【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

文字の大きさ
上 下
66 / 358
第二部――第一章 屈辱の譲渡

第九話 主人の決断。

しおりを挟む
 水晶を探しに行っていた水瓶座は水晶を見つけ、そして頼まれていた彫刻刀を手に看病していた部屋へと戻ると、そこには柘榴に馬乗りになってビンタを何度も往復させている大犬座の姿があった。
 水瓶座はテーブルにそれらを置くと、止めようか止めまいかと目を丸くして慌てた。

「馬鹿ッ、ゴキブリ肌ッ、人力皮むき器ーー!!! 何よ、何よそれ!? 捨てるなとは言わないけど、何も今捨てることないじゃないのよ!! 陽炎ちゃんも、貴方も危ないときに!」

 涙をぼろぼろと零しながら、大犬座は容赦なく子供の力で柘榴の頬をビンタしまくる。褐色の肌が痛みで一瞬ずつ赤くなるが、痛みは痛み虫が食うのでダメージはない。
 痛み虫がダメージを食うから抵抗をしないわけではない。柘榴はこの痛みを甘んじて受けるべきだと判断し、そのまま受けつつも、反対を認めないと言ったのは確かであると目で訴える。
 その目に耐えられなくなった大犬座はついにはビンタをやめて、両手で顔を押さえて無き喚いた。魚座がずるずると大犬座を抱えて、あやす。
 その目に耐えられなかったのは、大犬座だけではない。
 

「柘榴陛下、ワクチンで皇子が悪者にされるなら、水の女男だけ追い出せばいいだ!」
「獅子座どの、大犬座どの、少しお黙りなさい。彼の言葉を聞こう。蟹座、君もその刃物にしている指を普通の指に戻しなさい」


 鷲座が片眼鏡をかけ直して、それから或る程度自分もショックだったのを大犬座に任せて思う存分殴らせてから、止めた。
 大犬座のダメージならば体力のない彼には良い罰となるだろうけれど、そして己らの心の痛みを伝えられるだろうが、獅子座や蟹座となると殺意にまでいずれは到達する。
 早速、蟹座の隠す気配のない殺気と、瞳の狂気に気づくなり、そう言葉で制した。
 
 蟹座は殺気をそのままに柘榴へ歩もうとしたが、柘榴の隣に陽炎が居て、視界に入った。 陽炎は手の内のプラネタリウムを大事そうに抱えている。
 その目には悲しみとほんの少しの悔しさが籠もっている。
 夜色の目が己という星を映してくれない怒りは、すぐにも脳に伝達する。
 

(――これから捨てるというのに、今更大事にされてもな、ただむかつくだけだ、陽炎。いっそ今お前が主人でいる間に殺してやろうか? それはきっと最高の悦びを感じられる――)


 蟹座は苛々としたまま陽炎へそのまま刃物になっている指を首元にゆっくりと振り下ろす。
 だが、陽炎は柘榴から退く大犬座を視線だけで見送ってから、魚座をちらりと見、それから己へ振り返り……――その刃先を強い視線で見やり、己の肉を少し味見させるかのごとく、首から肩へ狙いをそらさせて肩へ思いっきり刺させる。
 その感触と、瞬間溢れた艶やかな紅に蟹座は少し悦んだ。その証拠に一瞬瞳孔が開いた、だがそれと同時に驚き、思わず貶し言葉を口にし忘れた。
 陽炎は痛みによる声などあげず、多少傷の痛みで震えたが、それを表にも出さず、毅然とした態度で、満足したか、と冷たく口にした。

「……――む?」
「お前は俺の血が見たいんだろ。この件が終わったら思う存分切り刻めばいい。だけど、今は俺はプラネタリウムの主人としてお前に接する。今、柘榴が何を考えているか少し判った……お前達が考えているようなことじゃない。捨てるように見せるだけだ。だけど……――」

 そのまま出血したまま、皆を見やる。順番に、星座達を見つめて、それから今度は無理のない笑みを浮かべた。――それに何か苦渋が雑ざっていると気づいたのは、鷲座だけ。
 鷲座は些細な陽炎の反応でも見逃さず、周囲の反応も見逃さず、彼を甘やかせる環境を作る気はないのだから気づけた。
 彼が決断したことならばそれがどんな結果でも文句は言うつもりはないのだが、笑みを浮かばれると切ないものがあって悔しさだってある。
 今、――己だって守りたい。だが、彼が何かを耐えながら決意したのなら、そしてそれが彼自身を守る術ならば少しはその成長を喜ぶべきだと思う。

(だけど、何かな、ご主人殿――)

 鷲座は自然に浮かべられている「わけではない」笑みをそのままに問いただすことはしなかった。
 周りは気づいてないのだから、黙ったままにしておこう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

闇に咲く花~王を愛した少年~

めぐみ
BL
―暗闇に咲き誇る花となり、その美しき毒で若き王を  虜にするのだ-   国を揺るがす恐ろしき陰謀の幕が今、あがろうとしている。 都漢陽の色町には大見世、小見世、様々な遊廓がひしめいている。 その中で中規模どころの見世翠月楼は客筋もよく美女揃いで知られて いるが、実は彼女たちは、どこまでも女にしか見えない男である。  しかし、翠月楼が男娼を置いているというのはあくまでも噂にすぎず、男色趣味のある貴族や豪商が衆道を隠すためには良い隠れ蓑であり恰好の遊び場所となっている。  翠月楼の女将秘蔵っ子翠玉もまた美少女にしか見えない美少年だ。  ある夜、翠月楼の二階の奥まった室で、翠玉は初めて客を迎えた。  翠月を水揚げするために訪れたとばかり思いきや、彼は翠玉に恐ろしい企みを持ちかける-。  はるかな朝鮮王朝時代の韓国を舞台にくりひげられる少年の純愛物語。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

処理中です...