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春は曙編
第六十九話 春の精霊女王からの試練
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仕事終わりに夕食を食べて、お風呂に入ってる時に唐突に現れた。
にっこりと満面の笑みのふわふわした巻き髪をしたティアラを被った小さな婦人は、麗らかな声を響かせる。
『ご機嫌よう、炎牛のお妃候補様。冬の方から報せは届いたわ』
「ご、きげんよう」
『あら湯浴み中だったのね。ごめんあそばせ。ふふ、あのね、私からも試練与えて宜しいかしら。乗り越えられたら認めてあげる』
「どのような試練ですか?」
『このお城に三日間春の陽気を与えるわ。簡単に言えば、眠気が強くなってしまうの。その中で一人でも起き続けることが出来る人が、この炎の魔物たちの陣営にいたら、認めるわ』
「いつからその陽気は与えられますか?」
『そうね、今だと湯浴み中で可哀想だから、明日になった瞬間からにしてあげる。夜の睡眠は除いてあげるわ。ただ、朝を越えても起きてこない子は失格よ。それではね、お妃候補様。貴方の先に光りがあらんことを』
春の精霊女王は消えたので、私は慌てて湯船から出て着替えると真っ先にゼロのもとに向かう。
ゼロはシラユキとラクスターとで何かを話していた様子で、私が来ると目を丸くし様子に気づくなり「申せ」と頷いた。
先ほどまでのことを私は説明すると、ゼロは考え込むように眉間に皺を寄せた。
「まずいな」
「どうして? チャンスではないの?」
「密偵から近いうちにヴァルシュアかユリシーズが攻め込むかもしれないという報せがきているのだ。闘いながらの眠気は中々に厳しいものがある。集中力も落ちるだろうし、普段避ける行為でさえ難しくなるだろう」
「もしかして今その話をしていたの? だとしたら、春の精霊女王に今すぐ……」
「中止を申し入れるのは危険だ姫さん。精霊は気紛れだ、いつまた構ってくれるか分からない、受け入れるしかねえよ」
ラクスターと私は表情を暗くしたが、シラユキとゼロはまだ面持ちを俯くことは無かった。
「安心しろウル。きっと手はある。これこそが試練だと言うのであれば、乗り越えてお前への愛を証明するまでだ。誰にも否定するなんて出来ないと思わせてやる」
「すぐにミディ様に伝えて参りますね。試練のこと。奥様は魔王様のお側で本日はお眠りください、警護が心配になるかもしれないので魔王様の側が一番の安全かと」
シラユキは一礼するとすぐさま警戒を強めた表情で早足に部屋を出て行った。
ゼロは私にゆっくりと手を伸ばして、指先だけで手招く。
私はゼロに歩み寄りゼロの頬に手を伸ばして、ゼロの隣へ寝転がる。
「ゼロ、あのね……私、お役に立ててる?」
ゼロは急にどうしたと問いかけることなく、目を見開いてからゆるりと蕩ける眼差しを私に送ると、頭を優しく大きな手で撫でてくれた。
「不安か」
「だって皆は本来は闘わなくてイイ戦いを、私のためにしてくれてるから」
「その行為に値するお前だと皆が認めたのだよ、お前は余に相応しいと」
「ゼロは? ゼロは……その、私のこと……」
私が震える声で一度視線を外せば顎を捕らえられ、ゼロの方へきちんと向けられる。
ゼロの瞳は真っ直ぐと私を見ていて、目を見れば分かる。とても私に骨抜きにされてるのだと、甘やかしたいのだと伝わった。
「試そうとしなくても、お前の好意は伝わっているし、お前を一人にする選択肢を取ろうともしない」
「ゼロ……」
「お前の声にはまだ、少しだけ。そう、ほんの少しだけいつか一人にされるような怯えが残っているな。それを取り除けたら、余はきっとお前をきちんと愛せた証拠なのだろう」
「自分でも……もどかしいの」
「知っている。お前はお前自身と闘っている。だからこそ余はお前を包み込むのだよ、こうやってな」
ゼロは私を抱きしめ、抱き枕のように包み込むと「ゆっくりとおやすみ」と告げてくれた。
臆病さや、恐怖心でさえ包み込んでくれるこの炎牛は、愛する行為がとても丁寧なんだと思う。
この人をだからきっと私は……。
にっこりと満面の笑みのふわふわした巻き髪をしたティアラを被った小さな婦人は、麗らかな声を響かせる。
『ご機嫌よう、炎牛のお妃候補様。冬の方から報せは届いたわ』
「ご、きげんよう」
『あら湯浴み中だったのね。ごめんあそばせ。ふふ、あのね、私からも試練与えて宜しいかしら。乗り越えられたら認めてあげる』
「どのような試練ですか?」
『このお城に三日間春の陽気を与えるわ。簡単に言えば、眠気が強くなってしまうの。その中で一人でも起き続けることが出来る人が、この炎の魔物たちの陣営にいたら、認めるわ』
「いつからその陽気は与えられますか?」
『そうね、今だと湯浴み中で可哀想だから、明日になった瞬間からにしてあげる。夜の睡眠は除いてあげるわ。ただ、朝を越えても起きてこない子は失格よ。それではね、お妃候補様。貴方の先に光りがあらんことを』
春の精霊女王は消えたので、私は慌てて湯船から出て着替えると真っ先にゼロのもとに向かう。
ゼロはシラユキとラクスターとで何かを話していた様子で、私が来ると目を丸くし様子に気づくなり「申せ」と頷いた。
先ほどまでのことを私は説明すると、ゼロは考え込むように眉間に皺を寄せた。
「まずいな」
「どうして? チャンスではないの?」
「密偵から近いうちにヴァルシュアかユリシーズが攻め込むかもしれないという報せがきているのだ。闘いながらの眠気は中々に厳しいものがある。集中力も落ちるだろうし、普段避ける行為でさえ難しくなるだろう」
「もしかして今その話をしていたの? だとしたら、春の精霊女王に今すぐ……」
「中止を申し入れるのは危険だ姫さん。精霊は気紛れだ、いつまた構ってくれるか分からない、受け入れるしかねえよ」
ラクスターと私は表情を暗くしたが、シラユキとゼロはまだ面持ちを俯くことは無かった。
「安心しろウル。きっと手はある。これこそが試練だと言うのであれば、乗り越えてお前への愛を証明するまでだ。誰にも否定するなんて出来ないと思わせてやる」
「すぐにミディ様に伝えて参りますね。試練のこと。奥様は魔王様のお側で本日はお眠りください、警護が心配になるかもしれないので魔王様の側が一番の安全かと」
シラユキは一礼するとすぐさま警戒を強めた表情で早足に部屋を出て行った。
ゼロは私にゆっくりと手を伸ばして、指先だけで手招く。
私はゼロに歩み寄りゼロの頬に手を伸ばして、ゼロの隣へ寝転がる。
「ゼロ、あのね……私、お役に立ててる?」
ゼロは急にどうしたと問いかけることなく、目を見開いてからゆるりと蕩ける眼差しを私に送ると、頭を優しく大きな手で撫でてくれた。
「不安か」
「だって皆は本来は闘わなくてイイ戦いを、私のためにしてくれてるから」
「その行為に値するお前だと皆が認めたのだよ、お前は余に相応しいと」
「ゼロは? ゼロは……その、私のこと……」
私が震える声で一度視線を外せば顎を捕らえられ、ゼロの方へきちんと向けられる。
ゼロの瞳は真っ直ぐと私を見ていて、目を見れば分かる。とても私に骨抜きにされてるのだと、甘やかしたいのだと伝わった。
「試そうとしなくても、お前の好意は伝わっているし、お前を一人にする選択肢を取ろうともしない」
「ゼロ……」
「お前の声にはまだ、少しだけ。そう、ほんの少しだけいつか一人にされるような怯えが残っているな。それを取り除けたら、余はきっとお前をきちんと愛せた証拠なのだろう」
「自分でも……もどかしいの」
「知っている。お前はお前自身と闘っている。だからこそ余はお前を包み込むのだよ、こうやってな」
ゼロは私を抱きしめ、抱き枕のように包み込むと「ゆっくりとおやすみ」と告げてくれた。
臆病さや、恐怖心でさえ包み込んでくれるこの炎牛は、愛する行為がとても丁寧なんだと思う。
この人をだからきっと私は……。
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