【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

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第一部――第七章 人間なんて信じたいのに

第三十九話 醜い救いの言葉を

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 屋敷の持ち主は御祓。元から赤蜘蛛から己をボディーガードとして扱い、身分を匿うよう言われていて素性も知っていたが、目的は知らなかった。御祓は目的を知り、王族の隠し子を見つけて尚かつ今危ないと聞くと、屋敷を提供したが、その屋敷の本来の持ち主は椿だった。
 椿はこの上なく不服だった。
 殺しを依頼したはずなのにその依頼された者は庇護していて、大好きな赤蜘蛛おじさんは陽炎を治そうと必死で、自分の所有物の屋敷も陽炎の星座達で五月蠅いし、唯一陽炎に誇れるであろう家柄も、彼の母国の方が有名な上に王族の隠し子ときた。
 椿は不服を通り越して、少し陽炎が憎くあった。
 皆に囲まれ、皆に愛され、その上家柄もちゃんとある。
 以前もう耐えられないと思い、父親にこれ以上自分の家に居させるのは嫌だと訴えても父親はうんとも言わず、馬鹿者と叱った。


「あの赤蜘蛛様が頼ってくださってるのだぞ。後でどれ程の報償が得られようか。家名もあがる。恩を売るチャンスなんだぞ」
「それほどまでに言うならば、父様の屋敷で彼を預かってください」
「お前の屋敷の方が、フルーティや赤鬼金棒が出入りしやすいだろう。彼らは治療に必要な人間なんだと、赤蜘蛛様が仰っていた。何も一生居る訳じゃあるまいし、大人しくしてなさい」

 家柄が自分より上だとこういう事が起きる。
 だから、陽炎の家柄なんてなかったらよかったのに、と椿はため息をついた。
 どんなに自分の不平も通されず、誰も自分に見向きもしない。
 赤蜘蛛は、時折構ってくれるが、治療に専念したり、母国に連絡を取ったりと忙しそうで邪魔するのも悪い気がして、接触するのを遠慮しつつあるうちに、どんどんと不満は溜まる。

「何で僕が、あんなのを僕の領地に入れなきゃならなくて?」

 椿が顔を顰めながらも、自分の部屋で不服をぼそりと呟いたときだった。

「ガキ、そんなにあの男が要らないなら、オレにくれよ」
「誰だ?!」
「……お前の救世主、もといあの男をここから連れ出してやる盗人だ」

 そう言って現れたのは赤と青の髪の毛がごちゃまぜになった、メイド達が少し騒ぎそうな男。
 人と人でない者の雰囲気は、これでも武芸をたしなんでいるので判るつもりだ。
 何より非常に危険な香りのする男で、これも一種の色香というべきかと戸惑うほどそれは目に見て取れる。
 椿は即座に、陽炎を庇護する者たちが遠ざけようとしている星座だと判った。
 人を呼ぼうとした刹那、自分の頬に彼の指がすっと触り、その指が徐々に刃物に代わり、自分の肌を傷つけるか傷つけないかぎりぎりのラインで触れていた。

「救われたいか、死にたいか?」

 男は静寂な場に似つかわしい声で、選択肢を二つ与えた。

 その言葉は、甘美だった。
 それに頷けば憎い陽炎を追い出せる理由が出来る。脅されて仕方がなかったのだと言い訳も出来る。父親にも怖くて立ち向かえなかったと言い訳が出来る。だから赤蜘蛛も仕方がないと思ってくれるだろう。
 椿は、少しだけ震えながら微笑んで、それは勿論、と言葉を続ける。

「救われる理由を作ってくれるなら」
「お前はオレに脅された。それでいいだろ。ほら、証拠にこうしてやるよ」

 そう言うなり星座は自分の頬に三本の傷をつけた。見かけからは痛々しいが案外そんなに痛く感じないのは、きっと陽炎を追い出せる高揚感の所為だろう。
 男は低く笑い、自分の机に腰掛ける。

「今、あいつはどうなっている?」
「禁断症状が出ても、魚座が似た成分の水を少し与えて、その水を減らしていって、依存性を減らそうとしています。時折、百の痛み虫が暴れますが、それは赤鬼金棒が押さえつけて、フルーティが彼の自我に呼びかけて、止めて、それでも止まらなかったら、獅子座が負担をかけないように秘孔をついて、気絶させます」
「……ふぅん、まだ暴れると言うことは、今あの水を大量にあげれば、また此方へ戻ると言うことか……否、以前より強くこっちを願うだろうな」

 星座はくつくつと楽しそうに笑い、それは闇の中では一際美しく見えた。
 この星座も陽炎の虜だと知っても憎くはなかった。この男は、自分の屋敷から陽炎を連れ去って、災難を減らしてくれるだろうから。そう、まさに彼の言うとおり救世主なのだと判ったから。

「初めて、あいつに入れ込んでる奴に感謝します」
「……――っふ、此方も感謝しよう。あいつの周りに、まだあいつを嫌う人種が居たとはな。否、これが本来の姿か」

 闇の似合う綺麗な男は綺麗に嘲り、綺麗な刃物の指を綺麗な長く白い指に戻す。


「さて、では詳しくこの家の構造や、今のあいつの生活リズム、人の来る時間帯、誰が居るか、を聞こうか?」

 男の浮かべた笑みは、三日月よりも美しく妖艶であった。
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