【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

文字の大きさ
上 下
22 / 358
第一部――第四章 朝焼けに戸惑う夜の皇子

第二十一話 あの時助けられたのは

しおりを挟む
 そう鴉座がくつくつと影で笑っていたのもつかの間、今度は別の方向から人間の陽炎を呼ぶ声が聞こえる。
 柘榴だ。
 陽炎は警戒心を露わに、鴉座は綺麗に作られた笑みのまま振り返る。
 振り返ると柘榴は、手をひらひらとふって、少しまばらにいる人の群れの中、陽炎の居る場所まで、身軽な足音で駆けてくる。

「な、何だよ」
「嗚呼、今日は見たことのない星座と一緒にいるんだぁな」
「……初めまして鴉座です」
 柘榴は陽炎に挨拶をする前に、隣にいる人物に気づき、陽炎と居るのだからきっと星座だろうと推測してみたら、それは当たっていた。
 当たっていたことに柘榴は、嬉しいような虚しいような何とも言えない感情を抱き、鴉座をまじまじと見る。己寄りかは背が高いだろうか、それとも同じくらいだろうか。
 鴉座は、これが、柘榴という人物か、と鴉座は昨日の女衆の会話を思い出しながら、愛想の笑みを相手に浮かべる。
 すると相手は愛想の笑みを受け取って、笑う。


「かげ君、こいつはどういう星座?」
「んー、主に情報収集」
「じゃあ別に許可は要らないよねー。許可なんて貰うつもりもなかったけどなぁ?」
 柘榴はけけっと意地悪そうに笑うと陽炎の手を掴み、鴉座にばいばいと手をひらひらとふった。
 「蟹座と違って、あんたは人間同士の親交を邪魔しないよな?」
 全てを分かり切った笑み、そう鴉座は感じながらも、自分もうわべだけの笑みを浮かべて頷いた。
 そう、自分はそういう位置でないと、陽炎からも警戒されてしまうのだ。
 なので自分はあくまで邪魔も束縛もしないという姿勢を保たなければならないことを、この男は一目で見抜き、容易く陽炎をかっ攫っていく。

 その場に残された鴉座は、ため息をつく。


「どうして、計画が進行し出すと貴方はもて始めてしまうのでしょう。こんなにも早く手に入れたいと切に願うのに。星座達の行動は、見抜きやすいのに――」



 陽炎は目の前の男に不信感を抱いていた。
 この男は賞金首でありハンターである自分とは敵だ。そして、椿という貴族に依頼されて自分を殺しに来たという。
 でもそれは昨日までの話、と言わんばかりに柘榴は陽炎をつい最近気があった友達のように気軽に接してきて、プラネタリウムを奪うと言ったのにプラネタリウムの話なんかしないで、ただ露店をからかったり、一緒に武器屋へ行って武器の口論をしたりした。
 それに混じらない自分を見ると笑いながら、反論しろよ店主に! と、口論に巻き込もうとしたりしていた。
 狙いは判っているのに、よく読めない。親しくなってから奪うつもりか、そう思えば思うほど陽炎は警戒心を強めていこうとするが、柘榴の嘘のない人間らしい笑みや、感情がはきはきと見えやすく判りやすいのを見ると、徐々にそれはほぐされかける。
 だがそう簡単に警戒心をとかないから、一部の星座は安心する。
 昔受けた人々からの仕打ちは陽炎に、根強く残っているのだ。
 奴隷生活では虫けらのように扱われ、囚人時代のような仲間などなくて、お互いがお互いこの生活から抜け出そうと、蜘蛛の糸のように我先に我先にと裏切る者たちを見てきていた。
 肉奴隷にされかける前日、プラネタリウムを拾い、そこから昔から受けていた痛み虫による星座が生まれて、鴉座と出会い、奴隷生活から逃げ出した。


(助けられたのは、俺なんだよ、鴉座――)
 

 ぼんやりと思い出す夜空に、苦笑を浮かべる。今頃は、あの闇鳥は情報の何を集めているだろうか?

「かげ君?」
 今はちょっと広場の色々な店通りの中央にある噴水で休憩していた。
 陽炎は、遠い昔をふりかえっていた自分に気づき、柘榴へ何でもない、と苦笑を浮かべた。

「かげ君はさ、友達はおるのかね?」
「あーっとね、一人親友がいるんだ。賞金首の劉桜ってんだ。赤鬼金棒って言えば分かるか?」
 唯一自慢できる友達話、だからか陽炎は嬉しそうに劉桜を語る。
 知っていたら嬉しい。もし怖いイメージで知ってたら、もっと怖いんだぞとからかってやろうかと思ったが、劉桜の額では無理だろうと残念だった。
 その笑みを見て、柘榴は少し安堵したような顔をしたが、愛嬌のある表情に戻る。
「嗚呼、赤鬼君か。前からちょっと金棒見せて貰いたかったんだ、丁度良い、紹介してくンね?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】元魔王、今世では想い人を愛で倒したい!

N2O
BL
元魔王×元勇者一行の魔法使い 拗らせてる人と、猫かぶってる人のはなし。 Special thanks illustration by ろ(x(旧Twitter) @OwfSHqfs9P56560) ※独自設定です。 ※視点が変わる場合には、タイトルに◎を付けます。

超絶美麗な美丈夫のグリンプス ─見るだけで推定一億円の男娼でしたが、五倍の金を払ったら溺愛されて逃げられません─

藜-LAI-
BL
ヤスナの国に住む造り酒屋の三男坊で放蕩者のシグレは、友人からある日、なんでもその姿を見るだけで一億円に相当する『一千万ゼラ』が必要だという、昔話に準えて『一目千両』と呼ばれる高級娼婦の噂を聞く。 そんな中、シグレの元に想定外の莫大な遺産が入り込んだことで、『一目千両』を拝んでやろうと高級娼館〈マグノリア〉に乗り込んだシグレだったが、一瞬だけ相見えた『一目千両』ことビャクは、いけ好かない高慢ちきな美貌のオトコだった!? あまりの態度の悪さに、なんとかして見る以外のことをさせようと、シグレは破格の『五千万ゼラ』を用意して再び〈マグノリア〉に乗り込んだのだが… 〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜 シグレ(26) 造り酒屋〈龍海酒造〉の三男坊 喧嘩と玄人遊びが大好きな放蕩者 ビャク(30〜32?) 高級娼館〈マグノリア〉の『一目千両』 ヤスナでは見かけない金髪と翠眼を持つ美丈夫 〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜 Rシーンは※をつけときます。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

どこにでもある話と思ったら、まさか?

きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

処理中です...