【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

文字の大きさ
上 下
19 / 358
第一部――第三章 夜と朝の出会い

十八話 鳳凰座と蟹座の扱い方

しおりを挟む
 鴉座は召喚されるなり、挨拶代わりに大犬座を口説こうとしていた。


「嗚呼、こんにちわ、大犬座の小さき姫。そのように顰めた顔も可愛らしいのはきっと貴方の魅力の所為でしょう。とてもとても将来が楽しみで……」
「あたしをナンパする前に、あれをどうにかしなさいよ!」
 そう苛ついたままヒステリー気味に大犬座は陽炎を背後から抱きしめて独占している蟹座を指さす。
 鴉座は、片眉をつり上げて、冷笑を浮かべて蟹座と視線をあわせた。


「暴力をふるわないで普通に愛情表現をする貴方は初めて見ました」
「偶には餌をやらないと拗ねてしまうだろう? こいつは、躾がなってないから、躾けて居るんだ」
「餌って言うより厭がってるので、土をあげてるようなものですよ。我が愛しの君をお放しください。それが小さき我が姫の望みであり、私の望みであり、愛しの君の望みでもあるようですよ?」
「……お前はいつも狡いな。オレと同じ癖に助ける立場に回れて、尚かつ信頼も得られる。やはり鴉という生き物は卑怯で嘘つきだな」
「それは誤解では? 鴉は神の使い。私は嘘などついておりませんとも」
 にこりと微笑む鴉座に思わず、嘘つきじゃないの、と大犬座は言いかけたが、目の前の主人は弱っている。弱っている彼に彼らの目的を告げるのは辛いので、大人しく彼に任せることにした。


「それに、そういう行為は鳳凰の君がされたがってますよ。あの方は貴方をお慕い申し上げているのですから」
「ふ、不吉なことを言うなッ! あいつの名は出すなッ!」
 鳳凰座の名をあげた途端、弾くように今まで余裕綽々だった蟹座の表情に怯えが伺える。

「嗚呼、会いたいようですね、彼女に。私としては愛しの霊鳥が、貴方に心奪われる姿なんて見たくないのですが、小さき姫は我が神の解放を願ってます。ねぇ、そうでしょう、大犬の君」
 そう言って少し嗜虐心の混じった笑みを大犬座へ向けると、大犬座も鴉座のしようとしていることが理解できたのか、半目で笑ってから自分は引っ込み、代わりに鳳凰座が現れる。

「わんちゃんに呼ばれて来たのだけれど……あら、カァーちゃんに、…まぁ、蟹座様」
 鳳凰座は口元に手を置いて、驚き、陽炎を抱きしめている蟹座を凝視する。
 目を丸くしたかと思えば、潤めさせて、顔を俯かせる。その肩は震えていて、陽炎は蟹座を振り払って慰めに行きたかったが、強張った蟹座の力が許してはくれない。

「……陽炎様は、蟹座様がお好きでしたのね……」
「鳳凰の君、泣いてはいけません、騙されてもいけません。貴方も、我が愛しの君も無知ですね。あれは、あいつが勝手に一方的に思って抱きしめているだけです。要するにセクハラです」
「……せ、くはら? それは何、カァーちゃん」
 きょとんとして、本当に無知な鳳凰座は首を傾げても答えない鴉座に見切りをつけて、蟹座へ色っぽい癖に無垢な瞳を向ける。
 そういう無垢な瞳には弱いのか、それともただ単に鳳凰座という存在自体が苦手なだけなのか蟹座は瞬時に姿を消した。
 最後に舌打ちと、罵り文句が聞こえた気がしたが、陽炎は助かったと安堵して、その場で座り込んだ。

「……また蟹座様、青い顔されてたわ。ねぇ、カァーちゃん……」
「私は無粋な真似は致しませんし、我が愛しの君は私にお任せください。さぁ、様子を見てきてあげてください、それが彼のためでもありますし、彼に貴方の思いをアピールするチャンスでもあります! 愛しき貴方が幸せになるならば私は幸福を呼ぶ為、この身を青く塗りましょう」
 そう言われると鳳凰座はからかわないで、と頬を赤らめてから、陽炎を少し心配して陽炎を見やりながらも、鴉座が居るから大丈夫だろうと消えていく。

 それを見届けてから、大丈夫ですか、と陽炎を気遣う鴉座。よく見ると首には赤い痕があって、首を少し締められたのだと知り、相変わらずのドメスティックバイオレンスだとため息をついた。


(細いんだから、折れたらすぐに死ぬだろう、あの馬鹿が――)
 水瓶座を召喚しますか、と問いかけるが、陽炎は首を振る。

「いい。お前と大犬座と鳳凰座姉さんが来て安心した」
 それにちょっといつもと違っただけだ、と陽炎は苦笑を浮かべて鴉座を見上げた。
 鴉座は一番に自分の名を連ねられるのは卑怯だ、と思い、心の中で渦巻く嬉しさを隠しておいて、それはおいといて、と言葉を紡ぐ。

「状況説明出来ますか?」
「んー。……フルーティが来たけど、殺すのをやめて、俺にプラネタリウムを捨てさせることにした、みたい」
 その言葉に内心怒気が宿ったが、それを表に出すのはよしとしない。自分も、陽炎にとっても。
 なので、少し彼の弱点をつくことにした。己はいつもと変わらない笑みを浮かべて。
 一番効果的なのは、最初に出会った頃の笑みだがあれは意識してないで出来た笑みなので、作れはしない。


「……我々を、お捨てになられますか?」
「――……捨てない」
「……私は、貴方を初めての主とし、最後の主としたいです。それが私の悲願で――」
「捨てないって、言ってるだろう」
 陽炎は、少し戸惑ったような苛立ったような顔を鴉座に向ける。
 鴉座はその言葉に本当ですね、と尋ねて陽炎が頷くと、安心したような顔を見せて、陽炎を安心させる。


(貴方は――何と、弱いのでしょう。何と、罠にかけやすいのでしょう。そんな貴方だから、酷く心配してしまう。そして、こうして貴方を気づかぬ間にプラネタリウムに閉じこめていく……)

「鴉座?」
「はい、何でしょうか、愛しの君」
「蟹座は鳳凰座に本当に弱いんだな」
「ええ、ですからあいつにやられて困ったときは彼女をいつもお呼びなさいと申してるでしょう?」
 それは自覚しているし、当たり前のことなのだろうし、偶にしているが、陽炎は後ろめたさを隠せない。
「……――でもさ、それは鳳凰座姉さんの思いを利用してるようで、毎回したくはない」
「……――そうですか」
 鴉座は本当に、自分たちに甘く優しい主人を撫でてやり、帰りますか、と帰り道を先取って手招いた。
 彼を安心させるために、また劉桜という人間の元へ訪れよう。こういった不安があった後は彼に会わせるのが一番いい、そう鴉座は算段しながら、街へと陽炎をエスコートする。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】元魔王、今世では想い人を愛で倒したい!

N2O
BL
元魔王×元勇者一行の魔法使い 拗らせてる人と、猫かぶってる人のはなし。 Special thanks illustration by ろ(x(旧Twitter) @OwfSHqfs9P56560) ※独自設定です。 ※視点が変わる場合には、タイトルに◎を付けます。

超絶美麗な美丈夫のグリンプス ─見るだけで推定一億円の男娼でしたが、五倍の金を払ったら溺愛されて逃げられません─

藜-LAI-
BL
ヤスナの国に住む造り酒屋の三男坊で放蕩者のシグレは、友人からある日、なんでもその姿を見るだけで一億円に相当する『一千万ゼラ』が必要だという、昔話に準えて『一目千両』と呼ばれる高級娼婦の噂を聞く。 そんな中、シグレの元に想定外の莫大な遺産が入り込んだことで、『一目千両』を拝んでやろうと高級娼館〈マグノリア〉に乗り込んだシグレだったが、一瞬だけ相見えた『一目千両』ことビャクは、いけ好かない高慢ちきな美貌のオトコだった!? あまりの態度の悪さに、なんとかして見る以外のことをさせようと、シグレは破格の『五千万ゼラ』を用意して再び〈マグノリア〉に乗り込んだのだが… 〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜 シグレ(26) 造り酒屋〈龍海酒造〉の三男坊 喧嘩と玄人遊びが大好きな放蕩者 ビャク(30〜32?) 高級娼館〈マグノリア〉の『一目千両』 ヤスナでは見かけない金髪と翠眼を持つ美丈夫 〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜 Rシーンは※をつけときます。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

どこにでもある話と思ったら、まさか?

きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

処理中です...