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第一部――第九章 星座とラストダンス
番外編――太陽が一人きりでいることを決めた時4
しおりを挟む「鷲座……柘榴って……ガンジラニーニって……?」
「……――陽炎どの。あの方は、貴方よりも闇を抱えているようです。それだけしか言えない、今は。こればかりは、彼自身が口にすることでしか許されないだろう。……ただね、例えどんな暗闇を背負っても、ああやって頑張って生きている姿を、君は目に焼き付けると良い」
「……――そういえば、俺は……柘榴のこと、あんまり知らないな。妖術だって、何であんなに嫌っているかも……」
「――……ガンジラニーニと妖術は太古からの因縁、であり切っても切り離せない。……我々とは、もしかしたら必然的に出会ったのかもしれません、柘榴は。ねぇ、陽炎どの――……君は、もし一緒に居るだけで毎回不幸がふりかかるとしても、あの方の側に居たいと思います?」
「……毎回不幸は嫌だけど、不幸の基準なんて分かんないし、居たいと思わなかったらとっくに逃げてるよ。俺が逃げるの得意なの知ってるだろ」
陽炎が特に考えもせずにそう答えると、鷲座と獅子座は顔を見合わせて何処か嬉しそうな顔をした。
(昔、プラネタリウムに妖術をかけた妖術師が愛した種、そのプラネタリウムに愛された種……――。これは、偶然なのか、必然なのか、推し量りがたいな。だけど――)
(だけど、皇子と陛下が一緒にいる姿を見るのが好きだ。それで今は満足だ!)
やけににこにことしている獅子座が理解できなくて、陽炎は訝しげに首を傾げたが、まぁいいかと、その話題を放り投げて、もう口にはしないことにした。
柘榴の決心が、つくまでは待つことにしたのだ。
いつか、話してくれることを願って。
*
夜、屋根の上で、久しぶりに一人きりで、月光を浴びる、青白い聖霊。
「聖霊」と人々が呼ぶのは、「聖」なる者を嫌う生き「霊」だと知っているから。
生きた屍は、肌色を久しぶりに元の色に戻せば、己の体を見て、嘲笑う。
「あの絵本はね、間違って居るんだよ……。月夜と戯れたんじゃない。太陽の下に出ると、死ぬから。だから、夜にしか徘徊出来なかったんだよ。夜だけ出歩くのを許されたんだ」
金糸がやけに艶めかしい。その青白い肌を飾るように、綺麗に鮮やかな色合いで。
瞳の色は、憂いを携えた青い青い優しい色。悲しいほどに、優しい色。先祖達の涙を色で表したような、色合い。
服装は、いつもの彼と変わり映え無く、そこに居るのは――柘榴だった。
「本当に、何ともくだらない事を話している絵本だね。そのくせ、一つ隠し事をしている」
柘榴は星に手を伸ばし――
「世界は、おいら達、ガンジラニーニを使って黒玉の元祖。施設のプラネタリウムを作ったのに……」
中指をたてて、不敵に笑う。
「見殺しにしたんだ。なぁ、そんな世界、綺麗なんだと信じ込まなきゃ、やっていけないだろ? 生まれたからには、人生満喫したいだろ? 憎むだけは疲れるし飽きた」
春が近いというのに、ふわりと冬を迎えるような冷風が彼の周りに漂う。それは、太古の呪いの証。
ガンジラニーニが、ガンジラニーニの話に更に磨きをかけてしまった、忌まわしい証。
そして、今もその太古が続いているという――。
「太陽に憧れた。太陽がどんなものか知りたかった。だから――」
だが、それも一瞬で春風のような生ぬるい風になり、肌の色も何か唱えると褐色へと戻る。
その己を見て、柘榴は安堵し、月を恨めしげに睨む。
「だから、おいらの先祖は死に神と取引したんだ。かげ君、あんたが持ってるあの黒玉を作った死に神――……」
妖術の、怖さを知るのは、まだ少し先のこと。
柘榴は手にしてる一輪の花――「聖なる乙女」という花言葉を持つ花――に、愛してると心から告げる。
すると、花はすぐに枯れて、あっという間に茶色くかさかさと乾燥した。
それを見つめるのは悲しみに満ちた彼の瞳と、彼の背後にうろつく顔のない黒衣の死に神――。
(――愛してくれて有難う。でも私たちは、死に神から逃れる術はないのです。死に神が許すのは星と月の会話だけ。彼らの睦言の証言者として存在する身なのです。だから、私達は愛などを語ってはいけないのです。私たちは、屍なのだから――)
月と星だけが知っている、彼と聖者の睦言を。
愛の生き証人、空と屍、それはどちらだろうか――。
愛してるという言葉は、どんな物よりも凶器でしかない。
愛してると告げれば、「死んでしまう」呪いを、生きた屍は抱えているのだから。
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