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第二部 陽だまりの墓――イヅミ
第九話 よく晴れた夏の日
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俺が何を言ったって、あいつは聞きやしない。
だから、今日も俺はため息ついて、幸せを一つ逃がす。
「だからさぁ、まじでお前もついてくんの? 会うの、しずっちに」
「……謝っておかなきゃ気が済まねぇ。葬式の日にだって、出なかったんだから……」
俺はそーですか、とため息をついて、菊の癖に豪華な花束を理に渡す。
渡された理はきょとんとしたので、俺は無表情のまま、人差し指を口元に置く。
「お前が買ってきたことにしなさい。普通、墓参りには菊の花デショ、ひまわりじゃなくてさ」
「う、うるせ……前にテメェがあいつに送りまくっていたから、それしか思いつかなかったんだよ!」
こいつのこーいうとこは、かぁいい。
だからくつくつと笑う肩を押さえながら、奴の向日葵の花束を俺が引き受ける。
俺の性格ならばこれを持っていてもおかしくないし、第一、俺は確かに朱莉ちゃんに向日葵送りまくっていたから不自然じゃないんだ。
――これから行く場所は、朱莉ちゃんの眠ってる墓地。
そこで、朱莉の恋人と約束していたんだ。前日に一緒に行くかって話になったとき、奴が「君の恋人は来なくて良いのかな」と少し躊躇った声で問うてきた。
それに思わず「恋人じゃねーけど、まぁ、行った方が奴の為になると思う。連れて行っていいか?」と、奴の許しを乞うていて、奴はあっさりと承諾したという話だ。
待ち合わせ場所に、――うっわ、相変わらず嫌味な奴!
ちょっと、女の子達、そんな奴に騒がないでよ! 確かに金も権力も美貌もあるけどさぁ、でもそいつ性格悪いよ!
嫌味な高級時計で時間を気にしながら、カフェテラスに座っていた。
アイスカプチーノを飲むだけで姿が決まっていて、憎い。
ちょっと赤茶の混じった髪の毛は染めた証、スーツはそれが受け入れられた証。背丈は理ちゃんくらいはある。目は焦げ茶色の、理ちゃんと同じ色。日本人によくある色をしている。
綺麗な顔の造形は朱莉ちゃんが一目惚れした証!
きれい系だけど、どちらかというと、氷を連想させるようなきれい系なので、出来れば俺は葬式前には奴とはあまり関わりたくなかった。
葬式後は話は別。何故かって? だって、同じ女好きだったもんよ、分かるだろう?
互いに無念さが――。
青年実業家の、年収一億のこいつはVIPリストの唯一の永久欠番。
朱莉ちゃん以外、興味ないのを知っているから。
奴の名は、上川 静。女の子みたーいとからかうと、じゃあお前の本名教えろって返ってくるから、俺こいつ苦手。
「嗚呼、イヅミ。それから、ええと理さん、だね」
「は、はい。あの、これ……それから、あの……すっ」
「じゃあ行こうか。ちょっと待ってね、お会計済ませるから」
拍子抜け。
まさか。
俺は理をほっぽりだして、静のところへ駆け寄りひそひそ声で話し掛ける。
「お前ッ、折角謝ろうとしているんだから」
「謝罪をして気持ちが軽くなるのは彼だろう。それならば、謝るのが如何に難しいか実感させるまでだ。少なくとも、葬式の日に全員に謝ることが出来なかったのだから、それくらいの意地悪はいいはずだ。フォローは頼んだよ」
「うっわ、意地悪ぃ!! 見ろよ、あれ! 超沈んでるぜ?!」
「だから、恋人の君がフォローしなさいって言ってるんだよ。虐めるのは性に合わない。だけど、今日だけは虐めなきゃいけないからね」
「成る程」
俺はため息をつきながら、会計を済ませてるしずっちを置いて、理のところに戻る。
花束すらも受け取ってはくれなかった静に、理はやっぱりというか、落ち込んでいる。
何だか来ちゃ行けなかったなやっぱり、そんな感じにおもってるんだろーなーって即分かりの顔だよ、ありゃ。
「なんつー顔してんだよ」
「……いや、なんでもねぇ」
「さとちゃん、いいか。これは試練だぞーお前、俺だけが処刑人たぁ限らないんだからな」
「なっ! お、オレはそんな!」
「いや、お前さんが想像してるよーな意味の処刑人って意味じゃなくてね。人道的な」
にやにやと笑いながらそう言うと、奴は赤くなって、睨み付けてくる。
嗚呼、生意気だなぁと思う瞬間。
でも、なぁ。今回はそんないちゃつく余裕ないかもしんないぜ?
相手は――あの朱莉ちゃんの恋人だった、しずっちだもん。
「車は僕が運転するよ」
「ん。それで、まずは何処にいくの?」
「アノコ、羊羹好きだったから和菓子のお店に行こう。塩羊羹買おうか」
「うまいのか、それ?」
「アノコは凄くお勧めしていたよ、糸屋の塩羊羹」
糸屋とはこの近くにある安い和菓子屋さんのことらしく、彼の収入ならばもっと高い塩羊羹でも買えるのに、それを選ぶのは彼を思ってのこと。
ほら、なんか言ってみ、アノコのこと。
「……静さん」
「嗚呼、静で構わないよ。理さんのが年上だと思うしね」
「じゃあ、静……あの、オレ」
「今日は天気が良いね。風も気持ちいいだろうから、窓を開けるといいよ」
そう言って車の中に入り込むしずっち。
うわぁ、お前、本当に鬼だね。悪魔だね。
凄いどんどん沈んでいくのが眼に見えるよ。
「静、あのちゃんと聞いてくださいッ」
「何を? 君は何を言おうとしているの?」
「……あの日、ちゃんと守れなくて……ッすみませんでした!」
「……ねえ、それを聞いた僕はどうしろというの?」
しずっちは車に入ったまま肩を揺らして苦笑を浮かべて、中に入りなさいと、優しく理に「明確な謝罪に対する返事をしなかった」。
謝罪させておいて、「もういいよ」だの「許さない」だののイエスノーになる返事をしなかった。
流石にちょっとそれはないだろうと思って、奴の名を呼ぶと、奴は「今日一日、僕に付き合って欲しい」と一言、ぼそりと漏らした。
その声があまりに真摯だったから、ちょいとさとちゃんと顔を見合わせて、さとちゃんの返事を待った。
「あ、ああ。分かった、何処までも付き合う」
――ちょっと、そういう言葉はオレに使いなさいってよ。
だから、今日も俺はため息ついて、幸せを一つ逃がす。
「だからさぁ、まじでお前もついてくんの? 会うの、しずっちに」
「……謝っておかなきゃ気が済まねぇ。葬式の日にだって、出なかったんだから……」
俺はそーですか、とため息をついて、菊の癖に豪華な花束を理に渡す。
渡された理はきょとんとしたので、俺は無表情のまま、人差し指を口元に置く。
「お前が買ってきたことにしなさい。普通、墓参りには菊の花デショ、ひまわりじゃなくてさ」
「う、うるせ……前にテメェがあいつに送りまくっていたから、それしか思いつかなかったんだよ!」
こいつのこーいうとこは、かぁいい。
だからくつくつと笑う肩を押さえながら、奴の向日葵の花束を俺が引き受ける。
俺の性格ならばこれを持っていてもおかしくないし、第一、俺は確かに朱莉ちゃんに向日葵送りまくっていたから不自然じゃないんだ。
――これから行く場所は、朱莉ちゃんの眠ってる墓地。
そこで、朱莉の恋人と約束していたんだ。前日に一緒に行くかって話になったとき、奴が「君の恋人は来なくて良いのかな」と少し躊躇った声で問うてきた。
それに思わず「恋人じゃねーけど、まぁ、行った方が奴の為になると思う。連れて行っていいか?」と、奴の許しを乞うていて、奴はあっさりと承諾したという話だ。
待ち合わせ場所に、――うっわ、相変わらず嫌味な奴!
ちょっと、女の子達、そんな奴に騒がないでよ! 確かに金も権力も美貌もあるけどさぁ、でもそいつ性格悪いよ!
嫌味な高級時計で時間を気にしながら、カフェテラスに座っていた。
アイスカプチーノを飲むだけで姿が決まっていて、憎い。
ちょっと赤茶の混じった髪の毛は染めた証、スーツはそれが受け入れられた証。背丈は理ちゃんくらいはある。目は焦げ茶色の、理ちゃんと同じ色。日本人によくある色をしている。
綺麗な顔の造形は朱莉ちゃんが一目惚れした証!
きれい系だけど、どちらかというと、氷を連想させるようなきれい系なので、出来れば俺は葬式前には奴とはあまり関わりたくなかった。
葬式後は話は別。何故かって? だって、同じ女好きだったもんよ、分かるだろう?
互いに無念さが――。
青年実業家の、年収一億のこいつはVIPリストの唯一の永久欠番。
朱莉ちゃん以外、興味ないのを知っているから。
奴の名は、上川 静。女の子みたーいとからかうと、じゃあお前の本名教えろって返ってくるから、俺こいつ苦手。
「嗚呼、イヅミ。それから、ええと理さん、だね」
「は、はい。あの、これ……それから、あの……すっ」
「じゃあ行こうか。ちょっと待ってね、お会計済ませるから」
拍子抜け。
まさか。
俺は理をほっぽりだして、静のところへ駆け寄りひそひそ声で話し掛ける。
「お前ッ、折角謝ろうとしているんだから」
「謝罪をして気持ちが軽くなるのは彼だろう。それならば、謝るのが如何に難しいか実感させるまでだ。少なくとも、葬式の日に全員に謝ることが出来なかったのだから、それくらいの意地悪はいいはずだ。フォローは頼んだよ」
「うっわ、意地悪ぃ!! 見ろよ、あれ! 超沈んでるぜ?!」
「だから、恋人の君がフォローしなさいって言ってるんだよ。虐めるのは性に合わない。だけど、今日だけは虐めなきゃいけないからね」
「成る程」
俺はため息をつきながら、会計を済ませてるしずっちを置いて、理のところに戻る。
花束すらも受け取ってはくれなかった静に、理はやっぱりというか、落ち込んでいる。
何だか来ちゃ行けなかったなやっぱり、そんな感じにおもってるんだろーなーって即分かりの顔だよ、ありゃ。
「なんつー顔してんだよ」
「……いや、なんでもねぇ」
「さとちゃん、いいか。これは試練だぞーお前、俺だけが処刑人たぁ限らないんだからな」
「なっ! お、オレはそんな!」
「いや、お前さんが想像してるよーな意味の処刑人って意味じゃなくてね。人道的な」
にやにやと笑いながらそう言うと、奴は赤くなって、睨み付けてくる。
嗚呼、生意気だなぁと思う瞬間。
でも、なぁ。今回はそんないちゃつく余裕ないかもしんないぜ?
相手は――あの朱莉ちゃんの恋人だった、しずっちだもん。
「車は僕が運転するよ」
「ん。それで、まずは何処にいくの?」
「アノコ、羊羹好きだったから和菓子のお店に行こう。塩羊羹買おうか」
「うまいのか、それ?」
「アノコは凄くお勧めしていたよ、糸屋の塩羊羹」
糸屋とはこの近くにある安い和菓子屋さんのことらしく、彼の収入ならばもっと高い塩羊羹でも買えるのに、それを選ぶのは彼を思ってのこと。
ほら、なんか言ってみ、アノコのこと。
「……静さん」
「嗚呼、静で構わないよ。理さんのが年上だと思うしね」
「じゃあ、静……あの、オレ」
「今日は天気が良いね。風も気持ちいいだろうから、窓を開けるといいよ」
そう言って車の中に入り込むしずっち。
うわぁ、お前、本当に鬼だね。悪魔だね。
凄いどんどん沈んでいくのが眼に見えるよ。
「静、あのちゃんと聞いてくださいッ」
「何を? 君は何を言おうとしているの?」
「……あの日、ちゃんと守れなくて……ッすみませんでした!」
「……ねえ、それを聞いた僕はどうしろというの?」
しずっちは車に入ったまま肩を揺らして苦笑を浮かべて、中に入りなさいと、優しく理に「明確な謝罪に対する返事をしなかった」。
謝罪させておいて、「もういいよ」だの「許さない」だののイエスノーになる返事をしなかった。
流石にちょっとそれはないだろうと思って、奴の名を呼ぶと、奴は「今日一日、僕に付き合って欲しい」と一言、ぼそりと漏らした。
その声があまりに真摯だったから、ちょいとさとちゃんと顔を見合わせて、さとちゃんの返事を待った。
「あ、ああ。分かった、何処までも付き合う」
――ちょっと、そういう言葉はオレに使いなさいってよ。
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