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第八話 まさかの誘拐
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最初に描いたのはたんぽぽだった。
男の子なのにお花ばかり描いてて変、と同級生にからかわれても、花をずっと書き続けていた。
あるとき、コンクールに入賞し、賞状を初めて貰った。
小学校の頃のことだった。
賞状を見せると母親は、そんなものよりテストでいかに100点をとるかが素晴らしいかを語った。
(ああ、オレの絵は認められない)
――懐かしい夢を見た。
花の絵に手を伸ばしたところで目が覚め、伸ばした手は光見が握っていた。
光見はオレと目が合うと、ほっとした顔を浮かべ。
頭を撫でた。
「野良、うなされてましたよ」
「うん、もういい大人なんだけどな」
「年なんて関係ないですよ。傷は傷です。貴方にはいつまでも生傷、ただそれだけです」
「……うん」
「野良、言っておきますが。俺たちはいつだってなんだって、また好きだった物を再開することに遅いことはないとおもいますよ」
「うん、ありがと。でも、もう。いいんだ。終わったんだ」
笑いかけると光見はいつまでも渋い顔をするので、キスをすれば、頬をつねってきた。
いたいいたいと騒げば、背中で抱きついていたリルが唸った。
「やっちゃん、寒い」
「おお、悪いな。布団もう少しかけるか」
「んう……キスも」
「はいはい」
リルにキスをすればリルは嬉しそうにまた微睡んでいく。
散々えっちした後で、腰がだるかったのでしょうがなく宿泊にした。
光見は嘆息をつけば、風呂に入る準備をし始める。
「付き合うつもりなんですか」
「いや、そういうわけじゃねえんだけど」
「いいんじゃないんですか、お似合いですよ」
「オレの気持ち知っててそういうこというの、光見」
「ちょうどいいじゃないですか。たったひとりを選べるチャンスだ、わざわざ俺と双樹に拘る必要がない」
「光見……オレやだよ。双樹と光見がずっとずっと欲しい初恋なんだよ」
「……幸せになれない道を、選ぶんですか?」
「オレの幸せを、周りに決めて貰う必要はないよ」
オレが光見の腕を引き寄せ、腕の中に収めると光見は照れながら顔をそっぽ向けて。
真っ赤になって遠くを見ている。
何か余計なことを考えてるなら、オレで埋まれば良い。
体にセクハラしていると、オレのスマホが振動する。
「出なさい、双樹でしょう? さっき連絡して教えたんです、野良のセフレの話」
「うっ、こわいなあ……」
「怖がるなら最初からそいつを抱かなきゃ良い。あんまり貴方が可愛くないことしてるなら、その子ウサギ俺らで玩具にしてやりますよ」
「それはだめ。はい、もしもし」
通話ボタンを押せば、深いため息が聞こえてくる。
思ったより双樹はキレている様子で、焼き餅かとおもえば少しだけそわそわ嬉しくなる。
これまでオレに欲を見せなかった穢れない神様が初めて、人の地位まで堕天したような感覚だ。
『野良、お前という奴は……』
「いやあ、つい美味しそうだったからさ」
『そいつは……リルフルージュなんて、留学生じゃない。偽名だそれは』
「え」
『そんな怪しい奴に引っかかるなんて! ちょっと調べたらわかるじゃないか! どうなってるんだ、お前のリテラシーは!」
「えっえっ、じゃあ、こいつ、誰…………」
「人の秘密は暴くなんてセンスがないな」
リルがそっと呟き、身を起こす。
リルは自分のスマホに触れると何か誰かにメッセージを送っている。
送り終わるまでオレと光見は混乱して、顔を見合わせていれば、リルだったやつはふふと妖しく嗤った。
「君たちの予想はなにかな。俺が留学生じゃないならなにものであろう?」
「えっ…………マフィアとかいわないよな!?」
『そのほうがまだ優しい。そいつは、諸外国の第一王子だ。ギルバート=ダ・リ=ルラー、それが本名だろう?』
双樹の言葉にぎょっとしていると、大きな声を立ててリルだった男は大笑いした。
涙が出るほど大笑いしたあと拍手をして、恭しくオレの手をとり、手の甲にキスをした。
気品漂う「本物」の仕草にオレはビックリして腰が抜けるかと思った。恐怖で。
一国の。王子様? なにそれ現代にもそんなのまだいるの??
双樹が地図に載らないほど小さな国とはいえ財源豊かで注目されつつある国だとか説明している声が、遠くに聞こえる。
「野良先輩、俺の国で囲われませんか」
「えっ」
「俺には妻がいます。愛のない政略結婚です。なので側室にあなたが欲しい」
「い、嫌で……」
「もっとも。外交に傷を作った貴方を無視できないでしょう、俺の国は。俺とともに、来て貰いますよ、せんぱい♡」
天使のような笑みでとんでもないことを言うもんだから、ビックリしてる間に部屋に黒服たちが突入してきてリルだった男と何か話してる。
そしてオレをひょいと米俵のように抱きかかえた黒服。光見はぎょっとして取り返そうとすると、黒服に突き飛ばされる。
「野良! 返してクダサイ。野良、野良!」
「楽しかったよ、だけどそんなことまで秘密を暴くのなら、お前たちにやっちゃんはあげない。違うカーストだと教えて差し上げる。ごきげんよう、凡人の孔兄弟」
「てっっめえええええ!!!!!! 野良、野良!!!」
「えっ、光見、光見どうしよ、えっこれ俺が悪いのかな!? 王子様をつまみ食いしちゃったってこと!?」
「つまみ食いだなんて……骨まで食べてくれないと許さないよ、やっちゃん」
「うそおん!????? 双樹、どうしよ、おれ、おれ! あっそうだ、冷蔵庫にあるにくじゃがは明日で悪くなるから食べちゃってな!」
『お前それどころじゃないだろう! 今すぐそっちに向かっている、待っていてね野良!』
「孔兄弟のもう一人、それはできない相談です。アディオス」
光見は黒服たちに取り押さえられ、オレのスマホは取り上げられると通話を切られ、放り投げられた。
あれ高かったんだぞ!? 壊れてない!?
「た、たすけてええええええええええええええ」
「二人きりの新居も作ろうね、やっちゃん♡」
目がとろんとして着替え終わったリルだった男は、黒服とオレを連れて外の黒塗りの車へと向かい、そのまま……オレは浚われたのだった。
男の子なのにお花ばかり描いてて変、と同級生にからかわれても、花をずっと書き続けていた。
あるとき、コンクールに入賞し、賞状を初めて貰った。
小学校の頃のことだった。
賞状を見せると母親は、そんなものよりテストでいかに100点をとるかが素晴らしいかを語った。
(ああ、オレの絵は認められない)
――懐かしい夢を見た。
花の絵に手を伸ばしたところで目が覚め、伸ばした手は光見が握っていた。
光見はオレと目が合うと、ほっとした顔を浮かべ。
頭を撫でた。
「野良、うなされてましたよ」
「うん、もういい大人なんだけどな」
「年なんて関係ないですよ。傷は傷です。貴方にはいつまでも生傷、ただそれだけです」
「……うん」
「野良、言っておきますが。俺たちはいつだってなんだって、また好きだった物を再開することに遅いことはないとおもいますよ」
「うん、ありがと。でも、もう。いいんだ。終わったんだ」
笑いかけると光見はいつまでも渋い顔をするので、キスをすれば、頬をつねってきた。
いたいいたいと騒げば、背中で抱きついていたリルが唸った。
「やっちゃん、寒い」
「おお、悪いな。布団もう少しかけるか」
「んう……キスも」
「はいはい」
リルにキスをすればリルは嬉しそうにまた微睡んでいく。
散々えっちした後で、腰がだるかったのでしょうがなく宿泊にした。
光見は嘆息をつけば、風呂に入る準備をし始める。
「付き合うつもりなんですか」
「いや、そういうわけじゃねえんだけど」
「いいんじゃないんですか、お似合いですよ」
「オレの気持ち知っててそういうこというの、光見」
「ちょうどいいじゃないですか。たったひとりを選べるチャンスだ、わざわざ俺と双樹に拘る必要がない」
「光見……オレやだよ。双樹と光見がずっとずっと欲しい初恋なんだよ」
「……幸せになれない道を、選ぶんですか?」
「オレの幸せを、周りに決めて貰う必要はないよ」
オレが光見の腕を引き寄せ、腕の中に収めると光見は照れながら顔をそっぽ向けて。
真っ赤になって遠くを見ている。
何か余計なことを考えてるなら、オレで埋まれば良い。
体にセクハラしていると、オレのスマホが振動する。
「出なさい、双樹でしょう? さっき連絡して教えたんです、野良のセフレの話」
「うっ、こわいなあ……」
「怖がるなら最初からそいつを抱かなきゃ良い。あんまり貴方が可愛くないことしてるなら、その子ウサギ俺らで玩具にしてやりますよ」
「それはだめ。はい、もしもし」
通話ボタンを押せば、深いため息が聞こえてくる。
思ったより双樹はキレている様子で、焼き餅かとおもえば少しだけそわそわ嬉しくなる。
これまでオレに欲を見せなかった穢れない神様が初めて、人の地位まで堕天したような感覚だ。
『野良、お前という奴は……』
「いやあ、つい美味しそうだったからさ」
『そいつは……リルフルージュなんて、留学生じゃない。偽名だそれは』
「え」
『そんな怪しい奴に引っかかるなんて! ちょっと調べたらわかるじゃないか! どうなってるんだ、お前のリテラシーは!」
「えっえっ、じゃあ、こいつ、誰…………」
「人の秘密は暴くなんてセンスがないな」
リルがそっと呟き、身を起こす。
リルは自分のスマホに触れると何か誰かにメッセージを送っている。
送り終わるまでオレと光見は混乱して、顔を見合わせていれば、リルだったやつはふふと妖しく嗤った。
「君たちの予想はなにかな。俺が留学生じゃないならなにものであろう?」
「えっ…………マフィアとかいわないよな!?」
『そのほうがまだ優しい。そいつは、諸外国の第一王子だ。ギルバート=ダ・リ=ルラー、それが本名だろう?』
双樹の言葉にぎょっとしていると、大きな声を立ててリルだった男は大笑いした。
涙が出るほど大笑いしたあと拍手をして、恭しくオレの手をとり、手の甲にキスをした。
気品漂う「本物」の仕草にオレはビックリして腰が抜けるかと思った。恐怖で。
一国の。王子様? なにそれ現代にもそんなのまだいるの??
双樹が地図に載らないほど小さな国とはいえ財源豊かで注目されつつある国だとか説明している声が、遠くに聞こえる。
「野良先輩、俺の国で囲われませんか」
「えっ」
「俺には妻がいます。愛のない政略結婚です。なので側室にあなたが欲しい」
「い、嫌で……」
「もっとも。外交に傷を作った貴方を無視できないでしょう、俺の国は。俺とともに、来て貰いますよ、せんぱい♡」
天使のような笑みでとんでもないことを言うもんだから、ビックリしてる間に部屋に黒服たちが突入してきてリルだった男と何か話してる。
そしてオレをひょいと米俵のように抱きかかえた黒服。光見はぎょっとして取り返そうとすると、黒服に突き飛ばされる。
「野良! 返してクダサイ。野良、野良!」
「楽しかったよ、だけどそんなことまで秘密を暴くのなら、お前たちにやっちゃんはあげない。違うカーストだと教えて差し上げる。ごきげんよう、凡人の孔兄弟」
「てっっめえええええ!!!!!! 野良、野良!!!」
「えっ、光見、光見どうしよ、えっこれ俺が悪いのかな!? 王子様をつまみ食いしちゃったってこと!?」
「つまみ食いだなんて……骨まで食べてくれないと許さないよ、やっちゃん」
「うそおん!????? 双樹、どうしよ、おれ、おれ! あっそうだ、冷蔵庫にあるにくじゃがは明日で悪くなるから食べちゃってな!」
『お前それどころじゃないだろう! 今すぐそっちに向かっている、待っていてね野良!』
「孔兄弟のもう一人、それはできない相談です。アディオス」
光見は黒服たちに取り押さえられ、オレのスマホは取り上げられると通話を切られ、放り投げられた。
あれ高かったんだぞ!? 壊れてない!?
「た、たすけてええええええええええええええ」
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