勇者の妹ですが、病弱で死んでしまったら魔王が求婚して生き返らせてくれました!

かぎのえみずる

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金色の鐘を鳴らせ編

第八十三話 ヴァルシュアの訪問

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 真面目な面持ちで白い羽根を数枚手にしたラクスターはシラユキに頼み込んだ。

「奥様連れて行く日は雪を降らせてくれ、今は奇跡に縋りたい。きっと、そうしたほうがいい気がするんだ」
「どうして? 雪は特別なものでは……」
「オレ達には特別なんだよ、祈りに近い存在なんだ」

 俯き若干震えた声でラクスターが頼み込むと、シラユキは頷いて約束をしてくれた。
 ラクスターは要するに、得体の知れない不安に祈りを捧げ、何事もなく終わることを願いたいと暗に告げている。
 明日天へラクスターと行こうと皆で話し合ったその日の夜に、窓辺にその人はきた。

 窓辺から視線を感じたから窓をあければそこにはヴァルシュアがいる。
 構えかけたけれど敵意を感じなかった。構えを解いた私にヴァルシュアは笑いかけた。
 人魚の尾びれをくねらせて、ヴァルシュアは手をひらひらと振ってくる。

「よく攻撃しなかったわね、お利口さあん♡」
「何しにきたの?」
「……もう、充分でしょう? アルギスを貴方から解放してあげて」
「アルギスなら……ちょっとややこしいことになってるの」

 微苦笑して、アルギスが最近ゼリアを気にかけてる出来事を話せば、ヴァルシュアはふわふわと水玉に載って浮きながら爆笑した。

「あははははは!! あの子ってば、あの子ってば本当に……見てて飽きない子ねえ。どいつもこいつも、可哀想。どうして……あたしを選ばないのかしらね、みんな」
「え、貴方はゼロが好きなんじゃ……」
「女心の五分後は誰にも分からないのよ。……まあアルギスの解放はついでよ。アルギスが幸せだと言い切って、笑顔だったり怒ったり出来るのならあたしの出る幕じゃないの。あの子が泣きわめいて寂しいって言う頃にまた口説くわね。今日は貴方に話があるのよう」

 つ、と私を指さしてヴァルシュアは欠伸してから髪型を少し弄る。
 退屈そうに眠そうにヴァルシュアは、「話がしたい」と念押しをした。
 本当に敵意がみえないから、私は頷いた。もの悲しい顔もしていたのも気になったの。

 了承するとヴァルシュアは女性でも可愛いと思う笑顔で微笑み「ありがと」とウィンクした。

「ゼロにとって大事な花嫁なら、あたしから出来るのはただひとつ。一万年前と同じ出来事を犯さないことよ」
「どうして?」
「一万年前に人間の子を拾ったのあたしは。とても、可愛らしい子でね、つり目の猫ちゃんみたいな顔をしていたの。……猫ちゃんは魔力も純度も高くてね、一瞬で器が壊れ死んでしまったの。……天使様が迎えに来たわ、天使様はその子の魂を連れていってしまってね。後日、人間達が信仰する神の像があの子そーっくりだった」
「……待って、貴方、いくつなの」
「そういう茶々はよくないわよう。……器が大きくて魂が小さいのなら何も零れはしないから大丈夫。だけど、器が小さいならきっといつの日かすぐにひび割れる。猫ちゃんみたいな子もね、貴方のように一万年に一人の乙女だったの」
「……ヴァルシュア」

 ヴァルシュアは悲しげに笑って、口元に手を置いてくすくすと声をたてた。

「あたしぃ、可哀想な人間が見捨てられないみたいね。……アルギスも、あの猫ちゃんも……みんな、可哀想だったわ。だから、貴方は可哀想にならないで。ゼロがいるのなら、貴方は此処にどんな姿になっても帰ってくるって約束して。でないと、ふふふ、ゼロの色々奪っちゃうわあ?」
「奪わせないわ、ゼロは私のだもの。……大丈夫、大丈夫よ。有難う、ヴァルシュア。神様に伝言あるなら伝えるわ」
「……猫ちゃんの好きなスープ、いつも作って待ってるからいつでも帰ってきて、って。まあ期待はしないけれどねえ」


 私が片手を差し出すとヴァルシュアは嫌よ、と笑った。
 握手はしたくないけれど、ゼロには幸せになって欲しいからと祈りをしてくれるみたい。

 雪が徐々に降り積もる。


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