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第一部――第六章 朧月を閉じこめたプラネタリウムに、三人の勇者
第三十六話 柘榴の主張
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きっと自分の中で、救えなかったか、救えたかどうかを判断しているのだろう。
でもこの様子からすると、以前の自滅した友人とやらも、こういう体験をしたのだろうか。
そう聞いてみると、そのままの格好で、少し小さな声で「あんたほど酷い扱いじゃあなかったねぇ」と声が返ってきた。
「……――あのさぁ」
柘榴は、頭を抱えながら、陽炎を見ようとはせず、声だけを陽炎に向ける。
「何で、あんたらは道具に頼るの?」
その声が少し涙ぐんでいた、というのは気のせいだろうか。気のせいにして欲しがってるように見えたので、気にしないことにした。
あんたら、というのはきっと前の友人と重ねて聞いてるのだろう。
「人が嫌いになったら何で道具に走るの? どうせだったら、人を恨んで人を憎んで、そのままでいればいいじゃん。それが辛いっていうんだったら、外に出なきゃいいじゃん。ずっと部屋に籠もって餓死しちまえばいいじゃん。……自殺を勧めるわけじゃないけどさぁ、何で、何で、あんな黒玉に頼るわけ? 妖術使ってあるって知ってたんでしょー?」
「まぁうん。妖術を利用して出来た物ってのは知ってた」
「妖術って、あからさまに人を駄目にする為の物じゃないか。あからさまに、何かしらしてくれそうじゃないか。妖術はろくな事がない! それでも、何でそんな妖術の道具に頼るの?」
感情を柘榴は押し殺しているわけではない。押し殺しているのは声だけだ。
柘榴は思ったことをそのままに述べて、純粋に疑問を投じている。表情は見えないがそんな気がした。
だからこそ、自分は恥ずかしくも情けない返答をするだけ。陽炎は掠れた声で、ゆっくりと返事をする。
「……頼るのは、そんなに悪いことかよ。俺は、生憎、人にへらへら笑って生きることも出来なきゃ、人にすぐに心開いて生きられるほど不器用じゃねぇ。かといって寂しさを感じないほど、無感情じゃねぇ。死ぬのも怖い、悪いか?」
「……逃げるなよ。社交性を覚えろよ。何のために、おいらが街中連れ回して、ちょっとづつ友人作らせようとしてたか判りマスカー? 世界はあんたが思ってるより、暗闇に満ちてる訳じゃないって思わせたかったからだ。酷い人間だけじゃない、それはるおーが居るから判るっしょ?」
嗚呼、もうと柘榴はため息をついて、漸く顔を見せた。
その顔は少し怒気が含んでいて、初めてそんな顔を見たので、陽炎は思わず噴きだしてしまった。笑い声をたてようとは思わなかったが、少し喉が痛むが我慢する。
「安心しろよ、もう道具に頼りすぎるつもりはない。お前が色々対抗してくれる奴を作ってくれたから、もうそれで任せて星座は作らない。だけど捨てない」
「……捨てない? ――また蟹座とかくるんじゃないの? どうするの、その時は」
「その時は……人間に頼ればいいだろ? お前みたいに、お人好しの馬鹿にさ」
陽炎はまた笑おうとして失敗し、咽せる。
それに慌てて柘榴が駆け寄り、背中をさする。その手つきは何処か母親のようで、また泣きそうになる。
それに気づいた柘榴は少し戸惑った後、暖かく柔らかな笑みを浮かべて、背中をぽんぽんと叩いた。
「……泣きたいなら泣けよ。涙を堪えられるのは、扉の向こうのあんたが愛する星座達も耐えらんないと思うしぃ」
「……一番泣いて欲しいのはお前だろ? 怖かったーって。そう言えば、安心するんだろ? それで、……有難う、救われたって言ったら、もっとお前は安心するだろう? 俺、まだ自滅してねぇよ。俺はまだ、俺で居るんだから」
その言葉に柘榴は、ははっと笑い、敵わないなぁと苦笑を浮かべた。
(――どうしてその言葉を言われたかったか、望んでいたか、ばれたんだか)
読心術が陽炎にはもしかしてあるのかなぁーなんて疑ってみながら、陽炎の頭をぽんぽんと撫でてやり、それから外の人物達に入っていいよーと声をかける。
でもこの様子からすると、以前の自滅した友人とやらも、こういう体験をしたのだろうか。
そう聞いてみると、そのままの格好で、少し小さな声で「あんたほど酷い扱いじゃあなかったねぇ」と声が返ってきた。
「……――あのさぁ」
柘榴は、頭を抱えながら、陽炎を見ようとはせず、声だけを陽炎に向ける。
「何で、あんたらは道具に頼るの?」
その声が少し涙ぐんでいた、というのは気のせいだろうか。気のせいにして欲しがってるように見えたので、気にしないことにした。
あんたら、というのはきっと前の友人と重ねて聞いてるのだろう。
「人が嫌いになったら何で道具に走るの? どうせだったら、人を恨んで人を憎んで、そのままでいればいいじゃん。それが辛いっていうんだったら、外に出なきゃいいじゃん。ずっと部屋に籠もって餓死しちまえばいいじゃん。……自殺を勧めるわけじゃないけどさぁ、何で、何で、あんな黒玉に頼るわけ? 妖術使ってあるって知ってたんでしょー?」
「まぁうん。妖術を利用して出来た物ってのは知ってた」
「妖術って、あからさまに人を駄目にする為の物じゃないか。あからさまに、何かしらしてくれそうじゃないか。妖術はろくな事がない! それでも、何でそんな妖術の道具に頼るの?」
感情を柘榴は押し殺しているわけではない。押し殺しているのは声だけだ。
柘榴は思ったことをそのままに述べて、純粋に疑問を投じている。表情は見えないがそんな気がした。
だからこそ、自分は恥ずかしくも情けない返答をするだけ。陽炎は掠れた声で、ゆっくりと返事をする。
「……頼るのは、そんなに悪いことかよ。俺は、生憎、人にへらへら笑って生きることも出来なきゃ、人にすぐに心開いて生きられるほど不器用じゃねぇ。かといって寂しさを感じないほど、無感情じゃねぇ。死ぬのも怖い、悪いか?」
「……逃げるなよ。社交性を覚えろよ。何のために、おいらが街中連れ回して、ちょっとづつ友人作らせようとしてたか判りマスカー? 世界はあんたが思ってるより、暗闇に満ちてる訳じゃないって思わせたかったからだ。酷い人間だけじゃない、それはるおーが居るから判るっしょ?」
嗚呼、もうと柘榴はため息をついて、漸く顔を見せた。
その顔は少し怒気が含んでいて、初めてそんな顔を見たので、陽炎は思わず噴きだしてしまった。笑い声をたてようとは思わなかったが、少し喉が痛むが我慢する。
「安心しろよ、もう道具に頼りすぎるつもりはない。お前が色々対抗してくれる奴を作ってくれたから、もうそれで任せて星座は作らない。だけど捨てない」
「……捨てない? ――また蟹座とかくるんじゃないの? どうするの、その時は」
「その時は……人間に頼ればいいだろ? お前みたいに、お人好しの馬鹿にさ」
陽炎はまた笑おうとして失敗し、咽せる。
それに慌てて柘榴が駆け寄り、背中をさする。その手つきは何処か母親のようで、また泣きそうになる。
それに気づいた柘榴は少し戸惑った後、暖かく柔らかな笑みを浮かべて、背中をぽんぽんと叩いた。
「……泣きたいなら泣けよ。涙を堪えられるのは、扉の向こうのあんたが愛する星座達も耐えらんないと思うしぃ」
「……一番泣いて欲しいのはお前だろ? 怖かったーって。そう言えば、安心するんだろ? それで、……有難う、救われたって言ったら、もっとお前は安心するだろう? 俺、まだ自滅してねぇよ。俺はまだ、俺で居るんだから」
その言葉に柘榴は、ははっと笑い、敵わないなぁと苦笑を浮かべた。
(――どうしてその言葉を言われたかったか、望んでいたか、ばれたんだか)
読心術が陽炎にはもしかしてあるのかなぁーなんて疑ってみながら、陽炎の頭をぽんぽんと撫でてやり、それから外の人物達に入っていいよーと声をかける。
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