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第一部 罪と罰――イヅミ
第四話 お友達と理の噂
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お友達くんは、俺の目からみれば、かなりの割合で理にべったりである。
理はお友達くんと何か話した後俺を見ると顔を少し赤くして睨み付けてから目をそらす。
お友達くんはといえば、にやにやとして、俺と理の成り行きを見守る。
時折、商品の様子をチェックしながら、此方をちらりと見やり、お友達くんが進んで俺に話し掛けてくることもある。
店がオープンしてる間、俺たちボディーガードは商品のチェックをしている。
映るモニターをチェックしながら、普段は大忙しなんだが、そろそろ店も閉店時間ということで終わり前の清掃中。それも俺たちの仕事の一つ。当番のような物。
清掃を手伝いながら、仕事終わりらしいお友達くんに声をかけられる。
「ねーねー、イヅミにーさん、今暇?」
「何? 暇っちゃー暇だねぇ」
「イヅミにーさんはさぁ、さとちゃんのことどーおもってるの?」
さとちゃんとは、理のことだろう。
二人は仲が良いというか、お友達くん自体、理の紹介でこの店にきたのだから、それも当たり前なのだが。
でもこの口ぶりではあいつに何を俺がしているかすらも知っているようだ。
「罪人」
「罪人?」
「そう。あいつは、俺の思い人を見殺しにしたから」
「イヅミおにーさんは、心が狭いね。目の前にあるもの全て救える人間なんて、居ないよ?」
「それでもそういう努力をしなかったんだよ、あいつは」
話しに聞けば、あいつは武器を構えることすらもしなかったと聞く。
嗚呼、可哀想に朱莉ちゃん。あんなに可愛かったのに、あんなに優しかったのに、理に――。
「殺したのは、さとちゃんじゃないのを忘れてない? 憎むべきは、ストーカーじゃないのー?」
「……それも、そうなんだけどねぇ」
この子が、アノコのこととストーカーのことを知ってるのに不満。
ばらしたな、お前の罪科を。理。
普通、罪科って人にばらすもんじゃないと思うんだけどな――それとも、ばらすほど仲が良い?
お前、変なところでプライド高い癖に、いったん心許すと何処までも許す奴だからなぁ。
「お友達くんはどーなの?」
「おれ? おれはね、さとちゃんには感謝してるよ」
この子はね、また曖昧にするのが巧いんだよね。
言葉の選び方が巧いよ、畜生。
俺なんか外人だから、どれも同じに聞こえていた昔もあったけれど、今じゃ流暢に話せるんだよ。
だから誤魔化されたって瞬時に判るんだ。
好きかどうかと聞かれて、感謝してるという返事はおかしいって知ってるもん。
「お友達くんはくせ者の部類と見た」
「まさかぁ。おれなんか可愛い方ですよ」
ユエルンさんとか凄いじゃないですか、と続く言葉には俺も同意見。
ユエルンという商品は物凄い気むずかしい性格で、女王気質な野郎だ。
男の癖に、女王という言葉が相応しいくらいの美貌を持っている。
この店で一番美形は誰かって聞かれたら、ユエルン。あの女顔が中々絶世の美少女で、見ただけでこの世の奇跡って感じなんだ。
このお店、流石、ゆるーいオーナーが作ったってだけあって、他の奴らがしっかりしてるんだわ。
睡蓮しかり、俺しかり。いなくなった枯葉しかり。自意識過剰じゃないよ、統括役だから、ほら。そこらへんはちゃーんとしっかりしてるんですよ。
よくオーナーに「イヅミは公私混同は滅多にしないから、任せやすい」って言われるんだよねぇ。
ただ言葉に「ある人以外は」って付け足されるけれど。
ノー! 俺は公私混同なんてしませんワ。
「お友達くんは好きな人いるわけー?」
「居ますよ、勿論。かわいくてー怖くてー」
「え、ちょっと可愛いの次の形容詞が怖いっておかしくね?」
っつーか、その形容詞に心当たりある人、一人いるんデスケド。
可愛くないけどね、あいつ。怖いっつっても、取っつき悪いだけだけどね。不器用なだけだけどね。
いつも器用に生きようとしないから、俺に利用されちゃってさ。
馬鹿みたい。
お友達くんは頬を染めたまま、語ってくれちゃう。
「そうだな、それで強い人でー…」
言葉の途中で、お友達くんがこっちを見たから、え、と思って。きょとんとしてるとお友達くんはにこりと微笑み、俺を指さす。
「イヅミおにーさんも知ってる人だぁよ。誰かは内緒。お店で恋愛は御法度なんでしょう?」
「……あー。店の人と恋愛しちゃったんだぁ。いけない仔だねぇ」
俺たちはげらげらと笑いながらそれぞれ仕事を片付ける。
書類を渡されれば確認し、不明なところを誰々に聞いておいてと念押して。
それから、少し渦巻く嫌な気持ち。
――短期間で、店の仔と恋愛なんて出来るわけがない。でも、ただ一人可能な奴、いるよね。
――理。
……嗚呼、お前、罪人の癖に。
一生お前は許されない罪人の癖に、思われるなんて。お前を思う馬鹿がいるなんてな!
その日は何故だろう、何処か苛々が収まらなかった。
多分、罪人が思われてるという理不尽さ。
数週間後、噂を聞いてしまった。
お友達くん、うまくやれなかったのかな、それともこれは自分があの罪人を守るっていうことなのかな。
お友達くんに恋人が居るらしい、と睡蓮から聞いた。
睡蓮でよかったね、情報握ったのがユエルンとかオーナーだったりしたら、大変だったよ。
罪人が笑う。
罪人が笑う日など、あってはならないのに。
罪人は手をまだ洗っては居ない。俺が洗わせていないからだ。
つまり、まだ罰は与え続ける必要があるということだ。
それなのに、お前は日々罰する俺から逃げて、お友達くんから思われてる。
否、思い合ってるのか? ほら、人目を忍んだつもりで二人で内緒話して笑っても、ここからじゃ丸見え。
つか、何で俺そんな見てるんだよ。
どうでもいいじゃん。もっと罰を――厳しくすればいいんだから。
理はお友達くんと何か話した後俺を見ると顔を少し赤くして睨み付けてから目をそらす。
お友達くんはといえば、にやにやとして、俺と理の成り行きを見守る。
時折、商品の様子をチェックしながら、此方をちらりと見やり、お友達くんが進んで俺に話し掛けてくることもある。
店がオープンしてる間、俺たちボディーガードは商品のチェックをしている。
映るモニターをチェックしながら、普段は大忙しなんだが、そろそろ店も閉店時間ということで終わり前の清掃中。それも俺たちの仕事の一つ。当番のような物。
清掃を手伝いながら、仕事終わりらしいお友達くんに声をかけられる。
「ねーねー、イヅミにーさん、今暇?」
「何? 暇っちゃー暇だねぇ」
「イヅミにーさんはさぁ、さとちゃんのことどーおもってるの?」
さとちゃんとは、理のことだろう。
二人は仲が良いというか、お友達くん自体、理の紹介でこの店にきたのだから、それも当たり前なのだが。
でもこの口ぶりではあいつに何を俺がしているかすらも知っているようだ。
「罪人」
「罪人?」
「そう。あいつは、俺の思い人を見殺しにしたから」
「イヅミおにーさんは、心が狭いね。目の前にあるもの全て救える人間なんて、居ないよ?」
「それでもそういう努力をしなかったんだよ、あいつは」
話しに聞けば、あいつは武器を構えることすらもしなかったと聞く。
嗚呼、可哀想に朱莉ちゃん。あんなに可愛かったのに、あんなに優しかったのに、理に――。
「殺したのは、さとちゃんじゃないのを忘れてない? 憎むべきは、ストーカーじゃないのー?」
「……それも、そうなんだけどねぇ」
この子が、アノコのこととストーカーのことを知ってるのに不満。
ばらしたな、お前の罪科を。理。
普通、罪科って人にばらすもんじゃないと思うんだけどな――それとも、ばらすほど仲が良い?
お前、変なところでプライド高い癖に、いったん心許すと何処までも許す奴だからなぁ。
「お友達くんはどーなの?」
「おれ? おれはね、さとちゃんには感謝してるよ」
この子はね、また曖昧にするのが巧いんだよね。
言葉の選び方が巧いよ、畜生。
俺なんか外人だから、どれも同じに聞こえていた昔もあったけれど、今じゃ流暢に話せるんだよ。
だから誤魔化されたって瞬時に判るんだ。
好きかどうかと聞かれて、感謝してるという返事はおかしいって知ってるもん。
「お友達くんはくせ者の部類と見た」
「まさかぁ。おれなんか可愛い方ですよ」
ユエルンさんとか凄いじゃないですか、と続く言葉には俺も同意見。
ユエルンという商品は物凄い気むずかしい性格で、女王気質な野郎だ。
男の癖に、女王という言葉が相応しいくらいの美貌を持っている。
この店で一番美形は誰かって聞かれたら、ユエルン。あの女顔が中々絶世の美少女で、見ただけでこの世の奇跡って感じなんだ。
このお店、流石、ゆるーいオーナーが作ったってだけあって、他の奴らがしっかりしてるんだわ。
睡蓮しかり、俺しかり。いなくなった枯葉しかり。自意識過剰じゃないよ、統括役だから、ほら。そこらへんはちゃーんとしっかりしてるんですよ。
よくオーナーに「イヅミは公私混同は滅多にしないから、任せやすい」って言われるんだよねぇ。
ただ言葉に「ある人以外は」って付け足されるけれど。
ノー! 俺は公私混同なんてしませんワ。
「お友達くんは好きな人いるわけー?」
「居ますよ、勿論。かわいくてー怖くてー」
「え、ちょっと可愛いの次の形容詞が怖いっておかしくね?」
っつーか、その形容詞に心当たりある人、一人いるんデスケド。
可愛くないけどね、あいつ。怖いっつっても、取っつき悪いだけだけどね。不器用なだけだけどね。
いつも器用に生きようとしないから、俺に利用されちゃってさ。
馬鹿みたい。
お友達くんは頬を染めたまま、語ってくれちゃう。
「そうだな、それで強い人でー…」
言葉の途中で、お友達くんがこっちを見たから、え、と思って。きょとんとしてるとお友達くんはにこりと微笑み、俺を指さす。
「イヅミおにーさんも知ってる人だぁよ。誰かは内緒。お店で恋愛は御法度なんでしょう?」
「……あー。店の人と恋愛しちゃったんだぁ。いけない仔だねぇ」
俺たちはげらげらと笑いながらそれぞれ仕事を片付ける。
書類を渡されれば確認し、不明なところを誰々に聞いておいてと念押して。
それから、少し渦巻く嫌な気持ち。
――短期間で、店の仔と恋愛なんて出来るわけがない。でも、ただ一人可能な奴、いるよね。
――理。
……嗚呼、お前、罪人の癖に。
一生お前は許されない罪人の癖に、思われるなんて。お前を思う馬鹿がいるなんてな!
その日は何故だろう、何処か苛々が収まらなかった。
多分、罪人が思われてるという理不尽さ。
数週間後、噂を聞いてしまった。
お友達くん、うまくやれなかったのかな、それともこれは自分があの罪人を守るっていうことなのかな。
お友達くんに恋人が居るらしい、と睡蓮から聞いた。
睡蓮でよかったね、情報握ったのがユエルンとかオーナーだったりしたら、大変だったよ。
罪人が笑う。
罪人が笑う日など、あってはならないのに。
罪人は手をまだ洗っては居ない。俺が洗わせていないからだ。
つまり、まだ罰は与え続ける必要があるということだ。
それなのに、お前は日々罰する俺から逃げて、お友達くんから思われてる。
否、思い合ってるのか? ほら、人目を忍んだつもりで二人で内緒話して笑っても、ここからじゃ丸見え。
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