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第四話 標的変更
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「オレはね、永遠を見てみたいんだよね」
ヤったあとにピロートークを求められたもんだから、頭ふわふわしながらベッドで温もりながら声にした。
たった一つの願いを声にしてみたら、寂しい響きだった。
「永遠の愛なんてない、永遠に人を愛するなんてないんだよ。だから、オレは恋をしたことがない。それと比べたら羨ましいけどな」
「日向さんのように美しい方が恋をしないなんて勿体ない……美しい人は全員恋をしたからだと思ってました。全員すべからくイイ恋をしたから美しくなったのだと。だとしたら、貴方の美しさはもっと高まるということか……それは知られるのは勿体ない」
「不思議な展開をする話し方だな、君は。若干、不思議ちゃん入ってるよね」
「万物は全て不思議なんです。虹の色が七つなのも不思議でしょう、理由はあるけれど我々は調べない。ロマンをそのままにしたくて調べない人もいれば、面倒で調べない人もいる。ただ分かるのは理由が分かっても、不思議さは変わらないということです」
「……日本語が通じるんだか通じないんだか分からないなあ」
微睡んでいるとやがて朝になったのか、ぴんぽんと呼び鈴が鳴り。
ああ、迎えが来たのかな、とベッドから抜け出し、衣服を整えた。
名前を呼ばれたので顔を向ければ、旋風からキスをされ。
瞬いて黙り込んでいれば、旋風はうっとりともう一度オレにキスをした。
「どうか、僕に恋をして。日向さん、貴方に永遠を教える唯一は僕でありたい」
「……無理だよ、そんなの。オレには客だっているし。まだ借金返せてないし」
「いいや、いつか貴方の隣は僕にする。僕になるんだ。楽しみだ、奏さんに感謝しよう。また会おうね、絶対に。そうでないと許さない、ねえ、日向さん」
カーテンから少し差し込む日差し越しに逆光で微笑む旋風に背筋が凍る。
眼差しだけはやたらと鋭いこの男の目は、恋を語っている。
「愛してますよ。世界中で僕だけが、貴方を」
……奏さん、これはもしかしたらオレを人身御供にすることで、次のターゲットを操りやすいように仕組んだな? と、気づくまでにはもう少し。
迎えに来た奏さんの笑顔に出会って、出会い頭に殴るまであと三分。
車の中で、オレの拳を食らった奏さんは、口元をおしぼりで冷やしながらオレを見やった。
「どうだ、お前の好みだろう」
「そういう問題じゃアねーんだよ!! どうする、あれ! あれ、もう、オレが標的じゃん?!」
「いやー、正確にはお前を今後抱こうとするやつが標的かな。ちょうどお前の二番目の太いお客様が、うちで粗相起こしてなあ。結構厄介な相手だから、誰に任せようかって話し合って平和に多数決でな」
「平和に済ませるなよ、金払って仕事させろよ!!」
「出来れば無料で自動的に勝手で動いてくれたほうが、安心じゃん? まあそういうわけだから、僕が抱くのも昨日の車の中で暫くはお終い」
「借金はどーすんだ!! 返済どうやってするんだよ」
「愛の力って凄いよな。さっき口座に振り込まれてたってさ、お前の借金。残り金額きっちり。ヤッタネ!!」
「ぼ・う・よ・み!! よくない!! どうやって個人情報持ったんだよ、あの一瞬で!! あれからまだ二十分も経ってねえぞ!?」
「情報屋にお前の情報安値で売った甲斐があったなあ。まあこれで晴れてお前もお気楽に暮らせる。好きにしな。あ、出来ればターゲット全員殺し終えるまでは静かに。それまではうちで面倒みるからな。それくらいの温情はある」
「温情じゃなくて監視だろ……徹底的にあんたは敵に回したくないってつくづく思ったよ」
「その僕は旋風を敵に一番回したくないので、お前を敵に回したくないことに繋がるから円満だな。ボクら仲良し~お手々繋いでスキップでもする?」
いぇーい、と真顔で淡々と言うこの若頭にパイ投げをしてやりたい気持ちになりつつも。
タバコを吸うことで気持ちを収めようとする。
一服したあたりで、メリットを思いつく。借金がなくなったのはメリットだ。
こればかりは感謝しよう、無限の愛情とやらを金に換算してくれてやった旋風に。
だがそれに対してのデメリットだ。
客が消えるのはまあ今後の人生を考えればいいことなのかもしれない。
知らぬ存ぜぬを突き通せられればの話であるが、過去を知る者たちを抹消してもらうのは悪くない。この若頭含めて。
問題は、あの旋風とやら。愛した男を最終的に殺してしまうほどのヤンデレなのである。
「まだ殺されたくないなあ……まだ若いもん、オレ。成人式だってまだよ」
「じゃあ今のうちに仮で成人式あげておくかね」
「そういう話じゃないし、そういう問題でもない。くっそ、利用しやがって!」
「やのつく人は恐ろしいんだよ、杯交わした兄弟以外は簡単に人を切り捨てるからな」
情夫であれ、と奏さんはオレからタバコを奪い取り、そのタバコを吸いきってしまった。
殺されない策を考えるしかないか。
出来れば怒りはオレ以外に向くような、煽り方をしたほうがいいのかもしれない。
今こうしてる合間にも、メッセージアプリにぴこぴこと未通知の音が連打されることにも、オレは気づいてなかった。
車から出る頃には、未通知は二百三十はゆうに超えていて、オレは思わず声にならない悲鳴をあげてスマホを放り投げそうになった。
ヤったあとにピロートークを求められたもんだから、頭ふわふわしながらベッドで温もりながら声にした。
たった一つの願いを声にしてみたら、寂しい響きだった。
「永遠の愛なんてない、永遠に人を愛するなんてないんだよ。だから、オレは恋をしたことがない。それと比べたら羨ましいけどな」
「日向さんのように美しい方が恋をしないなんて勿体ない……美しい人は全員恋をしたからだと思ってました。全員すべからくイイ恋をしたから美しくなったのだと。だとしたら、貴方の美しさはもっと高まるということか……それは知られるのは勿体ない」
「不思議な展開をする話し方だな、君は。若干、不思議ちゃん入ってるよね」
「万物は全て不思議なんです。虹の色が七つなのも不思議でしょう、理由はあるけれど我々は調べない。ロマンをそのままにしたくて調べない人もいれば、面倒で調べない人もいる。ただ分かるのは理由が分かっても、不思議さは変わらないということです」
「……日本語が通じるんだか通じないんだか分からないなあ」
微睡んでいるとやがて朝になったのか、ぴんぽんと呼び鈴が鳴り。
ああ、迎えが来たのかな、とベッドから抜け出し、衣服を整えた。
名前を呼ばれたので顔を向ければ、旋風からキスをされ。
瞬いて黙り込んでいれば、旋風はうっとりともう一度オレにキスをした。
「どうか、僕に恋をして。日向さん、貴方に永遠を教える唯一は僕でありたい」
「……無理だよ、そんなの。オレには客だっているし。まだ借金返せてないし」
「いいや、いつか貴方の隣は僕にする。僕になるんだ。楽しみだ、奏さんに感謝しよう。また会おうね、絶対に。そうでないと許さない、ねえ、日向さん」
カーテンから少し差し込む日差し越しに逆光で微笑む旋風に背筋が凍る。
眼差しだけはやたらと鋭いこの男の目は、恋を語っている。
「愛してますよ。世界中で僕だけが、貴方を」
……奏さん、これはもしかしたらオレを人身御供にすることで、次のターゲットを操りやすいように仕組んだな? と、気づくまでにはもう少し。
迎えに来た奏さんの笑顔に出会って、出会い頭に殴るまであと三分。
車の中で、オレの拳を食らった奏さんは、口元をおしぼりで冷やしながらオレを見やった。
「どうだ、お前の好みだろう」
「そういう問題じゃアねーんだよ!! どうする、あれ! あれ、もう、オレが標的じゃん?!」
「いやー、正確にはお前を今後抱こうとするやつが標的かな。ちょうどお前の二番目の太いお客様が、うちで粗相起こしてなあ。結構厄介な相手だから、誰に任せようかって話し合って平和に多数決でな」
「平和に済ませるなよ、金払って仕事させろよ!!」
「出来れば無料で自動的に勝手で動いてくれたほうが、安心じゃん? まあそういうわけだから、僕が抱くのも昨日の車の中で暫くはお終い」
「借金はどーすんだ!! 返済どうやってするんだよ」
「愛の力って凄いよな。さっき口座に振り込まれてたってさ、お前の借金。残り金額きっちり。ヤッタネ!!」
「ぼ・う・よ・み!! よくない!! どうやって個人情報持ったんだよ、あの一瞬で!! あれからまだ二十分も経ってねえぞ!?」
「情報屋にお前の情報安値で売った甲斐があったなあ。まあこれで晴れてお前もお気楽に暮らせる。好きにしな。あ、出来ればターゲット全員殺し終えるまでは静かに。それまではうちで面倒みるからな。それくらいの温情はある」
「温情じゃなくて監視だろ……徹底的にあんたは敵に回したくないってつくづく思ったよ」
「その僕は旋風を敵に一番回したくないので、お前を敵に回したくないことに繋がるから円満だな。ボクら仲良し~お手々繋いでスキップでもする?」
いぇーい、と真顔で淡々と言うこの若頭にパイ投げをしてやりたい気持ちになりつつも。
タバコを吸うことで気持ちを収めようとする。
一服したあたりで、メリットを思いつく。借金がなくなったのはメリットだ。
こればかりは感謝しよう、無限の愛情とやらを金に換算してくれてやった旋風に。
だがそれに対してのデメリットだ。
客が消えるのはまあ今後の人生を考えればいいことなのかもしれない。
知らぬ存ぜぬを突き通せられればの話であるが、過去を知る者たちを抹消してもらうのは悪くない。この若頭含めて。
問題は、あの旋風とやら。愛した男を最終的に殺してしまうほどのヤンデレなのである。
「まだ殺されたくないなあ……まだ若いもん、オレ。成人式だってまだよ」
「じゃあ今のうちに仮で成人式あげておくかね」
「そういう話じゃないし、そういう問題でもない。くっそ、利用しやがって!」
「やのつく人は恐ろしいんだよ、杯交わした兄弟以外は簡単に人を切り捨てるからな」
情夫であれ、と奏さんはオレからタバコを奪い取り、そのタバコを吸いきってしまった。
殺されない策を考えるしかないか。
出来れば怒りはオレ以外に向くような、煽り方をしたほうがいいのかもしれない。
今こうしてる合間にも、メッセージアプリにぴこぴこと未通知の音が連打されることにも、オレは気づいてなかった。
車から出る頃には、未通知は二百三十はゆうに超えていて、オレは思わず声にならない悲鳴をあげてスマホを放り投げそうになった。
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