72 / 88
春は曙編
第七十二話 信じて待つ心
しおりを挟む
氷の矢が消えると同時にアルギスが魔力を使い果たしそうになり、倒れかける。
眠気と闘いながらアルギスは剣を手に取り、コピーへと刃を向けようとしたが、コピーは私を盾とし避けきると窓辺から下りた。
窓から下りれば、ヴァルシュアと闘っていたらしい牛姿のゼロと目が合った。
「ウル!!」
「ゼロ!!」
私達は手を伸ばすもののふれあうことすら許されず。
コピーの手に寄って私は、ヴァルシュアの陣地へ転送されていた。
コピーに無理矢理連れられて、ヴァルシュアの城に入ってしまう。
「ウル、おいで。いつかくる君のために取っておいた部屋があるんだ、きっと君も気に入る」
コピーはにこにこと笑いながら、私を無理矢理部屋へ連れて行こうと玉座の間を通り過ぎようとする。
玉座の間には、思いがけない人物がいて私は堪らず声をあげた。
「お兄様!! お助けを!」
玉座には兄様が腰掛けて、私達が来るのを待っていたのか、私達の姿を認めるとにぃっと笑った。
「任せろウル。お前はこんな湿っぽいところにいるべき女じゃない。風の魔王は退けてやった、あとはお前たち水の魔物だけだ……あのくそ魔王の代わりに、少しだけ手助けしてやる。オレの名を呼べ、ウル」
「お兄様! ……ギルバートお兄様!!」
「いいこだ、助けを求められたのならこの勇者ギルバートが相手しよう、なんつってな。さ、妹から手を離して貰おうか、魔崩れの贋作さんよ」
兄様は背丈ほどのある剣を背中から引き抜くと、構えてコピーと距離を測る。
コピーは兄様相手だと厄介だと感じたのか、目くらましに霧を使うとすぐさまその場から逃げるように何処かへ目指す。
コピーの言っていた部屋だと分かると私は抵抗しようとしたのに、コピーが魔法で私を身動きさせなくする。
コピーは私を、異質な部屋に連れて行くと哄笑した。
「これで、これで君は僕のものだ!! ここは魔力を感知できない、誰もやってこれないぞ!!」
「離して! 貴方なんか、貴方なんかアルギスじゃない! ゼロのもとに戻して!」
「嗚呼、ウル。君はなんて残酷なんだ、僕を否定し、魔王を同時に求めるなんて! 君を……一人にすればいいんだね、そうすれば君はきっと「誰か」を欲しがる。一番寂しくなった頃合いに、僕がくれば君の中でパーツはきっと埋まる。僕しかいないと」
「やめ、て」
それは残酷な愛の宣誓だった。
私は恐怖で喉を引きつらせるも、無情にコピーは部屋から居なくなり、私は泣きながら扉を叩き続けた。
誰一人気配を感じることも、時計もないこの部屋で過ごすにはあまりにも怖すぎた。
今はただ、ゼロが勝って、この部屋に辿り着くのを待つだけだった。
自分自身との戦いになってしまうけれど、……信じればきっと平気よ。
ゼロは私を一人にしないと言っていた、だから、私も……ゼロを信じてこの眠気に負けないだけ。
涙をこぼすのをやめて、涙を拭うと私はその場に座り込んで只管に、今までみてきたゼロの笑顔を思い出すこととした。
眠気と闘いながらアルギスは剣を手に取り、コピーへと刃を向けようとしたが、コピーは私を盾とし避けきると窓辺から下りた。
窓から下りれば、ヴァルシュアと闘っていたらしい牛姿のゼロと目が合った。
「ウル!!」
「ゼロ!!」
私達は手を伸ばすもののふれあうことすら許されず。
コピーの手に寄って私は、ヴァルシュアの陣地へ転送されていた。
コピーに無理矢理連れられて、ヴァルシュアの城に入ってしまう。
「ウル、おいで。いつかくる君のために取っておいた部屋があるんだ、きっと君も気に入る」
コピーはにこにこと笑いながら、私を無理矢理部屋へ連れて行こうと玉座の間を通り過ぎようとする。
玉座の間には、思いがけない人物がいて私は堪らず声をあげた。
「お兄様!! お助けを!」
玉座には兄様が腰掛けて、私達が来るのを待っていたのか、私達の姿を認めるとにぃっと笑った。
「任せろウル。お前はこんな湿っぽいところにいるべき女じゃない。風の魔王は退けてやった、あとはお前たち水の魔物だけだ……あのくそ魔王の代わりに、少しだけ手助けしてやる。オレの名を呼べ、ウル」
「お兄様! ……ギルバートお兄様!!」
「いいこだ、助けを求められたのならこの勇者ギルバートが相手しよう、なんつってな。さ、妹から手を離して貰おうか、魔崩れの贋作さんよ」
兄様は背丈ほどのある剣を背中から引き抜くと、構えてコピーと距離を測る。
コピーは兄様相手だと厄介だと感じたのか、目くらましに霧を使うとすぐさまその場から逃げるように何処かへ目指す。
コピーの言っていた部屋だと分かると私は抵抗しようとしたのに、コピーが魔法で私を身動きさせなくする。
コピーは私を、異質な部屋に連れて行くと哄笑した。
「これで、これで君は僕のものだ!! ここは魔力を感知できない、誰もやってこれないぞ!!」
「離して! 貴方なんか、貴方なんかアルギスじゃない! ゼロのもとに戻して!」
「嗚呼、ウル。君はなんて残酷なんだ、僕を否定し、魔王を同時に求めるなんて! 君を……一人にすればいいんだね、そうすれば君はきっと「誰か」を欲しがる。一番寂しくなった頃合いに、僕がくれば君の中でパーツはきっと埋まる。僕しかいないと」
「やめ、て」
それは残酷な愛の宣誓だった。
私は恐怖で喉を引きつらせるも、無情にコピーは部屋から居なくなり、私は泣きながら扉を叩き続けた。
誰一人気配を感じることも、時計もないこの部屋で過ごすにはあまりにも怖すぎた。
今はただ、ゼロが勝って、この部屋に辿り着くのを待つだけだった。
自分自身との戦いになってしまうけれど、……信じればきっと平気よ。
ゼロは私を一人にしないと言っていた、だから、私も……ゼロを信じてこの眠気に負けないだけ。
涙をこぼすのをやめて、涙を拭うと私はその場に座り込んで只管に、今までみてきたゼロの笑顔を思い出すこととした。
0
お気に入りに追加
73
あなたにおすすめの小説
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。
悪役令嬢に転生したら病気で寝たきりだった⁉︎完治したあとは、婚約者と一緒に村を復興します!
Y.Itoda
恋愛
目を覚ましたら、悪役令嬢だった。
転生前も寝たきりだったのに。
次から次へと聞かされる、かつての自分が犯した数々の悪事。受け止めきれなかった。
でも、そんなセリーナを見捨てなかった婚約者ライオネル。
何でも治癒できるという、魔法を探しに海底遺跡へと。
病気を克服した後は、二人で街の復興に尽力する。
過去を克服し、二人の行く末は?
ハッピーエンド、結婚へ!

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。
緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」
そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。
私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。
ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。
その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。
「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」
お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。
「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです
新条 カイ
恋愛
ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。
それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?
将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!?
婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。
■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…)
■■

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。
112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。
エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。
庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

【完結】婚約者なんて眼中にありません
らんか
恋愛
あー、気が抜ける。
婚約者とのお茶会なのにときめかない……
私は若いお子様には興味ないんだってば。
やだ、あの騎士団長様、素敵! 確か、お子さんはもう成人してるし、奥様が亡くなってからずっと、独り身だったような?
大人の哀愁が滲み出ているわぁ。
それに強くて守ってもらえそう。
男はやっぱり包容力よね!
私も守ってもらいたいわぁ!
これは、そんな事を考えているおじ様好きの婚約者と、その婚約者を何とか振り向かせたい王子が奮闘する物語……
短めのお話です。
サクッと、読み終えてしまえます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる