6 / 8
第六話 兄からの愛情が分かったとき
しおりを挟む兄さんにくっついて、兄さんに頭を撫でられるだけでふわふわする。
目を細めて兄さんに甘えるように抱きつくと、兄さんは身を固める。
どうしたのかと思って見つめると、兄さんは今まで見覚えなく顔を赤らめていた。
「にいさあん?」
「……強烈だね、お前のサブスペース」
「んん。あったかい……」
「……何だか甘えっ子の子猫みたいだ」
兄さんはそれまでの怒りを消して、一生懸命僕のケアをしてくれて、よしよしとひたすら褒めてくれる。
兄さんに褒められる僕は世界で一番幸せな気がして、自然と笑みがこぼれた。
その十分後。
非常に恥ずかしくて僕はクローゼットの中にこもった。
サブスペースが解けていき、理性を取り戻す頃には兄さんのまなざしは甘やかで。
自分が何をしたのか一気に自覚する。
慌てて兄さんに頭突きして、そのままの勢いでクローゼットに閉じこもった。
兄さんはゆっくりと追いかけてきて、クローゼットを優しくノックする。
「暑いだろう? でておいで」
「いやだ!! どんなかおしろっていうんですか!」
「どうした、何がいやだ」
「恥ずかしい! あんな、あんな……っくそ、今生の恥だ!」
「幸せだったんだろう? 子猫みたいに俺の指ちゅぱちゅぱくわえていたぞ」
「兄弟でこんなのおかしいだろ! 言わないでくださいよ、ばか!」
「俺たちは何一つおかしくない。おかしいのは世の中だ。俺たちは生まれたときから一緒、それはとても。素敵な奇跡だろう?」
そうだね、だからこそ貴方をずっと好きで好きで、恋を上書きできなくて苦しい。
こんな醜態をまるごと包み込んでくれる甘やかさが背徳的で、唆されそうになる。
でも。僕も貴方も同じ「形」をしていて、中身が違うだけ。
でも成分と素材は一緒。
見た目だけでも違っていたら、少しは罪悪感とかなかったのかな。
貴方を見れば、貴方はどこをどうみても、僕の兄さんだとまるわかりなんだ、世間からは。
「章吾、開けて」
「わかんない、わかんないですよ、貴方がなぜこんなことをするのか!」
「俺は……お前が心配で」
「本当に心配ならしばらく一人にしてください!」
「いやだ、俺はお前を管理する」
「Domとしての欲求ですか!?」
「違う、お前だからだ。クローゼットあけて。熱中症なってしまうよ」
兄さんの切ない声に心臓がぎゅっと締め付けられて、僕は思わず涙をこぼしてクローゼットを開けた。
兄さんはクローゼットの扉をあけると、僕をそっと抱きしめて。
――キスをした。
何をされてるのか理解が追いつかない。
甘い唇がふわりと柔らかな感触で触れている。
気持ちいい。
でも驚きの方が多くて、咄嗟に身を退けようとすると、兄さんが後頭部をしっかり抱き支えて。しっかりと口づけをかわしてきた。
「な、にを」
「……お前の、荷物を。俺が全部受け取れればいいのにな」
兄さんは、真面目な表情でうつむいてはにかみ。
そっと間近でまぶたにキスをして、苦しげにつぶやいた。
「俺は兄ちゃんなのに、何にもしてやれねえなあ」
*
兄さんはそれからしばらく仕事が忙しくなったのか会えなくなった。
それでも管理して保護したい欲は強いみたいで、僕の連絡がなければ速攻で通話はかかってくる現状だった。
兄さんと会えなくなりづらくなって、三週間後くらいのこと。
実家から連絡がきたのだ。受験勉強と最近どうなのかを心配してのことだと。
「大丈夫なの、体壊してない?」
「大丈夫ですよ母さん。それより先日、兄さんに再会しました。久しぶりに会いましたよ」
「ああ、じゃあ作哉はやっとあんたのとこ行く気になったのね」
「どういうことですか?」
「作哉はあんたの暮らしのスポンサーなのよ。バイトは許さなかったでしょう? 作哉からのお願いだったのよね。お金を出す代わりにって」
「え……家賃と生活費ですか」
「あんたの交友費含めてね。だからお礼くらいはしときなさいよ、お兄ちゃんも何考えてるのか。確実だって言われていた美大まであったのに、進学しないで」
「待って、待ってください。じゃあ兄さんは今、絵を描いていないってことですか!?」
「そうよ、画塾もやめちゃってね。なにをしてるんだか」
「と、止めなかったんですか」
「十八歳こえたら大人なんだから、あれこれ口出しするのもね。元気そうではあるみたいだから」
僕みたいな一般人のために、天才が夢を諦めたんだと自覚すると、一気に怖くなった。
兄さんは、全部僕の好きな生き方をさせるために、すべてをなげうったんだ。
生活すべて、最初から管理したかったんだ。
そこまで……保護したいなら。
(なんで肝心のことは言ってくれないんですか)
頭を抱えて、髪を掻きむしる。
僕は、兄さんみたいに夢をもっていたとかじゃなく。才能があったわけじゃなく。
選択肢がほしかっただけで、難関大学を合格したかった。
箔が欲しかったし。
浪人しても許される言い訳もほしかった。
そのすべてを、兄さんは甘やかしていたんだ。
「貴方をそうまでさせた感情を、答え合わせさせてくださいよ……」
通話を切ってから、心臓がばくばくする。
落ち着かない。
大きすぎる、重すぎた愛なのか執着なのか分からない兄さんからの感情が。
とても怖くて愛しい。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました
海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。
しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。
偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。
御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。
これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。
【続編】
「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。
夢見がちオメガ姫の理想のアルファ王子
葉薊【ハアザミ】
BL
四方木 聖(よもぎ ひじり)はちょっぴり夢見がちな乙女男子。
幼少の頃は父母のような理想の家庭を築くのが夢だったが、自分が理想のオメガから程遠いと知って断念する。
一方で、かつてはオメガだと信じて疑わなかった幼馴染の嘉瀬 冬治(かせ とうじ)は聖理想のアルファへと成長を遂げていた。
やがて冬治への恋心を自覚する聖だが、理想のオメガからは程遠い自分ではふさわしくないという思い込みに苛まれる。
※ちょっぴりサブカプあり。全てアルファ×オメガです。
観念しようね、レモンくん
天埜鳩愛
BL
短編・22話で完結です バスケ部に所属するDKトリオ、溺愛双子兄弟×年下の従弟のキュンドキBLです
🍋あらすじ🍋
バスケ部員の麗紋(れもん)は高校一年生。
美形双子の碧(あお)と翠(みどり)に従兄として過剰なお世話をやかれ続けてきた。
共に通う高校の球技大会で従兄たちのクラスと激突!
自立と引き換えに従兄たちから提示されたちょっと困っちゃう
「とあること」を賭けて彼らと勝負を行いことに。
麗紋「絶対無理、絶対あの約束だけはむりむりむり!!!!」
賭けに負けたら大変なことに!!!
奮闘する麗紋に余裕の笑みを浮かべた双子は揺さぶりをかけてくる。
「れーちゃん、観念しようね?」
『双子の愛 溺愛双子攻アンソロジー』寄稿作品(2022年2月~2023年3月)です。
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる