簡単に運命と言わないで――二人のアルファに囲まれて――

かぎのえみずる

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長内編

第二十一話 辿々しく初々しい港

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 次の日、僕は喉がからからで起き上がるなり、飲み物を貰いに冷蔵庫へ行くと台所でしゃがみ込んでる雪道さんと目が合う。
 僕もしゃがみ込んで目を合わせると雪道さんは、しょんぼりとしていた。
「軽蔑するだろう」
「どうして」
「こんな状況で君が椿を愛しているのだと気づくと同時に、君を失いたくない思いでいっぱいだ」
「真面目に考えてる人を笑う趣味はないよ。雪道さんは沢山僕を舐めるんだね」
「舐めてない。ただ、君は……椿と結ばれたいんじゃないかな、と」
 それでここでしょんぼりしていたのかな。側には蜂蜜と食パンがあるけれど、それはおなかがすいたときに食べたのか。それともやけ食いなのか判断がつかなかった。
「貴方らしくないね。どうしたの」
「私らしくあればあるほど、君は離れていくと気づいたんだよ。一生懸命でなければ、君には届かないと。適当なままの私ではいけないと。アルファ、という私ではなく、港雪道という私で見て貰わないと」
「……港雪道という人が、どういう人かまだ僕つかめないんだよ」
 僕は雪道さんの隣に腰掛け、余った食パンと蜂蜜を食べ始める。雪道さんの視線はいじけたままだ。
「悪いところなら分かるよ! けど、貴方は外面しか僕に見せてない。本心をあまり見せてない気がする。本心を常に百パーセント全開の人と比べちゃいけないけどさ」
「本心……君が、愛しいのは本心だよ。あの、どう伝えていいか分からないけれど、私は君に本気なんだよ」
「どうして? 運命ってやつだから?」
「……あのとき、病院にいったとき。君は私にもチャンスをくれた。そのときに、お前は見下し続けてきたから駄目だよってしなかったんだ。……敵わないな、たまらないな、好きだなって思った」
 辿々しくも好意を告げてくる三十路の不器用な男を相手に、可愛いとよぎるのはまずいかな。
 何となくいつもの何でも出来る雪道さんより、接しやすくて僕は好きだなぁって思ったんだ。今の雪道さんのほうが。

「それなら僕は一生懸命薬を探すよ。待っていて、この僕さ。運命が二人もいるこの僕だよ、そう簡単に運命から離れてやんない」
「……独占できたら一番なんだけど、な」
「それは二人次第。じゃあ僕、薬探しに他の病院行ってくるよ、午前に」
「先生は貴重な薬だといっていたね。付き添えればいいんだけれど、条件の取材が待っているからそうもいかない。気をつけるんだよ、いいね?」

 子供扱いしてくる雪道さんはあまり好きではないので、いーっと歯を見せて拒絶してやった。



 次の病院も駄目だった、どこにも薬は置いてないらしい。
 特にベータがアルファの恋人持ちであるオメガに嫉妬したり、もしくは宜しくない無理矢理の使用法で例の薬が頻繁に使われる事件が増えてるってもんでより貴重なんだって。
 薬の噴射自体は効果に個体差があり効かない人もいるので、現在はぎりぎり犯罪ではないけれど、将来的に違法にはなるんじゃないかと医者の先生も言っていた。
 僕は病院から出るなり、バイト先のこの前の先輩と出くわす。
 先輩はにたらにたらとしていて機嫌が良さそうだ。
「どうだ、お別れしなきゃいけなくなった気持ちは」
「こんなことしていて、空しくならないんですか?」
「っは! お前はいいよなぁ、凡人枠ってやつじゃなくてさあ。オメガだから、金持ちのアルファさえ捕まえれば将来は安泰だ。ベータは一生庶民しかなれねぇんだよ!」
「うーん、なるほど。手遅れですね、先輩の脳みそって。今はあの二人は僕がオメガだからってこだわってるわけじゃあないんだよって言っても、通じない脳みそなのは分かりました!」
「馬鹿にしてるのだけはとても分かる! てめぇ生意気なんだよ!」
「年だけいってる幼稚園児のが生意気じゃあありませんか、ねぇ幼稚園児先輩」
 人通りがないのを確認すると、僕は幼稚園児先輩をぶん殴っておいた。
「何するんだ!」
「オメガ舐めンじゃねぇよ、皆一生懸命生きてるんだ! 一生懸命生きた人から、将来の伴侶を奪うなんてよく馬鹿な真似できたね? 地獄へ落ちろ!」

 僕は先輩の股間を蹴ると、さっさかと逃げた。罵声が聞こえたが気にしない。

 凡人枠って何さ。凡人であることに甘え続ける意思があるからそうなるんだよ。努力した人でベータでも会社立ち上げた人だっているのは知っている。
 努力してそうなろうってしなかったことへの、いいわけだ!
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