87 / 88
金色の鐘を鳴らせ編
第八十七話 天使様はお見通し
しおりを挟むヴァルシュアは何処か母性を感じさせる微笑み方で、「私」を抱きしめた。
「ヴァルちゃん……生きていたの。……あたしはだって花嫁に……」
「もういいでしょう? 猫ちゃん、貴方は貴方の姿で帰ってきて。この子達には皆、あの大人しいけれどお転婆なお妃様が必要なのよ。分かったでしょう? 猫ちゃん、お腹が空いてるならスープまた作るから、それ食べたらみんなにごめんなさいって、しましょう?」
「ヴァルちゃ……だって、だって昔の姿で帰っても誰一人あたしのこと覚えてる人なんていないわ、あたしは亡霊だもの。あたし、バカじゃないから知ってるわ」
「あたしは覚えているわ、猫みたいに可愛らしい顔の貴方をね♡」
「……なん、で。なんで、ずるいわ。神になる魂は、交代の日が来るために絶対に愛されない宿命のはずなのに。なんで、なんであの子だけが!! ちょっと期間延ばしただけで、こんなに愛されるの……!? なんでよ!!」
「ウルの努力の賜だ、余の物で相応しい存在となるべくして努力した気高い存在だ、あいつは」
「私」が大泣きした姿を見れば、私はルネを見つめる。
ルネは満足そうに落ち着いた笑みを浮かべながら、何処か悲しげであった。
もういいでしょう、といった顔つきで手を雲に流し、鏡のように状況を見せていた雲を消し去り私へ微笑みかける。
やたらと手際よく潔いルネの顔つきに、私は思わず呆れかけた。
「貴方もしかしてこうなるのが分かっていたの?」
「僕には未来が見えるんですよ。神様でさえ見えない未来が本当に大事な時だけ。神様、ご迷惑ついでに愚弟の羽根を白くするよう念じていただけませんか? 非礼つづきで申し訳ありませんが。僕がずっと待ち望んでいた時なんです」
「それは何の対価が得られるの?」
「貴方を見目は元の魔物姿にし、器はそのままで地上と行き来できるように致します。神様というのは元は我が儘です、とくにこの世界の神様はね。貴方が願えば、神と魔王の結婚さえ四季と朝昼夜の精霊から認められたのなら可能なのですよ、更に神が認めるとなれば。貴方は神だ、認める行為が出来るでしょう? ……とアドバイスを差し上げることで対価になりえるかな?」
「……とんだ策士ね。ずっと貴方、ラクスターに白い羽根を与える為に、機会窺っていたのね?」
「とんでもない。ただの弟想いをつれない言葉に代えないでください。さあ、ラクスター様。お前も自由だ、天でも地上でもこの方をお連れする係におなりなさい。お前を笑う者がいたら、その白い羽根を見せ言っておやり。自分は神に真に仕えていると。ねえ、アインツ様……いえ今はウルシュテリア・バース=インフェルノ様ですか? 嘘偽りないでしょう」
私が念じたたった一瞬で、私の見目だけは元神様と入れ替わり元通りになる。
けれど、器は確かに違う。みなぎる鼓動や、血脈は、確かにぴたっとお気に入りの服のようにフィットする。
ラクスターが真っ白な羽根を手に入れ、瞬いて呆然とした後ルネへ罵声を浴びせた。
「このブラコン野郎!!」と。
思わずその言葉に私も、ルネも大笑いしてしまったわ。
「さぁ、新しい神様。お仕事が完了なさったら、式へお向かいください。仕事さえしていただければ、基本的に天使はプライベートには干渉いたしません」
ルネは沢山の書類をどさっと用意して机を現して、席に座ることを促す。
スマートな仕事の進め方に、ゼロがいつも書類整理をしていた執務室を思いだし私は思わず笑ってしまう。
「流石、荒くれのラクスターのお兄さんね。立派なお兄さんよ貴方は、しっかりしてる」
「ばっかみてえなことしやがって!! はー、ったく……」
地上の様子をもう一度覗き込み、雪がはらはらと舞っている様子にルネは目を細める。
「しかし驚いた、雪の奇跡なんておとぎ話。信じる阿呆がまだいるとはね。僕の作り出した嘘のお話なのに」
「騙したのか、てっめえ!!! ああああああ、もう!!! ウル、いいか、仕事さっさと終わらせてこんなとこ出て行ってやろうぜ!!」
「またお仕事の際には迎えに参ります」
「来るなくそ兄貴!! はぁ……参ったな、参った。オレの主が、とうとう、ほんとに、神様なっちまいやがった……はは、すげえ。すげえな、ウル。流石オレが認めた主だ」
ルネは薄ら微笑み、口元に手をあてくすくすと声をたてる。
「いつか天にくると言ったでしょう、後悔を抱えていなかったのは計算外だけれどね」
0
お気に入りに追加
73
あなたにおすすめの小説

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。
緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」
そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。
私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。
ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。
その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。
「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」
お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。
「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです
新条 カイ
恋愛
ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。
それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?
将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!?
婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。
■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…)
■■

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
冤罪を受けたため、隣国へ亡命します
しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」
呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。
「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」
突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。
友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。
冤罪を晴らすため、奮闘していく。
同名主人公にて様々な話を書いています。
立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。
サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。
変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。
ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます!
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

騎士の妻ではいられない
Rj
恋愛
騎士の娘として育ったリンダは騎士とは結婚しないと決めていた。しかし幼馴染みで騎士のイーサンと結婚したリンダ。結婚した日に新郎は非常召集され、新婦のリンダは結婚を祝う宴に一人残された。二年目の結婚記念日に戻らない夫を待つリンダはもう騎士の妻ではいられないと心を決める。
全23話。
2024/1/29 全体的な加筆修正をしました。話の内容に変わりはありません。
イーサンが主人公の続編『騎士の妻でいてほしい 』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/96163257/36727666)があります。

【完結】婚約者なんて眼中にありません
らんか
恋愛
あー、気が抜ける。
婚約者とのお茶会なのにときめかない……
私は若いお子様には興味ないんだってば。
やだ、あの騎士団長様、素敵! 確か、お子さんはもう成人してるし、奥様が亡くなってからずっと、独り身だったような?
大人の哀愁が滲み出ているわぁ。
それに強くて守ってもらえそう。
男はやっぱり包容力よね!
私も守ってもらいたいわぁ!
これは、そんな事を考えているおじ様好きの婚約者と、その婚約者を何とか振り向かせたい王子が奮闘する物語……
短めのお話です。
サクッと、読み終えてしまえます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる