【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

文字の大きさ
上 下
14 / 358
第一部――第二章 喧嘩なんざ買わねぇよ

第十三話 傷つくことはお断り

しおりを挟む
 蟹座はぞくっと鳥肌が立ち、その鳳凰の熱っぽい瞳に耐えられず、後退り瞬時に姿を消した。
 その間に陽炎は漸く呼吸を整えて、痛み虫からの治療を受けた。
「嗚呼、本当、お前にはいつも助かるよ、鳳凰座姉さん――」
「――? 私、何かしたの? 蟹座様、消えちゃったわ……」
 鳳凰座はしゅんとした様子を見せた後に、陽炎に水瓶座を呼んでみてはどうかと尋ねるが陽炎は首を振る。

「痛み虫が治療してるから、大丈夫だよ。自然治癒能力なくなったら、困るからな」
「そう――。陽炎様、いたいいたいとんでけ、する?」
「痛み虫飛んでいったら困るでしょう、可愛いなぁ鳳凰はーっ」
 けらけらと笑っているところに、鴉座がやってきて、鳳凰座に跪く。
 いつも陽炎に浮かべている笑みを鳳凰にも向けて、恭しく頭を下げる。
「嗚呼、鳳凰の君。まさか今この瞬間、この場で出会えようとは。我が愛しの君の心遣いに感謝致しましょう。ですが、愛しき人が二人いるというのは大変心苦しい。とりあえず、久しぶりの鳳凰の君との邂逅を喜び祝しましょう」
「……カァーちゃん、あの、さっき蟹座様が……」
「……何かあったのですか?」
「詳しくは陽炎様から聞いてね、私、蟹座様が心配だわ。何だか青ざめていきなり消えてしまったんだもの」
「うん、鳳凰座姉さん、プラネタリウムの中で追いかけちゃって。きっと寂しがってるから☆」
 にたりと人の悪い笑みを浮かべて陽炎は、蟹座が鳳凰座が苦手なのを知っているので、仕返しとばかりにそう命じた。
 そう言われると鳳凰は素直に蟹座を心配しているのだなぁと主人に感心して、微笑んでそれでは、と消えていった。

 鳳凰座が消えると、ふぅとため息をついて、鴉座に視線も向けず陽炎は腹を押さえた。
 あざになっても今痛み虫に治療されて、消えて居るであろう箇所を。

「お前はタイミングがいいなぁ」

 己を見る目がいつもより温かく幾らかの安堵感を宿している。
 それに気づいた鴉座は、眼を少し見開き、真面目に問うた。
「? 我が愛しの君、どうされたのです、本当に。また蟹座が何か?」
「んー、明日からフルーティが狙ってくるらしいっす。蟹座がそういって八つ当たってた。勝手に人の体に許可無く乗り移ったのにね」
 げらげらと笑いながら言う陽炎にあわせて、鴉座は微笑んだがそこで事態を飲み込んだ。

(――恐らくは、この方の命が本当に危うそうになったのだろう。そうでなくば、あいつは傷つくこの方を見て楽しむだけだ。それか、この方が貶されたか――、両方だな)

「鴉座?」
「いえ、何でも」
 暫く黙り込んで微笑んでいた鴉座は陽炎へ首を振って、今度は陽炎へ跪くがすぐに陽炎に文句を言われて跪くのをやめさせられる。
 つれないなぁといつもの口癖と共に、赤蜘蛛のことを報告する鴉座。

「どうやらね、劉桜殿と一緒に居たあの曜日に毎回訪れてるようなんですよ」
「何処の誰に雇われてるんだっけ?」
「貴族です」
 嗚呼、此処でも貴族が出るのか、厄介だなぁと陽炎はくすくすと笑った。
 現状を楽しめる余裕のある主人には、此方がため息が出てしまう。鴉座は息をついて、陽炎を少し睨み付けるように見やる。

「貴方はもう少し命の大事さを自覚しなさい。それとも痛み虫を百も集めて、麻痺してしまいましたか?」
 鴉座の言葉は保護者らしくて保護者が居ない陽炎には暖かい情を感じられて、ふと柔らかく微笑む。その笑みに相手は少し面食らって照れて、自分を叱るように呼んでいるが別に馬鹿にした訳じゃないことを述べる。

「さぁ? これでも命は結構大事に扱ってるんだけどね。どうもそう見えにくいみたいね、俺。多分蟹座がいつもドメスティックバイオレンスしてくるからじゃない? 或る程度の暴力にゃ慣れちまったよ。痛いことは痛いけど」
「おや、では我が愛しの君はあの、狂気の愛を受け入れるおつもりで?」
 陽炎はマゾなのだろうか、だとしたら自分のスタイルも改めなければと鴉座は考えつつもそれは必要のないことだとすぐにくる返答で判る。
「それとこれとは話は別。つかね、俺は、お前ら変態三人の愛は受け入れん。いや、四人か。友情ならば、大歓迎」
「それは誰と誰?」
 その返答に自分は好きな人をひたすら愛でたいタイプなのでスタイルを変えなくて良いと分かり、安堵しながら聞いてみる。見当はつくが。
「お前と、水瓶座と、蟹座と、大犬座」
「私を筆頭にするとは、何たる屈辱でしょうか。これも愛の試練ならば、私は耐えて見せましょう」
 そうやって揶揄すると陽炎は馬鹿と笑い、再び武器屋に訪れて今度こそ武器の手入れを頼む。
 武器はその間、代わりのメイスの一種モーニングスターを借りたが、メイスなんて使ったことがないので、どうやって使おうかと武器を手に持ちながら、鴉座と歩いていた。
「で、貴族は誰? 赤蜘蛛の方は」
「御祓(みそぎ)という名を代々受け継がれる方で、この国の王族遠縁の血を受けているとか。結構な位ですね」
「ふーん。俺らには無縁の話だね」
「……無縁じゃないでしょう。貴方はだって……」
「無縁なの」
 鴉座の言葉を制して先に言っておく陽炎。まるで、それは自己防衛のために先に前もって言っておくように感じられて。
 陽炎の表情を伺うと、陽炎はメイスの方に夢中で鴉座には目もくれてなかった。

(――プラネタリウムはね、陽炎様)

「……貴方がそう仰せになるならば」
 鴉座は小さく、陽炎には聞こえない声で呟く。


(プラネタリウムは、陽炎様、主人となった方の過去を皆作られた星座は知るんですよ、例え貴方の記憶にないことでも――。だから、貴方が遠い昔、こんな小さな国より強大な国の妾腹故に川に流された孤児だってことも、私達は知って居るんですよ。そして貴方がそれを知らないままでいようとしているのも――)

「何、鴉座?」
「いえ、ただ我が愛しの君が此方へ振り向いてくれないかなと思っていたのですが、振り向いてくださいましたね?」
 鴉座がにこりと微笑む。茶化すと相手は己を否定する。そして否定することによって安心する。そのために、茶化す。
「……お前の中には愛しの君が、何人いるんだか。他の星座にも、愛しの君~って口説いてるし、人間にも口説いてるじゃん」
 げらげらと陽炎は笑い、思惑通り安心しながらメイスを上機嫌に手の中で弄びながら、歩みをふと止める。
 それから、街の中に居る昨夜再会した旧友に手を振って犬のように駆け寄っていく。
 その姿を後ろから微笑ましく見守りながら、鴉座は呟いて消える。
「それは貴方が本命ではないと貴方が思って安心出来る為にですよ。貴方があまりにも、否定するから――私だって傷つくのは嫌ですもの」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】元魔王、今世では想い人を愛で倒したい!

N2O
BL
元魔王×元勇者一行の魔法使い 拗らせてる人と、猫かぶってる人のはなし。 Special thanks illustration by ろ(x(旧Twitter) @OwfSHqfs9P56560) ※独自設定です。 ※視点が変わる場合には、タイトルに◎を付けます。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

どこにでもある話と思ったら、まさか?

きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

処理中です...