勇者の妹ですが、病弱で死んでしまったら魔王が求婚して生き返らせてくれました!

かぎのえみずる

文字の大きさ
上 下
62 / 88
雪景色に天恵編

第六十二話 籠の鳥と、物理的加護

しおりを挟む
 ゼロは馬へ走らせながら、胸元から水晶を取り出し、魔物達の城の様子を見つめる。
 水晶の中ではアルギスが中心となり、精霊に認められようと動きを進めている。
 先ほど用意させた品で、召喚をしている様子であった。

 召喚の儀式であれば、覗いているとなると精霊たちは機嫌を損ねると気づいたゼロはすぐに水晶で様子を見るのをやめ、水晶を異空間にしまった。

「有能だな、お前の世話係は」
「……ゼロ、怒ってない?」
「怒るだけ無駄であろう、お前は頑固だからな。大事なときに、余を頼り大事にしてくれればそれでよしとしよう」

 ゼロはやれやれといった顔つきで私の後頭部にキスをし、馬の足を早めた。
 やがて一つの豪勢な屋敷に辿り着く。
 一般人では買えないだろうし、手入れするにも人をかなり必要とする屋敷だ。
 門番が明らかに豪腕そうな人たちと、傭兵がいて私は人数をざっと数えた。
 それだけでも、十人以上が門番しているなんて少し過敏なほどだ。

 間違いなく此処の予感がする。ゼロを見上げると、ゼロも頷き、向かおうと。
 正面突破しようということになり、ゼロは空から雷雲を作り出し、人々へ脅しかけてから、炎の魔法で人々の足取りを誘導し門から外れさせその間に突入する。

 馬ごと突入し室内へ入った私達は、中に入った瞬間、これまた沢山いた傭兵に囲まれるのだけれどゼロはくつりと笑い、炎の魔法で人々を囲う。
 囲って動けない間に、歩を進ませる。

「どこにいるか分かるの?」
「バカは単純だ、大体こういうとき、美女を地下に監禁したがる。地下に繋がる道なら想像しやすい」

 ゼロの案内で本当にすんなりと地下へと繋がる階段に辿り着いたものだから、驚いた。
 私とゼロは地下へと下りると、奥の部屋に魔力を感じる。
 奥の部屋へ向かうと、扉に氷が張り付いている。この魔力はシラユキのものだ。
 でも氷は少し溶けかかっていて、魔力が尽きそうなのを示していた。

「胸くそ悪いな」

 ゼロは鬼のような笑みを浮かべると舌打ちし、氷を炎で溶かし扉を開けた。
 中には大きな白い鳥かごの中へ閉じ込められ項垂れているシラユキがいた。

「シラユキ! シラユキさん!」
「ウル……様? ウル様、おりますの? 魔王様まで……すみません、このたびは不覚にも……」
「気にするな、お前はよかれと思っただけだ。趣味が悪い鎖つきだな、魔物の手では外すことの出来ない鎖だ」

 シラユキは幾重にも鎖で繋がれていて、ぐったりとしていた。
 ゼロは試しに鎖に手を伸ばすが、雷撃が走りばちばちっと拒まれた。
 ゼロは考え抜いた末に、シラユキに声をかける。

「シラユキ、思い出の品を壊す度胸はあるか」
「……どういうことです?」
「お前が貰ったというその指輪。壊せば勇者が呼ばれる仕組みだ。その刻印にはそういう召喚の魔術が秘められている」
「な、んですって?! あの人、最初からそのつもりで!?」
「最初からお前に何か乱暴を働く者がいたときようにと用心していたのだろう、随分と愛されているな」
「ただの贈り物じゃないなんて……すかした真似しますわね、あの方はほんっと! 一回は守ってくれるって確かに言ってたけど、自分が乗り込むなんてありなの、あの勇者は! 分かりましたわ、指輪壊してくださいませ!」
 私とゼロは顔を見合わせ、笑ってから少しだけ伸ばされたシラユキの指に宿る指輪の刻印に、ぱきりと傷をつけた。
 瞬間、閃光が生まれ現れたのは兄様。
 兄様はシラユキと一緒に鳥かごの中でステーキを食べようとしていたところで、辺りをきょろきょろと見回しながらフォークに突き刺さるステーキを口にする。

「なるほど、道理でお呼ばれされたわけだ」
 兄様は冷静に状況を分析しながら、ステーキを食べ終わればシラユキの鎖を解き、シラユキを自由にする。
 シラユキは兄様を睨み付けていたが、涙目になると兄様へ抱きついた。
 勢いに負けた兄様はシラユキに押し倒される。

「バカッ!!!!! 何が加護よ、物理的加護じゃない!1」
「御利益あったろ。いや、絶対あの様子なんかしでかすと思ったからさ、ジェネットが。そういうときにオレがいたほうが、人間側からしたら魔物がわるものになるなんてこと避けられるデショ」
「ほんっっとに!!! このおバカ様! ……唇も身体も心も守りぬいたわよ」
「そのご様子で。オレの為に? 可愛いね、やっぱりアンタ」
「なっ!!! このっ、あぐっ、ばか……」

 シラユキは兄様の胸の中で静かに泣き、今までの恐怖から解き放たれる。
 それから思い出したように、ゼロへ振り返る。

「すみません、騙されてしまいました。ジェネットは、確かに精霊とは仲は宜しいのですが、我々に秘訣を教えるつもりはなさそうです」
「大丈夫だ、少しややこしい事態となっていてな。そのお陰で精霊については心配は要らない、お前が犠牲になる必要もなくなった」
「……と、いうことは。存分に暴れ回っても宜しくて?」

 シラユキの口が弧を描き、少し妖艶さが増した。
 側にいた兄様が明らかどきっとした表情をしていて、少し面白かった。
 ゼロも頷き、口元に弧を描いた。

「お前の思うとおりにおやり、魔力補給のポーションなら持ってきたし、責任者を出せと言われたら余とウルが出よう」
「有難う御座います、お心遣い非常に感謝致しますわ」

 シラユキはすっと立ち上がり兄様から離れると、鳥かごの檻を氷で凍らせてからばきっと二本の腕で折って割った。
 あまりの勢いに、兄様が小さく「可憐ゴリラ……」と呟いていた。

「さぁ、思う存分暴れましょうか。私、舐められてる気が致しますので」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

悪役令嬢に転生したら病気で寝たきりだった⁉︎完治したあとは、婚約者と一緒に村を復興します!

Y.Itoda
恋愛
目を覚ましたら、悪役令嬢だった。 転生前も寝たきりだったのに。 次から次へと聞かされる、かつての自分が犯した数々の悪事。受け止めきれなかった。 でも、そんなセリーナを見捨てなかった婚約者ライオネル。 何でも治癒できるという、魔法を探しに海底遺跡へと。 病気を克服した後は、二人で街の復興に尽力する。 過去を克服し、二人の行く末は? ハッピーエンド、結婚へ!

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...