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長内編
第二話 王子様系歌手と不思議系作家との出会い
しおりを挟むそこから僕は鳥崎椿という歌手のファンになった。
握手会の抽選券にも初めて応募するときは、一回自分の名前をきちんと書くのに緊張した。
ライブはチケット争奪戦で、なかなかスマホ操作がおぼつかない僕には困難だった。
一度親友に頼んで争奪戦に挑んだが、それでも三十秒で瞬殺だった。
けど。抽選券なら、僕にだってゆっくり書いて応募できるし、チャンスがある!
一瞬で当落が分かるあの瞬間より、ドキドキし続けてしまい心臓が縮こまりそうになるけれど、僕はそれでもグッズから得る握手会抽選券だけには応募し続けた。
その願いが叶い、見事当選することができた!
僕は何度も雑誌で鳥崎椿をチェックし続け、握手会に胸を膨らませた。
明るい茶髪はミルクティーのような色で、灰色の目はどこか浮世離れしている。
雑誌で見る分には分からないが、背が百八十センチもあるらしくてうらやましい、僕なんかは百六十九センチだ。
僕が知ったきっかけのドラマは元は、港雪道という作家の小説が原作らしく、原作は原作で興味を大変持った。
文体がこの人えろいのだ、とにかく、やたら色気があり吐息が思わず漏れてしまう。
今回は歌手であるのに珍しくも、その小説を生で朗読するイベント企画もあり、朗読データつき小説自体も限定販売だ。
かなりのプレミアがつくと事前から噂されてるにも関わらず、当たった!
うれしくてうれしくて、バイト中もにやけ続け友達にはよかったな、と労われた。
当日、送られてきた整理券を手渡し会場内に入ればグッズがすでに販売されていて、早速一人一個のルールに則り買ってから、最初のトークショーを待つ。
会場内から拍手をされ、鳥崎椿が入ってくる。港雪道も一緒で、港雪道は鳥崎椿より背丈が少しばかり小さかった。金髪だが染めた色だとすぐに分かる色、目は裸眼なのか黒に近い焦げ茶。日本人独特の目の色だ。
港雪道は不機嫌そうだったが、あたりをきょろきょろとし、僕と目が合うとにこりと笑いかけてきてそのまま僕をじっとがん見してきた。
「港先生、お客さん困ってますよ」
司会進行役のお姉さんに言われ、港先生はやんわりと笑みを浮かべたまま甘く低い声で声をかけてきた。
「困ってないよね。とても、可愛らしい子だなと思って」
客席からきゃーー!! と黄色い叫びが出たところで、ようやく港先生はトークショーに集中してくれた、ほっとする。
と、思ったら今度は鳥崎椿がじっと僕を見つめてくる……!
目には嫉妬の色が写り込み、もしかしてお二人は恋人関係なのかな、と疑った。
いや、でも確かお二人はアルファだったよな……?
まぁでもこの日のためにきちんと効く抑制剤飲んできたし、大丈夫だよな。
僕はすっかり忘れていた、アルファとオメガには運命のつがいという、決して抑制剤で抑えきれない出会いがあるということを。
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