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雪景色に天恵編
第六十二話 籠の鳥と、物理的加護
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ゼロは馬へ走らせながら、胸元から水晶を取り出し、魔物達の城の様子を見つめる。
水晶の中ではアルギスが中心となり、精霊に認められようと動きを進めている。
先ほど用意させた品で、召喚をしている様子であった。
召喚の儀式であれば、覗いているとなると精霊たちは機嫌を損ねると気づいたゼロはすぐに水晶で様子を見るのをやめ、水晶を異空間にしまった。
「有能だな、お前の世話係は」
「……ゼロ、怒ってない?」
「怒るだけ無駄であろう、お前は頑固だからな。大事なときに、余を頼り大事にしてくれればそれでよしとしよう」
ゼロはやれやれといった顔つきで私の後頭部にキスをし、馬の足を早めた。
やがて一つの豪勢な屋敷に辿り着く。
一般人では買えないだろうし、手入れするにも人をかなり必要とする屋敷だ。
門番が明らかに豪腕そうな人たちと、傭兵がいて私は人数をざっと数えた。
それだけでも、十人以上が門番しているなんて少し過敏なほどだ。
間違いなく此処の予感がする。ゼロを見上げると、ゼロも頷き、向かおうと。
正面突破しようということになり、ゼロは空から雷雲を作り出し、人々へ脅しかけてから、炎の魔法で人々の足取りを誘導し門から外れさせその間に突入する。
馬ごと突入し室内へ入った私達は、中に入った瞬間、これまた沢山いた傭兵に囲まれるのだけれどゼロはくつりと笑い、炎の魔法で人々を囲う。
囲って動けない間に、歩を進ませる。
「どこにいるか分かるの?」
「バカは単純だ、大体こういうとき、美女を地下に監禁したがる。地下に繋がる道なら想像しやすい」
ゼロの案内で本当にすんなりと地下へと繋がる階段に辿り着いたものだから、驚いた。
私とゼロは地下へと下りると、奥の部屋に魔力を感じる。
奥の部屋へ向かうと、扉に氷が張り付いている。この魔力はシラユキのものだ。
でも氷は少し溶けかかっていて、魔力が尽きそうなのを示していた。
「胸くそ悪いな」
ゼロは鬼のような笑みを浮かべると舌打ちし、氷を炎で溶かし扉を開けた。
中には大きな白い鳥かごの中へ閉じ込められ項垂れているシラユキがいた。
「シラユキ! シラユキさん!」
「ウル……様? ウル様、おりますの? 魔王様まで……すみません、このたびは不覚にも……」
「気にするな、お前はよかれと思っただけだ。趣味が悪い鎖つきだな、魔物の手では外すことの出来ない鎖だ」
シラユキは幾重にも鎖で繋がれていて、ぐったりとしていた。
ゼロは試しに鎖に手を伸ばすが、雷撃が走りばちばちっと拒まれた。
ゼロは考え抜いた末に、シラユキに声をかける。
「シラユキ、思い出の品を壊す度胸はあるか」
「……どういうことです?」
「お前が貰ったというその指輪。壊せば勇者が呼ばれる仕組みだ。その刻印にはそういう召喚の魔術が秘められている」
「な、んですって?! あの人、最初からそのつもりで!?」
「最初からお前に何か乱暴を働く者がいたときようにと用心していたのだろう、随分と愛されているな」
「ただの贈り物じゃないなんて……すかした真似しますわね、あの方はほんっと! 一回は守ってくれるって確かに言ってたけど、自分が乗り込むなんてありなの、あの勇者は! 分かりましたわ、指輪壊してくださいませ!」
私とゼロは顔を見合わせ、笑ってから少しだけ伸ばされたシラユキの指に宿る指輪の刻印に、ぱきりと傷をつけた。
瞬間、閃光が生まれ現れたのは兄様。
兄様はシラユキと一緒に鳥かごの中でステーキを食べようとしていたところで、辺りをきょろきょろと見回しながらフォークに突き刺さるステーキを口にする。
「なるほど、道理でお呼ばれされたわけだ」
兄様は冷静に状況を分析しながら、ステーキを食べ終わればシラユキの鎖を解き、シラユキを自由にする。
シラユキは兄様を睨み付けていたが、涙目になると兄様へ抱きついた。
勢いに負けた兄様はシラユキに押し倒される。
「バカッ!!!!! 何が加護よ、物理的加護じゃない!1」
「御利益あったろ。いや、絶対あの様子なんかしでかすと思ったからさ、ジェネットが。そういうときにオレがいたほうが、人間側からしたら魔物がわるものになるなんてこと避けられるデショ」
「ほんっっとに!!! このおバカ様! ……唇も身体も心も守りぬいたわよ」
「そのご様子で。オレの為に? 可愛いね、やっぱりアンタ」
「なっ!!! このっ、あぐっ、ばか……」
シラユキは兄様の胸の中で静かに泣き、今までの恐怖から解き放たれる。
それから思い出したように、ゼロへ振り返る。
「すみません、騙されてしまいました。ジェネットは、確かに精霊とは仲は宜しいのですが、我々に秘訣を教えるつもりはなさそうです」
「大丈夫だ、少しややこしい事態となっていてな。そのお陰で精霊については心配は要らない、お前が犠牲になる必要もなくなった」
「……と、いうことは。存分に暴れ回っても宜しくて?」
シラユキの口が弧を描き、少し妖艶さが増した。
側にいた兄様が明らかどきっとした表情をしていて、少し面白かった。
ゼロも頷き、口元に弧を描いた。
「お前の思うとおりにおやり、魔力補給のポーションなら持ってきたし、責任者を出せと言われたら余とウルが出よう」
「有難う御座います、お心遣い非常に感謝致しますわ」
シラユキはすっと立ち上がり兄様から離れると、鳥かごの檻を氷で凍らせてからばきっと二本の腕で折って割った。
あまりの勢いに、兄様が小さく「可憐ゴリラ……」と呟いていた。
「さぁ、思う存分暴れましょうか。私、舐められてる気が致しますので」
水晶の中ではアルギスが中心となり、精霊に認められようと動きを進めている。
先ほど用意させた品で、召喚をしている様子であった。
召喚の儀式であれば、覗いているとなると精霊たちは機嫌を損ねると気づいたゼロはすぐに水晶で様子を見るのをやめ、水晶を異空間にしまった。
「有能だな、お前の世話係は」
「……ゼロ、怒ってない?」
「怒るだけ無駄であろう、お前は頑固だからな。大事なときに、余を頼り大事にしてくれればそれでよしとしよう」
ゼロはやれやれといった顔つきで私の後頭部にキスをし、馬の足を早めた。
やがて一つの豪勢な屋敷に辿り着く。
一般人では買えないだろうし、手入れするにも人をかなり必要とする屋敷だ。
門番が明らかに豪腕そうな人たちと、傭兵がいて私は人数をざっと数えた。
それだけでも、十人以上が門番しているなんて少し過敏なほどだ。
間違いなく此処の予感がする。ゼロを見上げると、ゼロも頷き、向かおうと。
正面突破しようということになり、ゼロは空から雷雲を作り出し、人々へ脅しかけてから、炎の魔法で人々の足取りを誘導し門から外れさせその間に突入する。
馬ごと突入し室内へ入った私達は、中に入った瞬間、これまた沢山いた傭兵に囲まれるのだけれどゼロはくつりと笑い、炎の魔法で人々を囲う。
囲って動けない間に、歩を進ませる。
「どこにいるか分かるの?」
「バカは単純だ、大体こういうとき、美女を地下に監禁したがる。地下に繋がる道なら想像しやすい」
ゼロの案内で本当にすんなりと地下へと繋がる階段に辿り着いたものだから、驚いた。
私とゼロは地下へと下りると、奥の部屋に魔力を感じる。
奥の部屋へ向かうと、扉に氷が張り付いている。この魔力はシラユキのものだ。
でも氷は少し溶けかかっていて、魔力が尽きそうなのを示していた。
「胸くそ悪いな」
ゼロは鬼のような笑みを浮かべると舌打ちし、氷を炎で溶かし扉を開けた。
中には大きな白い鳥かごの中へ閉じ込められ項垂れているシラユキがいた。
「シラユキ! シラユキさん!」
「ウル……様? ウル様、おりますの? 魔王様まで……すみません、このたびは不覚にも……」
「気にするな、お前はよかれと思っただけだ。趣味が悪い鎖つきだな、魔物の手では外すことの出来ない鎖だ」
シラユキは幾重にも鎖で繋がれていて、ぐったりとしていた。
ゼロは試しに鎖に手を伸ばすが、雷撃が走りばちばちっと拒まれた。
ゼロは考え抜いた末に、シラユキに声をかける。
「シラユキ、思い出の品を壊す度胸はあるか」
「……どういうことです?」
「お前が貰ったというその指輪。壊せば勇者が呼ばれる仕組みだ。その刻印にはそういう召喚の魔術が秘められている」
「な、んですって?! あの人、最初からそのつもりで!?」
「最初からお前に何か乱暴を働く者がいたときようにと用心していたのだろう、随分と愛されているな」
「ただの贈り物じゃないなんて……すかした真似しますわね、あの方はほんっと! 一回は守ってくれるって確かに言ってたけど、自分が乗り込むなんてありなの、あの勇者は! 分かりましたわ、指輪壊してくださいませ!」
私とゼロは顔を見合わせ、笑ってから少しだけ伸ばされたシラユキの指に宿る指輪の刻印に、ぱきりと傷をつけた。
瞬間、閃光が生まれ現れたのは兄様。
兄様はシラユキと一緒に鳥かごの中でステーキを食べようとしていたところで、辺りをきょろきょろと見回しながらフォークに突き刺さるステーキを口にする。
「なるほど、道理でお呼ばれされたわけだ」
兄様は冷静に状況を分析しながら、ステーキを食べ終わればシラユキの鎖を解き、シラユキを自由にする。
シラユキは兄様を睨み付けていたが、涙目になると兄様へ抱きついた。
勢いに負けた兄様はシラユキに押し倒される。
「バカッ!!!!! 何が加護よ、物理的加護じゃない!1」
「御利益あったろ。いや、絶対あの様子なんかしでかすと思ったからさ、ジェネットが。そういうときにオレがいたほうが、人間側からしたら魔物がわるものになるなんてこと避けられるデショ」
「ほんっっとに!!! このおバカ様! ……唇も身体も心も守りぬいたわよ」
「そのご様子で。オレの為に? 可愛いね、やっぱりアンタ」
「なっ!!! このっ、あぐっ、ばか……」
シラユキは兄様の胸の中で静かに泣き、今までの恐怖から解き放たれる。
それから思い出したように、ゼロへ振り返る。
「すみません、騙されてしまいました。ジェネットは、確かに精霊とは仲は宜しいのですが、我々に秘訣を教えるつもりはなさそうです」
「大丈夫だ、少しややこしい事態となっていてな。そのお陰で精霊については心配は要らない、お前が犠牲になる必要もなくなった」
「……と、いうことは。存分に暴れ回っても宜しくて?」
シラユキの口が弧を描き、少し妖艶さが増した。
側にいた兄様が明らかどきっとした表情をしていて、少し面白かった。
ゼロも頷き、口元に弧を描いた。
「お前の思うとおりにおやり、魔力補給のポーションなら持ってきたし、責任者を出せと言われたら余とウルが出よう」
「有難う御座います、お心遣い非常に感謝致しますわ」
シラユキはすっと立ち上がり兄様から離れると、鳥かごの檻を氷で凍らせてからばきっと二本の腕で折って割った。
あまりの勢いに、兄様が小さく「可憐ゴリラ……」と呟いていた。
「さぁ、思う存分暴れましょうか。私、舐められてる気が致しますので」
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