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第一話 好きです好きです、貴方の属性が!
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「まあ、またあの方殿方に愛想振りまいてるわ」
「あの可憐なドレス、イデアローズ様には似合わないのに」
「ああいう女性が増えてきているんですって。だから祈りの力を持つ者も具現しないのかしら」
「ああ、まだ聖女様も現れてませんものね。まだ発覚せず潜む聖女様がああいう女でないことを祈りますわ」
紳士淑女の社交場、マダムレイティのパーティーにて散々な罵倒を影ながら受ける。
全ては妾(わたし)の見た目が原因だ。
妾は好みが人と違っていていつも選ぶ服は露出多め、さらに言えば男性受けしやすい体つきの、たくさん実ったお尻と胸。
その全てを総合すると、いわゆる娼婦みたいな格好になりやすい。
社交場ではそれは控えているので、ちゃんとした皆と似たようなデザインのドレスにはしているのだけど、それでまた却って顰蹙を受けるみたいだった。
顔つきもアホの子っぽいと影で使用人に揶揄されるくらいの顔つきだから、余計に頭悪い顔だけの娼婦に誰もが見えてるはず。
とても可愛らしいアクセサリーや、洋服だなと選ぶと、皆が眉唾を顰めて「それは選ばない方が良い」って仰る。
その意味合いにこうなる未来が含まれていたなんて。
好きなものを好きなように着られる時代にいつかなればいいのだけれど。
とにかく、絵本や子供の好きな物語でよく見かける。悪役のような見た目そのもので。
妾はそのせいで今までお友達もろくにできず、縁談話もうまくいかない。
この桃色の髪の毛や、紅い垂れ目だって世間の流行に合わせた服を選んでいた頃は、可憐だ美少女だって褒められたのに!
マダムレイティは妾のその性質をよく理解して、優しくしてくれる女性だった。
マダムレイティは誰にも慈悲深く、教会にも寄付を沢山してる、聖人のような御方だ。
マダムレイティが席に戻れば悪口を囁いていた女性達は、マダムレイティに取り入ってる。
マダムレイティは此方を気に掛けてくれるけど、いつまでも甘えるわけにはいかない。
今日こそお友達を作ろうと意気込んでいたけれど、でも、ちょっとだけ疲れた。
少しだけパーティ会場を離れて、庭にきていた。マダムレイティの庭は彼女の自慢で、客として招かれていれば誰もが訪れたがる。
そんな場所も今はしんとしている。誰も居ないみたい。ほっとして少しだけ日陰の見える席をお借りする。
パーティ会場から見える場所だから、マダムにとっても安心だろう。じゃじゃ馬がなにもしてないと安心してくれるはず。
マダムレイティとは、とある趣味で知り合い。趣味のことを沢山話していくうちに仲良くなった。
今ではマダムレイティは公爵家だというのに、子爵家のうちにとてもよくしてくださる。
趣味に感謝してもしたりない。そのための趣味というわけではないけれど。
その趣味というのは――。
「もし、大丈夫ですか。そこのレディ」
「あ……」
黒髪に青い眼の美丈夫が庭にやってきて、妾を気遣う。
見たところマダムと同じくらいの地位に違いない。ということは腰の剣を見る限りでは騎士様だ。
(――騎士様、なるほど)
美丈夫は青い衣服を整えながら、妾を気遣いそっとこめかみに手を伸ばした。
妾は微笑み、一礼を。
「お気遣い有難う御座います」
「うむ、私はアシュタルテ・コークスだ。君は?」
「イデアローズ・シュルクスと申します」
妾はアシュタルテ様のきりっとした瞳や、力強い眉毛。端正な顔立ちに馴染んだ胸筋や体つきをさりげなく視線で物色する。
といっても妾自身がなにかするのじゃない。妄想にお借りするだけ。
(この方は受けね――)
妾の趣味は、何を隠そう男色趣味を書物や絵にしたためることだ。
異国の言葉ではこれを、貴腐人というのだと知った。
妾はにこりと微笑み、即座にアシュタルテ様の属性を考え込む。
(端正な顔立ちは見栄えがいいわ、この筋肉は攻めのほうが世間では流行りそうだけど。でも敢えて妾は受けが良い。この方にはきっとヤンデレとかギャップがあっていいかもしれない。それともここは健気なわんこ……いえ、忠犬的な指示待ち受け……)
ヤンデレという言葉は他国の異文化男色本で覚えたてのジャンル。
最近その手の本を集めに集めている。
ふふふふ、と妄想しながら穏やかに笑っていると、アシュタルテ様はじっと妾を見て、ふいに頬笑んだ。
「貴方は何処か他の女性と違うようだ」
「何がでしょうか?」
「たおやかな瞳で、どこか燃えさかっている。肉食獣のような瞳をしながら、私には興味をひとかけらも見せないものだから。失礼、視線の種類を言えば、何か色が籠もっているのに私自身を見ていないようだから。面白いなと」
「アシュタルテ様を口説こうなんてとてもとても。妾には難しすぎて倒れてしまいそう」
「倒れたら大変だ、日差しも強い」
「チェリーパイがあれば治りますわ」
「なら会場から独り占めしないといけませんね。はは、冗句もうまい御方だ」
「言葉遊びが大変好きなんです。言葉を並べてショーケースから選んで貰って。相手から笑顔と一緒にお代を貰えたら最高でしょう?」
「なるほど、とても頭の回転が速い御方だ。気に入ったよ、イデアローズどの」
「妾も貴方が気に入りましたわ、とても素敵な御方ですもの」
(この見た目で夜は静かにそれとも暴れ馬のように、イイ声をなさるのかしら。相手はどんな方がいいかしら、やんちゃな攻めかしら)
内心お互いに考えていることはおくびにも出さず、和やかな会話を終え、パーティの間はアシュタルテ様とお話しさせていただいた。
マダムレイティの目は、それこそアシュタルテ様が言うような肉食獣の眼差しで。妾たち二人を見て、にちゃあと婦人がしてはいけない顔をしていると知らずに。
「あの可憐なドレス、イデアローズ様には似合わないのに」
「ああいう女性が増えてきているんですって。だから祈りの力を持つ者も具現しないのかしら」
「ああ、まだ聖女様も現れてませんものね。まだ発覚せず潜む聖女様がああいう女でないことを祈りますわ」
紳士淑女の社交場、マダムレイティのパーティーにて散々な罵倒を影ながら受ける。
全ては妾(わたし)の見た目が原因だ。
妾は好みが人と違っていていつも選ぶ服は露出多め、さらに言えば男性受けしやすい体つきの、たくさん実ったお尻と胸。
その全てを総合すると、いわゆる娼婦みたいな格好になりやすい。
社交場ではそれは控えているので、ちゃんとした皆と似たようなデザインのドレスにはしているのだけど、それでまた却って顰蹙を受けるみたいだった。
顔つきもアホの子っぽいと影で使用人に揶揄されるくらいの顔つきだから、余計に頭悪い顔だけの娼婦に誰もが見えてるはず。
とても可愛らしいアクセサリーや、洋服だなと選ぶと、皆が眉唾を顰めて「それは選ばない方が良い」って仰る。
その意味合いにこうなる未来が含まれていたなんて。
好きなものを好きなように着られる時代にいつかなればいいのだけれど。
とにかく、絵本や子供の好きな物語でよく見かける。悪役のような見た目そのもので。
妾はそのせいで今までお友達もろくにできず、縁談話もうまくいかない。
この桃色の髪の毛や、紅い垂れ目だって世間の流行に合わせた服を選んでいた頃は、可憐だ美少女だって褒められたのに!
マダムレイティは妾のその性質をよく理解して、優しくしてくれる女性だった。
マダムレイティは誰にも慈悲深く、教会にも寄付を沢山してる、聖人のような御方だ。
マダムレイティが席に戻れば悪口を囁いていた女性達は、マダムレイティに取り入ってる。
マダムレイティは此方を気に掛けてくれるけど、いつまでも甘えるわけにはいかない。
今日こそお友達を作ろうと意気込んでいたけれど、でも、ちょっとだけ疲れた。
少しだけパーティ会場を離れて、庭にきていた。マダムレイティの庭は彼女の自慢で、客として招かれていれば誰もが訪れたがる。
そんな場所も今はしんとしている。誰も居ないみたい。ほっとして少しだけ日陰の見える席をお借りする。
パーティ会場から見える場所だから、マダムにとっても安心だろう。じゃじゃ馬がなにもしてないと安心してくれるはず。
マダムレイティとは、とある趣味で知り合い。趣味のことを沢山話していくうちに仲良くなった。
今ではマダムレイティは公爵家だというのに、子爵家のうちにとてもよくしてくださる。
趣味に感謝してもしたりない。そのための趣味というわけではないけれど。
その趣味というのは――。
「もし、大丈夫ですか。そこのレディ」
「あ……」
黒髪に青い眼の美丈夫が庭にやってきて、妾を気遣う。
見たところマダムと同じくらいの地位に違いない。ということは腰の剣を見る限りでは騎士様だ。
(――騎士様、なるほど)
美丈夫は青い衣服を整えながら、妾を気遣いそっとこめかみに手を伸ばした。
妾は微笑み、一礼を。
「お気遣い有難う御座います」
「うむ、私はアシュタルテ・コークスだ。君は?」
「イデアローズ・シュルクスと申します」
妾はアシュタルテ様のきりっとした瞳や、力強い眉毛。端正な顔立ちに馴染んだ胸筋や体つきをさりげなく視線で物色する。
といっても妾自身がなにかするのじゃない。妄想にお借りするだけ。
(この方は受けね――)
妾の趣味は、何を隠そう男色趣味を書物や絵にしたためることだ。
異国の言葉ではこれを、貴腐人というのだと知った。
妾はにこりと微笑み、即座にアシュタルテ様の属性を考え込む。
(端正な顔立ちは見栄えがいいわ、この筋肉は攻めのほうが世間では流行りそうだけど。でも敢えて妾は受けが良い。この方にはきっとヤンデレとかギャップがあっていいかもしれない。それともここは健気なわんこ……いえ、忠犬的な指示待ち受け……)
ヤンデレという言葉は他国の異文化男色本で覚えたてのジャンル。
最近その手の本を集めに集めている。
ふふふふ、と妄想しながら穏やかに笑っていると、アシュタルテ様はじっと妾を見て、ふいに頬笑んだ。
「貴方は何処か他の女性と違うようだ」
「何がでしょうか?」
「たおやかな瞳で、どこか燃えさかっている。肉食獣のような瞳をしながら、私には興味をひとかけらも見せないものだから。失礼、視線の種類を言えば、何か色が籠もっているのに私自身を見ていないようだから。面白いなと」
「アシュタルテ様を口説こうなんてとてもとても。妾には難しすぎて倒れてしまいそう」
「倒れたら大変だ、日差しも強い」
「チェリーパイがあれば治りますわ」
「なら会場から独り占めしないといけませんね。はは、冗句もうまい御方だ」
「言葉遊びが大変好きなんです。言葉を並べてショーケースから選んで貰って。相手から笑顔と一緒にお代を貰えたら最高でしょう?」
「なるほど、とても頭の回転が速い御方だ。気に入ったよ、イデアローズどの」
「妾も貴方が気に入りましたわ、とても素敵な御方ですもの」
(この見た目で夜は静かにそれとも暴れ馬のように、イイ声をなさるのかしら。相手はどんな方がいいかしら、やんちゃな攻めかしら)
内心お互いに考えていることはおくびにも出さず、和やかな会話を終え、パーティの間はアシュタルテ様とお話しさせていただいた。
マダムレイティの目は、それこそアシュタルテ様が言うような肉食獣の眼差しで。妾たち二人を見て、にちゃあと婦人がしてはいけない顔をしていると知らずに。
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