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長内編
第十五話 番成立と止まらない発情
しおりを挟むインターフォンが鳴り響く。僕はびくっとするも、騎乗位の状態を解くことは許されず、続けて腰を揺らせと雪道さんの眼差しが命じていた。
僕はその眼差しだけで興奮し顔を思わず赤らめるも、その所作は雪道さんを煽るだけであった。満足そうな顔の雪道さん、更にインターフォンは鳴り、次には雪道さんのスマホが鳴り響く。
雪道さんは僕の頭を撫でながら、腰をわずかに律動させ、僕が声を抑えられないと分かった上で電話に出る。
「ああ、聞こえるかい? 可愛いだろう、ようやく私のオメガになってくれたんだよ。聞いたよ、二人で暮らそうとしてたんだってね? 酷いじゃないか……これはその仕返しだよ。最初に項を咬ませて貰った。甘美な味だったよ」
電話はぶつっと切れ、やがて玄関から椿の怒声が聞こえ、椿が寝室までやってきて怒りを露わに僕や繋がっている雪道さんを見つめる。
「抜け駆けしやがったな!」
「それはどっちが先だったか忘れる鳥頭なのかね」
「密を返せ、密そいつから退け、セックスしてるんじゃねぇよ!」
「駄目だよ密、項を咬んだほうの番の言うことを聞くんだ」
「オレはまだ咬んでないけど、オレだって番なんだよ、くそったれ!」
「お前は私が嫌いだろう、憎いだろう。なら同じ番は嫌だと思わないか? 諦めたまえ、是非に」
「ふっざけンじゃねぇぞ! テメェだけが密を好いてると思うなよ? テメェのことだ、無理矢理強いて咬んだんだろ、そうならざるを得ない状況を作り上げて! そういった卑怯な行為がテメェはお得意だからなぁ?」
「この密を見てもそんな口をたたけるのかね? 私達のラットに、濡れて興奮している……濡れていると、私だけには分かるよ。なぁ、中に挿入っているのだから」
「おこ、ら、ないで……嫉妬で、二人のフェロモンが、いつもより、強くなる、からあ」
「密……」
「み、ないで。椿、アッ、あん! うご、かない、で、雪道さん」
僕は震え退こうとしても、椿からの視線、雪道さんからの刺激。更にはラットからの発情によって、ただ快楽を貪ることしか考えられなくなっていた。
もっと気持ちいいのが欲しい、と思うと同時に、今の浅ましい姿は椿に見せたくないものである。
腰を揺らしながら、目を見開く椿と目が合うと、僕はそれだけで達してしまった。
羞恥心を煽られてしまったのだろう。
「密、――びくびく震えている」
「言わないで、や、だ」
椿が生唾を飲む音が聞こえ、椿を見やれば椿は一気に僕に近づき、僕へと口づけした。
「項、オレにも噛ませろ」
「どうし、て」
「こいつだけのものにしたくねえからだよ、オレも運命だというのなら」
椿は雪道さんをぎっと、睨み付けた。鋭敏な眼差しでも何のその、雪道さんは飄々としていた。それどころか、僕の中で質量が増していく。
「私のものを銜えながら、告白されるとは面白い光景だな」
「密、オレは真剣だ。こいつの言葉なんて無視だ無視。オレのこと気にくわねぇなら、この場で諦める。だけどそうじゃあねぇんだろ、あの日同棲許可したのって、オレにも希望があったからだろ? オレと一緒にいたいっていう、心の揺れが」
「椿……僕は、椿と離れる、の、やだ」
僕は項に手をそっとあててから、椿に差し出すように手を離すと椿は柔らかに微笑んだ。
「……上出来だ。オレの愛しい番」
甘ったるい言葉なのに、このときばかりは僕は苦手意識ではなく、許されたんだと安堵した。
僕のほっとした姿を見た椿は、僕の項に優しく触れるように噛み、舐めた。
荒々しささえ感じる雪道さんの噛み方と違い、僕の胸は高鳴った。
雪道さんは一連の流れに、顰めっ面をしていてぎりと奥歯を噛みしめ、椿が離れてから僕の腰をぱしんと叩く。
「動け」
「あ、あ」
「動かないときついお仕置きするよ、私と愛を育んでるときに項を差し出すなんて」
「おい、こいつの番はオレもなったんだ、オレには口を出す権利がある。今日はこれ以上は抱くな。密が戸惑ってる」
「……椿くんに言われてやめるのも何だがね、興がそがれた。いいよ、君が抱いてあげるといい。密、新居でたっぷり可愛がってあげるからね。私の子を孕んでるといいな」
雪道さんが自分の萎えた自身を僕から抜いて、僕を下ろす。雪道さんの肉棒が生であることに気づくと、椿は心からの憎悪を顔に浮かべ雪道さんを睨んで風呂場へ去る背中を視線だけで追いかけた。
部屋に残された僕は、椿に抱きしめて貰い、椿の温かみにほっとした。
「密、大丈夫、大丈夫だ。抱かないよ」
「嫌だ、辛いから抱いて。今、抱いて」
「密……それは慰みじゃなくて、オレが欲しいのか? ただの慰みなら抱かない、アンタを傷つけるだけだ」
「椿、どうして……」
どうして、身体から繋いだお前が優しさや気遣いを持っていて、心を奪いたいと言った雪道さんが身体を強いるの?
「椿……僕は」
ぐすぐすと泣きじゃくる涙を堪えきれなかった。
「僕は、アルファもオメガも嫌いだ」
「……あいつのような、アルファばかりなら嫌いになってもしょうがねぇと思うよ。密、大丈夫だ、オレが守ってやる……」
椿の声は怒りに震えていたけれど、僕を抱きしめる腕だけは優しかった。
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