勇者の妹ですが、病弱で死んでしまったら魔王が求婚して生き返らせてくれました!

かぎのえみずる

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金色の鐘を鳴らせ編

第八十七話 天使様はお見通し

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 ヴァルシュアは何処か母性を感じさせる微笑み方で、「私」を抱きしめた。
「ヴァルちゃん……生きていたの。……あたしはだって花嫁に……」
「もういいでしょう? 猫ちゃん、貴方は貴方の姿で帰ってきて。この子達には皆、あの大人しいけれどお転婆なお妃様が必要なのよ。分かったでしょう? 猫ちゃん、お腹が空いてるならスープまた作るから、それ食べたらみんなにごめんなさいって、しましょう?」
「ヴァルちゃ……だって、だって昔の姿で帰っても誰一人あたしのこと覚えてる人なんていないわ、あたしは亡霊だもの。あたし、バカじゃないから知ってるわ」
「あたしは覚えているわ、猫みたいに可愛らしい顔の貴方をね♡」
「……なん、で。なんで、ずるいわ。神になる魂は、交代の日が来るために絶対に愛されない宿命のはずなのに。なんで、なんであの子だけが!! ちょっと期間延ばしただけで、こんなに愛されるの……!? なんでよ!!」
「ウルの努力の賜だ、余の物で相応しい存在となるべくして努力した気高い存在だ、あいつは」

 「私」が大泣きした姿を見れば、私はルネを見つめる。
 ルネは満足そうに落ち着いた笑みを浮かべながら、何処か悲しげであった。
 もういいでしょう、といった顔つきで手を雲に流し、鏡のように状況を見せていた雲を消し去り私へ微笑みかける。
 やたらと手際よく潔いルネの顔つきに、私は思わず呆れかけた。

「貴方もしかしてこうなるのが分かっていたの?」
「僕には未来が見えるんですよ。神様でさえ見えない未来が本当に大事な時だけ。神様、ご迷惑ついでに愚弟の羽根を白くするよう念じていただけませんか? 非礼つづきで申し訳ありませんが。僕がずっと待ち望んでいた時なんです」
「それは何の対価が得られるの?」
「貴方を見目は元の魔物姿にし、器はそのままで地上と行き来できるように致します。神様というのは元は我が儘です、とくにこの世界の神様はね。貴方が願えば、神と魔王の結婚さえ四季と朝昼夜の精霊から認められたのなら可能なのですよ、更に神が認めるとなれば。貴方は神だ、認める行為が出来るでしょう? ……とアドバイスを差し上げることで対価になりえるかな?」
「……とんだ策士ね。ずっと貴方、ラクスターに白い羽根を与える為に、機会窺っていたのね?」
「とんでもない。ただの弟想いをつれない言葉に代えないでください。さあ、ラクスター様。お前も自由だ、天でも地上でもこの方をお連れする係におなりなさい。お前を笑う者がいたら、その白い羽根を見せ言っておやり。自分は神に真に仕えていると。ねえ、アインツ様……いえ今はウルシュテリア・バース=インフェルノ様ですか? 嘘偽りないでしょう」

 私が念じたたった一瞬で、私の見目だけは元神様と入れ替わり元通りになる。
 けれど、器は確かに違う。みなぎる鼓動や、血脈は、確かにぴたっとお気に入りの服のようにフィットする。
 ラクスターが真っ白な羽根を手に入れ、瞬いて呆然とした後ルネへ罵声を浴びせた。

「このブラコン野郎!!」と。
 思わずその言葉に私も、ルネも大笑いしてしまったわ。

「さぁ、新しい神様。お仕事が完了なさったら、式へお向かいください。仕事さえしていただければ、基本的に天使はプライベートには干渉いたしません」
 ルネは沢山の書類をどさっと用意して机を現して、席に座ることを促す。
 スマートな仕事の進め方に、ゼロがいつも書類整理をしていた執務室を思いだし私は思わず笑ってしまう。
「流石、荒くれのラクスターのお兄さんね。立派なお兄さんよ貴方は、しっかりしてる」
「ばっかみてえなことしやがって!! はー、ったく……」

 地上の様子をもう一度覗き込み、雪がはらはらと舞っている様子にルネは目を細める。

「しかし驚いた、雪の奇跡なんておとぎ話。信じる阿呆がまだいるとはね。僕の作り出した嘘のお話なのに」
「騙したのか、てっめえ!!! ああああああ、もう!!! ウル、いいか、仕事さっさと終わらせてこんなとこ出て行ってやろうぜ!!」
「またお仕事の際には迎えに参ります」
「来るなくそ兄貴!! はぁ……参ったな、参った。オレの主が、とうとう、ほんとに、神様なっちまいやがった……はは、すげえ。すげえな、ウル。流石オレが認めた主だ」

 ルネは薄ら微笑み、口元に手をあてくすくすと声をたてる。

「いつか天にくると言ったでしょう、後悔を抱えていなかったのは計算外だけれどね」


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