勇者の妹ですが、病弱で死んでしまったら魔王が求婚して生き返らせてくれました!

かぎのえみずる

文字の大きさ
上 下
65 / 88
雪景色に天恵編

第六十五話 貴方を目指して

しおりを挟む
 ミディ団長は皆を診てから、私の意見を汲んでアルギスを診てくれた。
 アルギスは魔崩れとはいえ、元々は人間の身体だ。体温調節など難しい。
 まずはアルギスへありったけの布団を用意し、服も着込ませ、布団を被せた。
 アルギスは顔を青ざめさせたまま、私に言葉を残す。

「一つ問題を言い忘れていた。この城に僕の滞在を許すからには、僕の偽物には細心の注意を払ったほうがいい。奴は、僕と同じ顔をしながら、君を歪んだ笑みで引きずり出すかもしれない。魔王、どうかウルのこと頼んだよ。僕はきっとこの試練で動き回れない」
「もとよりお前の力など当てにはしておらん。貴様は人間に戻る努力だけしておれ」

 ゼロの物言いは厳しかったが、敵意は少しは消えているのか気遣いがある。
 私はゼロの手を繋いで、アルギスを見やると安心した笑みで眠りに就いたようだった。
 ゼロは私と一緒に執務室へ向かうと、私の体温が少しでも楽になるように抱き締め続けている。

「心音が激しいな、少しは自惚れてもいいのやもしれぬな」
「……楽しんでるの? バカ……」

 私が照れ隠しに罵ると、ゼロは嬉しげに笑って私の項に口づけた。
 かり、とゼロが甘噛みをすると私の身体が跳ねる。
 どきどきする、……悪戯にからかってるのかしら。
 ゼロの表情を振り返って確認すれば、ゼロは穏やかだけれど独占欲に満ちた眼差しをしていた。

「ゼロ、あのねはっきりと言っておくわ」
「何を?」
「……私は貴方の手を目指して、バージンロード歩きたいの。先にいるのは貴方以外嫌よ」
「……回りくどい言葉は似合わぬよ、ウル」
「それならはっきりと伝わるように。貴方が好きよ、ゼロ。私は、自分を押し殺してでも、私を信じてくれる貴方となら一緒にいたい……私で不安になったことは私が消したい」
「……よく気づいたな、余に何か引っかかりがあると。そうだな、お前たちが言うところの不安という名ではあるのかもしれぬ。アルギスが選ばれるのではないだろうか、という不安は常につきまとうよ」

 私はゼロに向き直り、ゼロをじっと見上げゼロの唇へ自分からキスをした。
 ゼロはそんな所作にとびきり驚いた眼差しを、私へ送る。
 唇が離れるとゼロは私を引き寄せ、先ほどとは比べものにならない情熱的なキスを私にした。
 私が酸素不足でくらくらしたところで離され、ゼロは穏やかに落ち着いた笑みを浮かべていた。

「ウル、言葉よりは確かに信じられる行動であったよ」
「私の雄牛さんは、怖がり、だから」

 呼気を落ち着かせながら私が笑う頃合いに、執務室の扉がばんと開きそこには雪塗れのラクスターがいた。

「このまま次の日まで待ってるのも何だし、雪合戦っつーのやろうぜ! シラユキ姐んとこの故郷のアソビなんだってさ! っと、おやあ? いちゃついてる最中か、お邪魔だったかなー?」
 にやにやするラクスターにゼロはすっかり自信を取り戻し「ほざいていろ」と笑って、牛の姿になり私を抱えてラクスターに着いていった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

悪役令嬢に転生したら病気で寝たきりだった⁉︎完治したあとは、婚約者と一緒に村を復興します!

Y.Itoda
恋愛
目を覚ましたら、悪役令嬢だった。 転生前も寝たきりだったのに。 次から次へと聞かされる、かつての自分が犯した数々の悪事。受け止めきれなかった。 でも、そんなセリーナを見捨てなかった婚約者ライオネル。 何でも治癒できるという、魔法を探しに海底遺跡へと。 病気を克服した後は、二人で街の復興に尽力する。 過去を克服し、二人の行く末は? ハッピーエンド、結婚へ!

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。

緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」  そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。    私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。  ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。  その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。 「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」  お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。 「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」  

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

処理中です...