45 / 358
第一部――第七章 人間なんて信じたいのに
第四十四話 下剋上完了
しおりを挟む
「水瓶座、水……水……」
「陽炎様、まだ足りない。僕のことは?」
「好き……大好き……」
うっとりと見やる眼、だけどその中にいつもの彼らしい強さは最早宿っては居ない。うっとりというより、虚ろと言った方が正しいのかも知れない。
陽炎の自我は急に摂取された水によって、崩壊した。
彼は最早、水に踊らされる人形状態だった。水の糸で操られて、水瓶座の側でぼんやりとしている。
それを見ていて苛立っているのは蟹座、にこにことしているのは鴉座。
水瓶座はもう少し水を陽炎へ飲ませようと動いたとき、蟹座が水瓶を壊して水を無くさせた。我慢の限界がきたようだった。
でももうそんな水がどうでもいいぐらいに、陽炎はプラネタリウムに依存し、水瓶座にべったりと抱きついていた。
水瓶の力は利用できた、だから水瓶座はもうこの場には必要ないし、水瓶さえなければ彼には力はない。
蟹座はにやりと笑ってから、水瓶座から陽炎を取り上げて、水瓶座を蹴って、水の宮に閉じこめた。
水瓶座は文句を言おうとしていたが、水瓶の力を失った彼は人よりもか弱い。
水の宮の中には他の星座一同が居る。
「まさか、自分の巣窟を檻にするとは思わなかった。確かに五月蠅い奴らを此処に閉じこめておくのは好都合だ」
賞賛の言葉を鴉座にくれてやり、それからくくっと喉奥で笑った。鴉座はそれに礼を言う代わりに、恭しく一礼を。そしてその時に、彼はご苦労様でした、と何故か労いの言葉を蟹座へとかけた。
蟹座は首を傾げて、怪しむ。そして、刃で出来てる指を鴉座に向けようとした。
その瞬間、心臓の辺りがどくりと波打った。
鴉座を見やる。鴉座は自分から陽炎を奪い、目隠しをさせて頭を撫でていた。その態度はまるでこうなる昔からの、愛で方と同じで。
そして愛しそうに抱き上げながら、蟹座へ言葉をやる。
「蟹座、貴方本当に私の能力が――情報収集だと思ってましたか?」
「……――情報収集ならば誰にでも出来るからな。薄々何か別の物だとは思った。空を飛ぶ者が、地を這う人間のことなど判るわけがないからな、能力で」
「――なら話はお早い。私はね、嘘つきなんです。鴉というのは嘘つきなのですよ。人を惑わすために嘘をつくのです。ねぇ、貴方のその属性が偽物だとしたら? 私の能力が、属性を操ること、だとしたら?」
鴉座はにこにことした笑みを向けて、初めて蟹座へ友好的に心から笑う。蟹座はその笑みを見て、何かを感じるよりも心臓の鼓動のが気になった。
「……どういうことだ」
「貴方は本来忠実なのに、私が属性を操った。そう言えばお分かり? それとも仮に愛属性だとしても、今忠実に戻したら、貴方は今までの振る舞いを、どうお考えになられるでしょうか?」
「……どのみち、愛属性だっただろうよ。だがな、今、忠実に戻すのは止めろ」
「――ねぇ、蟹座。昔から貴方は主人思いだという姿を見てきましたよ、私は。誰にも作られたことないから、覚えて居るんですよ。絶対忠誠であった――そんな貴方は酷い自己嫌悪に陥り、この方への恋慕どころではなくなります。ねぇ、そんな面白い光景、どうやって見逃すことが出来ましょう?」
ずっとずっとこうすることが楽しみだったような口調で、鴉座は戯れにくすくすと笑う。それに最後でも怯えないのが、流石蟹座というべきか、不敵に笑い、負けを認める。
「……――最初から独り占めが目的だったか? だとすれば、最初から手を組もうとしていたのが納得いく。お前は……狡い奴だからな…ッぐああああ!!!!!」
蟹座は膝を折り、心臓を押さえて、肩で呼吸をしながら、大きく叫ぶ。
鴉座はそれを酷く楽しい劇のように暫し見やってから、それから満足したのか興味なさそうに飛び立つ。
自分の宮へ、鴉座の眠る場所へ向かって飛び立つ。
陽炎のうつろな、水瓶座を求める声が聞こえるので、此処に居ますよ、と鴉座が返事をすると、陽炎は鴉座の首根っこに抱きついて安堵の息をついた。
それに満足して、かつての陽炎に言ってみせる。今はもう居ない彼へ。
「言ったでしょう? 目的のためなら、手段も人選も厭わないと。例え貴方が私を求めていなくても、誰だか判らなければ私を求めているのと同じ。ねぇ、陽炎様、愛しておりますよ」
「陽炎様、まだ足りない。僕のことは?」
「好き……大好き……」
うっとりと見やる眼、だけどその中にいつもの彼らしい強さは最早宿っては居ない。うっとりというより、虚ろと言った方が正しいのかも知れない。
陽炎の自我は急に摂取された水によって、崩壊した。
彼は最早、水に踊らされる人形状態だった。水の糸で操られて、水瓶座の側でぼんやりとしている。
それを見ていて苛立っているのは蟹座、にこにことしているのは鴉座。
水瓶座はもう少し水を陽炎へ飲ませようと動いたとき、蟹座が水瓶を壊して水を無くさせた。我慢の限界がきたようだった。
でももうそんな水がどうでもいいぐらいに、陽炎はプラネタリウムに依存し、水瓶座にべったりと抱きついていた。
水瓶の力は利用できた、だから水瓶座はもうこの場には必要ないし、水瓶さえなければ彼には力はない。
蟹座はにやりと笑ってから、水瓶座から陽炎を取り上げて、水瓶座を蹴って、水の宮に閉じこめた。
水瓶座は文句を言おうとしていたが、水瓶の力を失った彼は人よりもか弱い。
水の宮の中には他の星座一同が居る。
「まさか、自分の巣窟を檻にするとは思わなかった。確かに五月蠅い奴らを此処に閉じこめておくのは好都合だ」
賞賛の言葉を鴉座にくれてやり、それからくくっと喉奥で笑った。鴉座はそれに礼を言う代わりに、恭しく一礼を。そしてその時に、彼はご苦労様でした、と何故か労いの言葉を蟹座へとかけた。
蟹座は首を傾げて、怪しむ。そして、刃で出来てる指を鴉座に向けようとした。
その瞬間、心臓の辺りがどくりと波打った。
鴉座を見やる。鴉座は自分から陽炎を奪い、目隠しをさせて頭を撫でていた。その態度はまるでこうなる昔からの、愛で方と同じで。
そして愛しそうに抱き上げながら、蟹座へ言葉をやる。
「蟹座、貴方本当に私の能力が――情報収集だと思ってましたか?」
「……――情報収集ならば誰にでも出来るからな。薄々何か別の物だとは思った。空を飛ぶ者が、地を這う人間のことなど判るわけがないからな、能力で」
「――なら話はお早い。私はね、嘘つきなんです。鴉というのは嘘つきなのですよ。人を惑わすために嘘をつくのです。ねぇ、貴方のその属性が偽物だとしたら? 私の能力が、属性を操ること、だとしたら?」
鴉座はにこにことした笑みを向けて、初めて蟹座へ友好的に心から笑う。蟹座はその笑みを見て、何かを感じるよりも心臓の鼓動のが気になった。
「……どういうことだ」
「貴方は本来忠実なのに、私が属性を操った。そう言えばお分かり? それとも仮に愛属性だとしても、今忠実に戻したら、貴方は今までの振る舞いを、どうお考えになられるでしょうか?」
「……どのみち、愛属性だっただろうよ。だがな、今、忠実に戻すのは止めろ」
「――ねぇ、蟹座。昔から貴方は主人思いだという姿を見てきましたよ、私は。誰にも作られたことないから、覚えて居るんですよ。絶対忠誠であった――そんな貴方は酷い自己嫌悪に陥り、この方への恋慕どころではなくなります。ねぇ、そんな面白い光景、どうやって見逃すことが出来ましょう?」
ずっとずっとこうすることが楽しみだったような口調で、鴉座は戯れにくすくすと笑う。それに最後でも怯えないのが、流石蟹座というべきか、不敵に笑い、負けを認める。
「……――最初から独り占めが目的だったか? だとすれば、最初から手を組もうとしていたのが納得いく。お前は……狡い奴だからな…ッぐああああ!!!!!」
蟹座は膝を折り、心臓を押さえて、肩で呼吸をしながら、大きく叫ぶ。
鴉座はそれを酷く楽しい劇のように暫し見やってから、それから満足したのか興味なさそうに飛び立つ。
自分の宮へ、鴉座の眠る場所へ向かって飛び立つ。
陽炎のうつろな、水瓶座を求める声が聞こえるので、此処に居ますよ、と鴉座が返事をすると、陽炎は鴉座の首根っこに抱きついて安堵の息をついた。
それに満足して、かつての陽炎に言ってみせる。今はもう居ない彼へ。
「言ったでしょう? 目的のためなら、手段も人選も厭わないと。例え貴方が私を求めていなくても、誰だか判らなければ私を求めているのと同じ。ねぇ、陽炎様、愛しておりますよ」
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
【完結】元魔王、今世では想い人を愛で倒したい!
N2O
BL
元魔王×元勇者一行の魔法使い
拗らせてる人と、猫かぶってる人のはなし。
Special thanks
illustration by ろ(x(旧Twitter) @OwfSHqfs9P56560)
※独自設定です。
※視点が変わる場合には、タイトルに◎を付けます。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。

どこにでもある話と思ったら、まさか?
きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる