【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

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第二部――第一章 屈辱の譲渡

第三話 謎の優雅な男

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 それから立ち眩みが今は無いのを確認して、丸秘ノートに現在の症状をメモしながら、劉桜の様子を見てそれも追記していく。
 それを終えるなり、劉桜を一人で担ぎ、ゆっくりと歩いていく。徐々に体に重みと、熱を帯びながら。

(――参ったな、これで治らなかったらかげ君に怒られる。あれ程体調には気をつけていたんだけどな。嗚呼、でも痛み虫のキャパシティはまだおいらもるおーもある筈だから、痛み虫が覚えてくれるかも知れない。少なくともこんな症状、おいらは出たこと無いから、きっと痛み虫が――)

 劉桜の肩を担ぎながら歩いて思考していると、地面に捨てられた新聞が転がっていた。
 
 ――恐怖、痛み虫が生存しない病。
 
 そんな記事が、新聞の端っこに書かれていた。そう、誰も読まないような箇所に。

(――おいおい、そういうのが一番大事でしょ。何で誰々の誰々が結婚したとかそういうのは一面トップにして、そういうのを隅っこに追いやるんだよ)
 
 柘榴は舌打ちをしながら、ゆっくりと帰ろうとしたが、徐々に体が本当に重みを感じた、というより熱が酷くなりつつあるのだろう。
 もとより太陽には弱い種族、だから熱には敏感ですぐに体温があがると判る。
 突然の発熱、これも後で追記せねばと思いつつも呼吸乱れさせて歩いていたら、目の前に人が立ちはだかっている。
 
 目の前に真っ黒の服装に白のファーが裾の最後までついている、真っ赤で上品と華美の合間の長衣を身に纏った男が目の前の道を塞ぐように立っていた。
 ただ立っているだけなのだが実際は、それでも彼から感じる不思議な威圧感が歩む足を止めている。無視して立ち去れる筈なのに、この足は動かない。
 ――男は濃いサングラスで眼を覆い隠していて、手には豪華な装飾品をつけてるくせに、首周りや耳元には一切装飾品をつけていないので、その手の装飾品はきっとオシャレではなくて何かの妖術で必要な装飾品なのだな、と柘榴は悟った。
 妖術を使うときはよく手を使うから、手からの力が伝授しやすいのだ周りに。
 
(――妖術師)

 柘榴は胸の中で、何か黒い物がざわめいた。体に熱よりも深く浸透していくような感覚。
 だけど、目の前の男はそれを知ってるように、よく聞いて、と拒絶されるのを制した。
 
 男は綺麗な金に近い明るい茶色い髪の毛を掻き上げて、綺麗に口元を歪ませた。
 口元にはタバコらしきものがあって、幼い子供が見たら、マフィア! と叫びそうだ、と軽く柘榴は思いつつも、男に「道を通りたいから退いてくれ」と頼もうとしたときだった。
 
 
「プラネタリウムを手放しちゃ駄目だよ――」
 
 
 男は見かけとは裏腹に、否、見た目通りなのか穏やかに、落ち着いた優しい声と口調で柘榴に声をかけた。
 その声は低い癖にやけに耳に残る――かと思えばすぐに忘れてしまいそうな声で、耳障りの良い、占い師をイメージさせるような声だった。
 口元が上品に動く。

「星座は幾らでも貸し出せばいいよ、だけどプラネタリウムを手放しては駄目。手放したら最後、陽炎君はあいつらにコンクリで海に沈められて、君たちは今の呪いをオレが解いたとしても、すぐに呪いをかけられて、以前より深く体が覚えているから相乗効果の呪いとなり、早死にしてしまう――」

 突然、この男は何を言い出すのだろう。
 柘榴は男を睨もうとしたが、睨もうにも何処を睨めばいいか判らない。
 頭が少し熱でおかしくなっているのかもしれない。柘榴は、息をついて、反論する事が出来なかった。
 言いたいことはいっぱいあるのに。
 例えばそう、今の状態をどうして呪いだと彼は言ったのか、とか、何故陽炎を知っているのか、何より己は妖術師を信じられないと――。
 そんな柘榴をお構いなしに男は言いたいことをどんどん言ってくる。かといって急かすような早口ではなく、やはりゆっくりとした口調で、穏やかだった。

「今すぐに君たちだったら、呪いを解いてやっても良い。世話になったみたいだから、親愛なる陽炎君が。だがね、すぐに此処で解くと罠を仕掛けた奴が、君たちを妖術を使える者が見張っている、ということに気づいてしまうんだね――だから下手に対策を立てられると厄介、ナノヨ。今オレは思わぬ伏兵なのだしね」
「……今、誰が狙っている」
 
 聞きたいことは山ほどあったのだが、熱の所為で思考が纏められない。
 なので、何か自分たちを誰かが罠に陥れたと確信している男に、一言そう聞くと、男は口元からタバコを手を使わずして妖術で――よく見るとタバコは小さなホワイトチョコだった――離す。
 それから男は歪めた口元をまっすぐに戻して、真面目な顔をするが、その顔は微笑まれても真面目になってもおちゃらけられても怖い印象のままだ。
 ただ顔が恐ろしいとかではなく寧ろ、整った顔立ちの部類だろうけれど、何処か気迫負けしそうな部分があって、そこが柘榴に怖いと得体の知れない思いをさせる。
 得体の知れない上品をその身に模写したような男は口元をやはり、綺麗に動かす。
 
「言葉選びが上手い。聡いね。――聡い子だから、君はそれが来たらすぐにオレの言った意味がどれに繋がって、どれが正解だかすぐに謎解きできて判るはずだ。だけど今回、君は以前のようにすぐには駆けつけられないし、酷い呪いに魘される。そう、だからどうしても自分では動けなくなったとき、鴉座の封印解除をすることだ。今回のナイトは譲ってやんなさい。そしてプラネタリウムから黄道十二宮を一人作る。誰を作ればいいか、鴉は狩人に弱いからね、それを言えば分かるだろう? 余計なもめ事を起こしたくなかったら、封印を解除した鴉座に頼んでその狩人の属性を操ってしまいなさい――」
「……痛みを覚えさせたくないし、今更どんな痛み虫を百も持ってる奴に……」
 
 ――何より、何故あんたはそこまで詳しい?
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