勇者の妹ですが、病弱で死んでしまったら魔王が求婚して生き返らせてくれました!

かぎのえみずる

文字の大きさ
上 下
78 / 88
秋の黄昏編

第七十八話 試練の題材に戸惑う三人

しおりを挟む
 本来の季節にやっと気候が戻ってきた頃合い。
 秋と呼ばれるだろう季節だった。

 枯葉は落ちて綺麗な紅葉が見えるし、銀杏と並んで黄色とのブレンドが綺麗だったの。
 私は相変わらず地下図書室に籠もったり、お仕事で治癒をしたりしている。
 つまり、そう、ゼロとの接触が少し物足りない時期だったのよ。
 ゼロはゼロで忙しそうにお仕事をしていたし、邪魔するわけにもいかなかった。

「それで僕らを連れて街へ買いだしなんて、魔王に後で叱られるよウル」
「そうだぜ、姫さん。魔王は特にそこの魔崩れとお前の関係性を警戒してるんだしさあ」
「だって! 会いに行く理由が見つからないんだもの。それなら、その、街にいってきたからお土産買ったからあげるって言えば少し時間作ってくれるでしょう?」
「分かってないなあ、ウル。君のお願いならあの魔王は君を最優先するよ」

 賑やかな街の商店街の中で部下二人を連れて、私は店のおばさまから林檎を買って、賄賂代わりに二人に渡す。
 アルギスが少し呆れた様子でラクスターと並んで顔を見合わせた。
 顔を見合わせたラクスターは、ははん、と鼻で笑いアルギスをも嗤う。

「アルギス、お前利用されてるぞ。この姫さんはヤキモチを更に妬かせたいんだ」
「なっ!? なんで分かったのラクスター!?」
「わあ、本当に? ウル、君ってば酷いんだ」

 アルギスのにやけかたはやらしいし、ラクスターの好奇心の積もった視線は身に刺さる。
 二人は大人しく林檎に買収されてくれて、齧り付きけらけらと私を揶揄うように笑うから拗ねながら、街の先にある花屋に顔を見せる。
 綺麗な花が沢山あって夢みたいな場所だった。
 私はブーケを作ってゼロに渡したくなったので、花を見積もって貰う。

「愛の花って何かしら?」
「クロユリ」
「それだけは絶対に違うって分かるわ、アルギス。意地悪はやめて」
「やだなあ、これもある種愛の花だよ」
 にこにことしたアルギスの表情が中々くせ者の顔をしていた。
 ラクスターは真っ赤な薔薇を指さし、これじゃないかときらきらとした眼差しで精一杯訴えてくる。

「やっぱり愛といったらさ、薔薇だよ薔薇! それもまーーっかなやつ!」
「ラクスター意外と真面目に答えてくれるのね。貴方なら食べ物の贈り物を優先しそうだと思ったわ」
「そりゃーそのほうがオレはいいけど。お前が! 魔王に! 贈りたい想いなんだろ? 茶化すだけめんどくさいことになるし、馬に蹴られちゃう」

 ラクスターの言葉にごもっとも、とアルギスは小さく拍手し頷く。
 何だか二人ともいつの間に話が合うようになったんだか。
 私は赤い薔薇を見つめ、幾つ買おうかと悩んでいた。

 一本にしよう。まだ初めて贈る薔薇だもの。

 ブーケじゃないけれど、赤い薔薇なら一本でも十分な意味合いとインパクトを持つから合格点。
 私達は花屋の次に、ミディ団長がリクエストしていた本を買うために本屋へ訪れた。
 やけに豪華や華美な本の装丁に囲まれた中に、簡素な装丁の本が売っていた。

「きっとこれね」
『そしてこれが貴方たちの試練よ』
「きゃ!?」

 驚いて本を落としそうになったけれど、アルギスがキャッチしてラクスターが辺りをうかがう。
 声の主は、憂いを帯びて現れる茶色の色素を持つ秋の精霊女王だ。

『貴方の今持つ本の内容で、劇をして頂戴。芸術を見せて欲しいの』
「げ、劇? お芝居ってことですか?」
『お芝居で自分の心と向き合って。もしも、観客が二百人を超えるなら認めてあげる』

 素人の劇で二百人の観客を招くなんて無茶がある!!
 条件を下げようとあれこれ考えているうちに秋の精霊女王は消え去ってしまった。

「……姫さん、魔王と話すネタ増えたじゃん……」
「これは願っていたことじゃないのよ……ううん、でも頑張らないと。でも、劇ってこの本……。ミディ団長がお土産を願っていた本だけど、この内容をすればいいのかしら?」

 本のタイトルを改めて三人で見つめて、三人とも険しい顔を浮かべた。
 本のタイトルには「嫁と姑の陰湿ないじめ~果ての浮気~」と書いてあった。
 ……ミディ団長の本の好みがよく分からないわ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

悪役令嬢に転生したら病気で寝たきりだった⁉︎完治したあとは、婚約者と一緒に村を復興します!

Y.Itoda
恋愛
目を覚ましたら、悪役令嬢だった。 転生前も寝たきりだったのに。 次から次へと聞かされる、かつての自分が犯した数々の悪事。受け止めきれなかった。 でも、そんなセリーナを見捨てなかった婚約者ライオネル。 何でも治癒できるという、魔法を探しに海底遺跡へと。 病気を克服した後は、二人で街の復興に尽力する。 過去を克服し、二人の行く末は? ハッピーエンド、結婚へ!

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。

緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」  そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。    私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。  ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。  その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。 「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」  お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。 「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」  

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

処理中です...