ追い出せばいいだ!」
「獅子座どの、大犬座どの、少しお黙りなさい。彼の言葉を聞こう。蟹座、君もその刃物にしている指を普通の指に戻しなさい」
鷲座が片眼鏡をかけ直して、それから或る程度自分もショックだったのを大犬座に任せて思う存分殴らせてから、止めた。
大犬座のダメージならば体力のない彼には良い罰となるだろうけれど、そして己らの心の痛みを伝えられるだろうが、獅子座や蟹座となると殺意にまでいずれは到達する。
早速、蟹座の隠す気配のない殺気と、瞳の狂気に気づくなり、そう言葉で制した。
蟹座は殺気をそのままに柘榴へ歩もうとしたが、柘榴の隣に陽炎が居て、視界に入った。 陽炎は手の内のプラネタリウムを大事そうに抱えている。
その目には悲しみとほんの少しの悔しさが籠もっている。
夜色の目が己という星を映してくれない怒りは、すぐにも脳に伝達する。
(――これから捨てるというのに、今更大事にされてもな、ただむかつくだけだ、陽炎。いっそ今お前が主人でいる間に殺してやろうか? それはきっと最高の悦びを感じられる――)
蟹座は苛々としたまま陽炎へそのまま刃物になっている指を首元にゆっくりと振り下ろす。
だが、陽炎は柘榴から退く大犬座を視線だけで見送ってから、魚座をちらりと見、それから己へ振り返り……――その刃先を強い視線で見やり、己の肉を少し味見させるかのごとく、首から肩へ狙いをそらさせて肩へ思いっきり刺させる。
その感触と、瞬間溢れた艶やかな紅に蟹座は少し悦んだ。その証拠に一瞬瞳孔が開いた、だがそれと同時に驚き、思わず貶し言葉を口にし忘れた。
陽炎は痛みによる声などあげず、多少傷の痛みで震えたが、それを表にも出さず、毅然とした態度で、満足したか、と冷たく口にした。
「……――む?」
「お前は俺の血が見たいんだろ。この件が終わったら思う存分切り刻めばいい。だけど、今は俺はプラネタリウムの主人としてお前に接する。今、柘榴が何を考えているか少し判った……お前達が考えているようなことじゃない。捨てるように見せるだけだ。だけど……――」
そのまま出血したまま、皆を見やる。順番に、星座達を見つめて、それから今度は無理のない笑みを浮かべた。――それに何か苦渋が雑ざっていると気づいたのは、鷲座だけ。
鷲座は些細な陽炎の反応でも見逃さず、周囲の反応も見逃さず、彼を甘やかせる環境を作る気はないのだから気づけた。
彼が決断したことならばそれがどんな結果でも文句は言うつもりはないのだが、笑みを浮かばれると切ないものがあって悔しさだってある。
今、――己だって守りたい。だが、彼が何かを耐えながら決意したのなら、そしてそれが彼自身を守る術ならば少しはその成長を喜ぶべきだと思う。
(だけど、何かな、ご主人殿――)
鷲座は自然に浮かべられている「わけではない」笑みをそのままに問いただすことはしなかった。
周りは気づいてないのだから、黙ったままにしておこう。
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