勇者の妹ですが、病弱で死んでしまったら魔王が求婚して生き返らせてくれました!

かぎのえみずる

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秋の黄昏編

第七十九話 愛を食む

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 帰宅するなりゼロの執務室を目指す。
 ゼロの執務室にはシラユキが控えていて、予定と現在の仕事状況を見て計画書を作っている様子だった。
 一方ゼロは一秒に一枚書物に判子を押して書類を片付けている。
 私に気づくと、ゼロは手元を見ずに判子を押しながら微笑んだ。

「ウル、どうした?」
「あ、の。試練が……今回、とんでもないかもしれないの」
「精霊が現れたか。ふむ、話してご覧。シラユキ、休憩にして茶にしよう」
「承知致しました、お茶と茶菓子を持ってきますわ」
「あと、ゼロ、これ……」

 ゼロに包まれた一本の薔薇をプレゼントすると、ゼロが今まで見た覚えがないくらい顔を真っ赤にしていた。
 真っ赤にしながらこめかみを抑え、唸りながら薔薇を受け取る。


「ウル、その花の意味を知っているね?」
「愛の花でしょう?」
「いや、まあ、そうなんだが」

 ゼロは落ち着きなく薔薇をあらゆる角度から見つめる。

「赤い薔薇の一本は、意味があってだな。一目惚れ、もしくは貴方だけという意味合いなのだよ」
「え!? ……そ、その、あの」
「お前がそこまで深い意味に捉えて買った花でなくとも、これは期待をしてしまう。他の者にこのように愛くるしい花を贈るでないぞ?」
「う、うん」

 真っ赤な薔薇の花弁を柔く食み千切りながら、ゼロは真っ赤な顔で私に笑いかけた。
 べ、別にその意味で捉えてくれても構わなかったこと、貴方は気づいてくれそうな気がするのだけれど……。

「いちゃついてないで、ちゃっちゃと話を進めようぜ」

 後ろに控えていたラクスターにその場の甘い空気を消すかのように、手をぱんぱんと空に叩かれてはっとした。


「実は……」

 試練の内容と、試練の課題である本をそっと机に置きながらお茶を貰う。
 お茶からの甘みが少しほっと身体を落ち着かせたが、ゼロは険しい顔をして本を読んでいる。

「あいつどういう好みをしているんだ……」
 ミディ団長への謎も深めながら、本の内容をゼロは教えてくれた。

「要するに、嫁と姑という存在がいて、互いに意地悪をする。その中に、二股をする男女が現れるという内容のようだ」
「人間世界は複雑ですのね」
「シラユキ、お前はこの姑という役をするといい。嫁は……そうだな、ゼリアでも呼ぶか」
「私は演じなくていいの?」
「何も劇というのは役者だけで成り立つものでもあるまい。ウル、お前は台本を書くといい。お前は他人の美点を見つけるのがきっとうまいからね、シラユキやゼリアの見せ方もお前なら熟知しそうだ」
「ゼロは? ゼロは何をするの?」
「そうだな……役とはいえ、ウル以外の旦那は嫌だからな。余は舞台を作ろう。アルギスお前は演出や演技指導を。ラクスター、お前は浮気相手役だ。ミディには一番面倒な旦那役をしてもらおう。この本を選んだ責任だ」

 それぞれ役割が決まった。

 シラユキはお姑さんという役で。ゼリアはお嫁さんという役。
 旦那の役はミディ団長で、お嫁さんの浮気相手にラクスターという配役。
 私は脚本で、ゼロは舞台や大道具係ということかしら?
 アルギスは、演出と演技指導。

 お芝居に触れたコトなんて、滅多に無かった。小さな頃、村にやってきた旅団が劇をしてくれたのを一度見たきりなのでこんな時だというのに。とてもわくわくしてしまうわ。

 観客、二百人いければとても嬉しいのだけれど……頑張りましょう。

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