56 / 358
第一部――第九章 星座とラストダンス
番外編――太陽が一人きりでいることを決めた時3
しおりを挟む「あー。何、いい年して絵本? しかも、ガンジラニーニの? 馬鹿げた話、読んでるね」
「……――そう? 馬鹿げているかな。怖いけれど、純愛だと思うよ」
「……――純愛で人が死んでたら洒落にならないよ。かげ君も注意すればいい。青白い人を見たら、逃げればいいよ。おいらはね、速攻で逃げなきゃって昔から教わったよー。結構子供の間で古くから伝わる話だからね」
「まぁ、――夜に外をうろつくなっていう教訓にもなりそうだからなぁ。外をうろついたら、死に神に会っちゃうよっていう……」
「……そうだね。……――かげ君、有難う、或る程度落ち着いてきた。あんたの言葉って最強だわ。……――それで。それで、何を聞きに来たのかな? おいらか、わっしーに聞きに来たんでしょ、何かその本について」
柘榴は仮面で作ったわけではない笑みを顔に貼り付けて、ため息をついて、降参と呟いた。
ついでにそれは鷲座へ何か聞きたいなら答えると言ってる言葉でもあり。
(――……聞きたいこと。……それは。この本で、屍が持っている長針がお前の持ってるのとそっくりなのと、この間、日焼けし忘れたと笑って見せた箇所が……日焼けしやすい一番の場所だから不思議に思った……だったンだけど……)
陽炎は、少しの間、黙りこくってから、少しずり落ちた眼鏡を持ち上げて、絵本を鷲座に渡した。
「その長針――」
「うん、この長針はね……」
「……マッサージとかに使いやすそうだなぁって思って」
「は」
柘榴は何かしら覚悟していたものがあって、それで聞いたのに、また己のために陽炎が誤魔化したのだと気づくまで数秒かかった。
だが気づけば、呆れるだけで。
大きなため息を盛大について、鷲座と陽炎と獅子座と水瓶座を見やる。
「今、何もない、誰も来てないうちに言っておく。追い出した方が良いよ。もう、これ以上深く関わらない方がいいよ」
柘榴のその言葉は、すぐにも消え去りそうなほどか弱い声で。だけど静かに凛とした声で。
一同は顔を見合わせてから、各自、それぞれ反応を返す。
「何を今更」
「陛下! 主には絶対関わって生きていく、これがおらの生き方だ!」
「柘榴、小生は確たる言葉が欲しいだけ。今のが求める答えであってますね?」
「あの、何がどうなってるかさっぱりなんですけれど……」
誰一人、混乱している水瓶座でさえ、肯定する言葉を吐かない彼らに、柘榴はため息をついて、それに甘えるべきか、それともその甘さを利用すべきか悩み、苦笑する。
「かげ君、いつかおいらは言ったよね、外へ行こう、外は綺麗だって」
「うん」
「――……あんたは、綺麗だと思うかい? 今、この外は。太陽に酷く憧れてるガンジラニーニは、あの強い光を体中に浴びたかった。だから、世界が彼らに何をしたか知らずに一人、外へ飛び出た馬鹿が居たんだよ」
柘榴はけらけらと笑って、これでいいか、と鷲座に確たる言葉と見られる発言をした。
陽炎は言葉を飲み込んだ。
(それなら、どうしてお前の肌は褐色で健康的なんだ――? 世界に裏切られたって――?)
今は、今はそこまで踏み込んではいけない気がして。とりあえず、水瓶座に他言してはいけないよという意味で、視線をやると彼は頷いた。
柘榴はそれからあっけらかんと、外で狩りしてくると告げて、針とワイヤーを手に出て行った。
陽炎と通り過ぎるときに、「世界が暗闇なのはそいつらだけでいい」と柘榴が呟いたので、陽炎は振り向いたが、もう柘榴はさっさと駆けて行っていた。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
【完結】元魔王、今世では想い人を愛で倒したい!
N2O
BL
元魔王×元勇者一行の魔法使い
拗らせてる人と、猫かぶってる人のはなし。
Special thanks
illustration by ろ(x(旧Twitter) @OwfSHqfs9P56560)
※独自設定です。
※視点が変わる場合には、タイトルに◎を付けます。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。

どこにでもある話と思ったら、まさか?
きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる