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第一部――第二章 喧嘩なんざ買わねぇよ
第十二話 妖艶で無垢な美女に弱く
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百の痛み虫。
それは常人には真似が出来ない。痛みがどれほどか、なんて想像ですら出来ないはず。
同じような痛みでも痛み虫として体内に入れるために何回も同じような怪我を負ったこともある。病気だって、流行病だって――。
痛み虫が体内に入らなければそれは、ただの怪我や病気とされて治る時間だってかかったり、下手したら命を落としていたりするのに。
それなのにこの目の前の子供は想像しやすいと言い、そして自分の主は納得して笑った。
(どうしてお前にはプライドがないんだ。他の奴らとは劣っていると言われたようなものだぞ……――)
後で腹をボコ殴りにしてやろうとうっすら想像しつつ笑みを浮かべて、少年に眼差しだけは睨み付ける形で問いかけた。
「だって、自分を見下げる奴って僕は嫌いなのです。名はつまらないとはいえ、腕は生き残ってるなら本物じゃないですか。……それなのに、他人に馬鹿にされても納得してしまうその誇りのなさに、むかついてしまったんですよ。貴公の作戦ですか?」
少年は、だって僕と喧嘩するつもりだったでしょう、と続けてくすくすと笑う。
蟹座は少年の言葉に全くだと心の中で頷きながらも、陽炎としてはそこで別の言葉を言っておかなくては矛盾してしまうので思ってもないことを言ってみる。
「そう、わざとだ。でなくば、自分を卑下することはしまい?」
「……――なぁんだ、そうだったんですか。つまらないの、案外貴公と喧嘩してみるの楽しそうだったのに」
視線だけで何故だと問うてみる。先ほどは興味の欠片すらもなかったようだったのに。
そうすると少年は、武器の切っ先を己に向けず天に向けて見せてみる。
よく見ると曲がっている。それも、己の手は刃の切る部分には触れずにいたので、手が切れていることはない。
「人のなせる技ではない。腕前は、流石百の痛み虫ですね。それともそれは痛み虫が治したのですか?」
「知らん。気分が悪い、さっさと去れ。貴族のお前ならば、金を出せばどんな上等な鍛冶でもやってくれる奴がいるだろう? 此処は金のない奴が来る場所――痛いッ! おかみ、何をする!!」
文句あるなら来るんじゃないよっと店主の嫁は、恐ろしいことに機嫌の悪い蟹座の頭を殴って掃除に戻った。
ここで一般人を殺すのは、陽炎とは違う行動なので出来やしないし、陽炎の武器を一層美しく研いでくれる店なので、蟹座は不承不承許してやることにした。
「……とにかく、何処か別の所へ行ってくれ。オレは此処に用事がある」
「此処を贔屓にしているのは、貴公だけではないんですよ。僕は武器を引き取りに来たんです」
「ままごと武芸か?」
「そのままごと武芸に、喧嘩売ろうとしたくせに。話せば話すほど、貴公は腹が立つね。卑下するかと思えば今度は高慢。その癖にそれなりに見合った腕前。……殺し屋に頼んで貴公を殺して貰おうか」
「オレを殺せる奴がいるとでも?」
はっと鼻で笑って蟹座は、今のが素の自分だったことに気づくがやってしまったものは仕方がないので、もう煽り続けようと覚悟した。
どうせ、どの刺客が来ても自分が殺してしまえばいいのだ。
それに仮にも認めては居ないとはいえ、主人を侮辱した罪は死で購って貰おうかという、恐ろしい思考が軽くあったりした。
「じゃあ、フルーティに頼んでみようかしら」
「……ッそ、そいつは駄目だ。そいつ以外、そいつ以上を頼む」
「何故?」
予想外の刺客に思わず蟹座は眼をゆっくりと開き、狼狽える。
まさか、それで星座が出来ちゃうから、など言えまい。それに信じても貰えないだろう。信じて貰えたとしてもプラネタリウムを欲しがられてしまうかもしれない。貴族というのはそういう厄介なのに興味津々だからだ。
ところが少年はフルーティを恐れているからかと思ったからか、その人物に決めたようだ。
「いつも狙わせてあげるから、明日から期待してくださいね。それでは、さようなら、百の痛み虫」
少年は笑みを浮かべて、さっさと去ってしまった。
嗚呼、墓穴を掘ってしまった。すぐさま自分は陽炎の体から離れて、具現化する。
そして項垂れてため息をつく。
そんな彼を目の前に、寝ぼけ眼で頭をふって、陽炎はどうした、と問いかけると同時に蟹座からドメスティックバイオレンスを受けた。
「貴様が余計な事をやるから――ッ!!」
「痛い痛い痛い!! やめっ、ぐぅ!! な、何だよ、何が起きたんだよ?!」
「……明日から、果物が刺客でやってくる。さっきのガキに依頼されてな」
「おお、マジで? って、痛いー! げふっ!」
「喜ぶな、この軟弱! 折角人がお前の身にわざわざ乗り移ってやって危機を回避してやろうとしたのに、このくそガキがッ!」
「ちょっと、どうしたの! 喧嘩なら外でやってくれないかい!?」
「了解した」
「え、ちょっと待って、何でお前、俺以外には忠実なんだよ――ッ!!」
蟹座は店のおかみに言われると、陽炎を脇腹に抱えて、暴れたら流行病を持ってくると言いつけて陽炎を大人しくさせる。
流行病は以前、一つだけ体験して痛み虫を手に入れたがあの時は本当に辛くて死ぬかと思ったから、出来れば流行病は避けたいのだ。
蟹座は路地裏に陽炎を連れて行き、腹を中心的にボコ殴りをして楽しんだ。
笑い声と、反比例して己の鈍く殴られる音は響かない。壁などにぶつけられなければ、早々目立つことはない。ただの喧嘩で、例え通りすがりが見たとしても済まされる。
(こいつ、いい加減にしろ――ッ)
そうしているうちに、鳳凰座を召喚してひとまず対蟹座避けをした。
「あ、蟹座様……」
「何だ、鳳凰。オレは今忙しい。こいつを躾けて居るんだ」
「躾けている……? あの、でも陽炎様はご主人様で――」
「五月蠅い。お前もオレに殴られたいか?」
蟹座は暴力行為に溺れていたからか酷く興奮していて瞳孔が開いていた。
そんな興奮状態だからこそ、自分でもうっかりとした言葉を鳳凰座にかけてしまった。
かけられた言葉に鳳凰はきょとんとした後に、うっすらと濃艶に微笑んで、頷いた。少し頬を赤くして。
「……はい、蟹座様からの痛みなら喜んでお受けいたします」
「――お前ッ」
それは常人には真似が出来ない。痛みがどれほどか、なんて想像ですら出来ないはず。
同じような痛みでも痛み虫として体内に入れるために何回も同じような怪我を負ったこともある。病気だって、流行病だって――。
痛み虫が体内に入らなければそれは、ただの怪我や病気とされて治る時間だってかかったり、下手したら命を落としていたりするのに。
それなのにこの目の前の子供は想像しやすいと言い、そして自分の主は納得して笑った。
(どうしてお前にはプライドがないんだ。他の奴らとは劣っていると言われたようなものだぞ……――)
後で腹をボコ殴りにしてやろうとうっすら想像しつつ笑みを浮かべて、少年に眼差しだけは睨み付ける形で問いかけた。
「だって、自分を見下げる奴って僕は嫌いなのです。名はつまらないとはいえ、腕は生き残ってるなら本物じゃないですか。……それなのに、他人に馬鹿にされても納得してしまうその誇りのなさに、むかついてしまったんですよ。貴公の作戦ですか?」
少年は、だって僕と喧嘩するつもりだったでしょう、と続けてくすくすと笑う。
蟹座は少年の言葉に全くだと心の中で頷きながらも、陽炎としてはそこで別の言葉を言っておかなくては矛盾してしまうので思ってもないことを言ってみる。
「そう、わざとだ。でなくば、自分を卑下することはしまい?」
「……――なぁんだ、そうだったんですか。つまらないの、案外貴公と喧嘩してみるの楽しそうだったのに」
視線だけで何故だと問うてみる。先ほどは興味の欠片すらもなかったようだったのに。
そうすると少年は、武器の切っ先を己に向けず天に向けて見せてみる。
よく見ると曲がっている。それも、己の手は刃の切る部分には触れずにいたので、手が切れていることはない。
「人のなせる技ではない。腕前は、流石百の痛み虫ですね。それともそれは痛み虫が治したのですか?」
「知らん。気分が悪い、さっさと去れ。貴族のお前ならば、金を出せばどんな上等な鍛冶でもやってくれる奴がいるだろう? 此処は金のない奴が来る場所――痛いッ! おかみ、何をする!!」
文句あるなら来るんじゃないよっと店主の嫁は、恐ろしいことに機嫌の悪い蟹座の頭を殴って掃除に戻った。
ここで一般人を殺すのは、陽炎とは違う行動なので出来やしないし、陽炎の武器を一層美しく研いでくれる店なので、蟹座は不承不承許してやることにした。
「……とにかく、何処か別の所へ行ってくれ。オレは此処に用事がある」
「此処を贔屓にしているのは、貴公だけではないんですよ。僕は武器を引き取りに来たんです」
「ままごと武芸か?」
「そのままごと武芸に、喧嘩売ろうとしたくせに。話せば話すほど、貴公は腹が立つね。卑下するかと思えば今度は高慢。その癖にそれなりに見合った腕前。……殺し屋に頼んで貴公を殺して貰おうか」
「オレを殺せる奴がいるとでも?」
はっと鼻で笑って蟹座は、今のが素の自分だったことに気づくがやってしまったものは仕方がないので、もう煽り続けようと覚悟した。
どうせ、どの刺客が来ても自分が殺してしまえばいいのだ。
それに仮にも認めては居ないとはいえ、主人を侮辱した罪は死で購って貰おうかという、恐ろしい思考が軽くあったりした。
「じゃあ、フルーティに頼んでみようかしら」
「……ッそ、そいつは駄目だ。そいつ以外、そいつ以上を頼む」
「何故?」
予想外の刺客に思わず蟹座は眼をゆっくりと開き、狼狽える。
まさか、それで星座が出来ちゃうから、など言えまい。それに信じても貰えないだろう。信じて貰えたとしてもプラネタリウムを欲しがられてしまうかもしれない。貴族というのはそういう厄介なのに興味津々だからだ。
ところが少年はフルーティを恐れているからかと思ったからか、その人物に決めたようだ。
「いつも狙わせてあげるから、明日から期待してくださいね。それでは、さようなら、百の痛み虫」
少年は笑みを浮かべて、さっさと去ってしまった。
嗚呼、墓穴を掘ってしまった。すぐさま自分は陽炎の体から離れて、具現化する。
そして項垂れてため息をつく。
そんな彼を目の前に、寝ぼけ眼で頭をふって、陽炎はどうした、と問いかけると同時に蟹座からドメスティックバイオレンスを受けた。
「貴様が余計な事をやるから――ッ!!」
「痛い痛い痛い!! やめっ、ぐぅ!! な、何だよ、何が起きたんだよ?!」
「……明日から、果物が刺客でやってくる。さっきのガキに依頼されてな」
「おお、マジで? って、痛いー! げふっ!」
「喜ぶな、この軟弱! 折角人がお前の身にわざわざ乗り移ってやって危機を回避してやろうとしたのに、このくそガキがッ!」
「ちょっと、どうしたの! 喧嘩なら外でやってくれないかい!?」
「了解した」
「え、ちょっと待って、何でお前、俺以外には忠実なんだよ――ッ!!」
蟹座は店のおかみに言われると、陽炎を脇腹に抱えて、暴れたら流行病を持ってくると言いつけて陽炎を大人しくさせる。
流行病は以前、一つだけ体験して痛み虫を手に入れたがあの時は本当に辛くて死ぬかと思ったから、出来れば流行病は避けたいのだ。
蟹座は路地裏に陽炎を連れて行き、腹を中心的にボコ殴りをして楽しんだ。
笑い声と、反比例して己の鈍く殴られる音は響かない。壁などにぶつけられなければ、早々目立つことはない。ただの喧嘩で、例え通りすがりが見たとしても済まされる。
(こいつ、いい加減にしろ――ッ)
そうしているうちに、鳳凰座を召喚してひとまず対蟹座避けをした。
「あ、蟹座様……」
「何だ、鳳凰。オレは今忙しい。こいつを躾けて居るんだ」
「躾けている……? あの、でも陽炎様はご主人様で――」
「五月蠅い。お前もオレに殴られたいか?」
蟹座は暴力行為に溺れていたからか酷く興奮していて瞳孔が開いていた。
そんな興奮状態だからこそ、自分でもうっかりとした言葉を鳳凰座にかけてしまった。
かけられた言葉に鳳凰はきょとんとした後に、うっすらと濃艶に微笑んで、頷いた。少し頬を赤くして。
「……はい、蟹座様からの痛みなら喜んでお受けいたします」
「――お前ッ」
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