【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

文字の大きさ
上 下
25 / 358
第一部――第四章 朝焼けに戸惑う夜の皇子

第二十四話 計画変更

しおりを挟む
「……キャパシティは増えましたよ、現れたらどうですか、暴力男」
「……ぜぇっ、はぁっ」
 現れた蟹座は珍しく衣服を乱しながら呼吸を荒げていて、本気で青ざめていた。それは鳳凰座と対峙しないでひたすら逃げていたことを示している。
 その姿に水瓶座と鴉座は大笑いして、蟹座は本気の畏怖の残った眼で二人を睨み付ける。


「笑うなッ!」
「我が愛しき霊長に迫られるなんて羨ましいことこの上ないのにお前と来たら、何故逃げてしまうのだ? 彼女を虜にして操ればいいのに」
「馬鹿ッ。お前、精神年齢が幼いのに、体が凄い奴って本当厄介だぞ! 行為の意味も、その先の意味も知らない赤ん坊のような相手に、そんなことできるかっ!」
 青ざめたまま怒鳴られても何ら怖くないので、二人は逆に笑い声をあげてしまう。


「女性には優しいんだね、あ、それ以前に確か蟹って、女性恐怖症だったっけ?」
「違う! あいつ以外の女なら、普通に抱けるわッ! あいつは、……何かこう得体の知れんもんがあるんだ」
「それは多分貴方に足りない、純真さ、ではないでしょうか? 純真な子供を目の前にすると人は後ろめたくなると聞きますし」
 鴉座達はからかう姿勢をやめないので、自分から本題を聞き出すことにした蟹座。
 衣服も呼吸ももう整え終わったので、いつもの自分に戻り、二人を冷徹な瞳で見やる。
 多少はまだ青ざめているが血色は外に出たからか徐々に、良くなってくる。

「だから赤蜘蛛の周囲を探れと言ったのに」
「ただ星座を作りたくなかっただけじゃなかったのですね。そこは反省しております」
「赤蜘蛛を早く殺しておけばあんな言葉は聞かずに済んだ。それこそ死への恐怖で頭が狂ったのだと思うだろう、陽炎ならば。……今からでも間に合う。あいつを狙わせろ。お前の情報の信頼度、それに今は柘榴は休戦状態なのだから容易いだろう、し向けるのは」
「いいや、かえってし向けた方が危ないと思うけどな、僕は」
 二人は水瓶座を振り返り、どうしてだと瞳だけで問いかける。言葉はあまり、短い問いかけにはいらないのかもしれない。
 案外瞳というのは、口ほどに物を語るのだ。


「だって、多分接触しちゃうとより陽炎様の詳しいこととか話すでしょ。そしたら、陽炎様は確信しちゃうわけ」
「でもあいつは親と向き合う勇気などないし、向き合えたとしても否定で終わるだろう」
「――二人とも、忘れていない? 今の陽炎様は以前とは違う。少しずつ周りの環境で、依存が抜けつつあるんだよ? 劉桜という人間、柘榴という人間を通じて世間と関わろうとしている。そこで赤蜘蛛が関わってご覧よ」
 ――想像するのは二人とも容易かったので、息をついて考えを改める。
 あの人間さえ居なければ、と二人は苛つく思いの中、脳内で抹殺しておく。蟹座に至っては今実行してもいいような気分なのだが。


「もうそれなら、あの二人は放っておきましょう。此方により依存させることを考えましょう。あの二人の行動を利用するのも構わないです」
「蟹、鳳凰に迫られても君は現れるんだ。君が唯一、暴力や罵りで陽炎様を捕らえられる。僕は水で、鴉はその信頼度と姿勢で彼は安心するだろう。鴉は蟹を少し貶しながらもフォローしないと」
 水瓶座の言葉に二人はそんなこと百も承知だと分かり切った顔をするので、何だか水瓶座は自分を見下されていると感じ、少し怒りを感じた。
 ……だが腹の立つ二人だが今は手を組まねばならない。それを痛感してるからこそ余計に腹立たしく、それを確認するなり水瓶座は消える。大嫌いな奴の顔をいつまでも見てやる義理はない。
 鴉座は消える水瓶座ににこりと微笑んで手をふってから、蟹座を見やりため息をつく。


「全く、貴方は最低な男かと思えば、意外にも純粋だ。私ならば、鳳凰を虜にして逆に利用して此方側に引き入れてしまうね。自分を取り合う姿を見るのも面白い――」
 そう呟くと鴉座は消える。
 蟹座はその言葉にはため息をつき、ぼそりと呟いた。

「…………あいつ見てると、何かまな板の上の死んでる魚見てる気分になるんだよ」
「いや、それは変だから」
「大犬、黙れ!」

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】元魔王、今世では想い人を愛で倒したい!

N2O
BL
元魔王×元勇者一行の魔法使い 拗らせてる人と、猫かぶってる人のはなし。 Special thanks illustration by ろ(x(旧Twitter) @OwfSHqfs9P56560) ※独自設定です。 ※視点が変わる場合には、タイトルに◎を付けます。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

どこにでもある話と思ったら、まさか?

きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

処理中です...