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畏れた心の在処編
第五十九話 アルギスの過去
しおりを挟むアルギスの部屋にはミディがいて、私とゼロがくるなり、さっと退いて後ろで控えた。
アルギスは意識を戻していて、ぽかんと天井を見つめていたけれど、私達に気づくと微苦笑をした。
「すっかり、夫婦の顔している」
「アルギス、何があったの」
「危険な術を行ったんだ。ヴァルシュアは、魔崩れたちを沢山複製して兵を増やし力を得ている。僕も例外じゃなかった、僕の根底にある力をヴァルシュアは欲しがった。僕を“二人”にできないかとコピーを作ろうとした、その結果が僕だ」
「コピー? アルギスが二人……無理矢理、アルギスをもう一人作り出したってこと?」
「そう。そうして、僕はコピーに負けた。コピーに負けて、ヴァルシュア様は僕への魔力を打ち切りにした。僕は、今、主人の居ない魔崩れだ……コピーの方は魔力を沢山貰っている。コピーは君に固執している……狂っているんだ君に。ごめんね、迷惑をかけたね、咄嗟に君に会いたくてこの城を思い出した。最後の力で、君に会いに来たんだよ、ウル」
「アルギス……」
「コピーが出来て、僕から君への固執がコピーに移った。それにより、皮肉なことに分かったことがある。僕はきっと……寂しかったんだ」
「孤独を感じすぎた故に、孤独で無かった頃の思い出に固執したか」
「そういうことだよ、魔王。ウルさえいればきっと僕は孤独ではなくなり、この空虚な心の孔も埋まると信じ切っていた。それは半分当たりで、半分不正解だ。君がいれば確かに寂しくはない、けれど……君が死んだときの心の痛みは、そんなものでは君がこうして魔物として生きている今でさえ拭えない。少し長い話になるけれど、聞いてくれる?」
「いいわ、話してみて、アルギス。いいでしょ、ゼロ?」
「……申してみよ、許す」
ゼロはマントの下から手を伸ばし頬をかきながら、アルギスを見つめた。
アルギスは頷いて、過去を語り始めた。
「僕は幼い頃に、親に城へ売り飛ばされたんだ、小間使いとして。それなりに優秀な子供だったから、すぐに可愛がられたしすぐに学習もした。けれど、それをよく思ってなかった第一王子ジェネット様の指示ですぐに虐められ、徐々に孤立していった」
ジェネットはたしかシラユキを口説いていた王子のはずだ。
思いがけぬ名前の登場に私は驚いたけれど、すぐに続きを促す。
「やがて成長した僕は、その……ジェネット様の思い人によくもててしまっていてね。体よく追い払う為に、僕は君の世話係という命令を受けた。僕は君の家に行く前に、家族はどうなったかと見に行けば、裕福に。まるで僕などいなかったかのように暮らして幸せそうで、愕然とした。悲しい思いをしながら、君の家に着くと君は倒れていて……僕が、僕が守らなければ。僕だけが君を守れるのだと勘違いするには、最適の状態だった」
「アルギス、事実、少しそうだったわ。私は貴方がいないと、生きていけない生活だったもの」
「ううん、それでもね。そこに生きる理由を見いだしてはいけなかったんだ。愛する理由を、僕がいないと駄目だからにしてはいけなかったんだよ」
アルギスはゆっくりと首を振り、目を細めた。
自分は絶対的に愛されてはいけないと信じ込んでいる悲しい目だった。
私はアルギスの頭を撫でて、大丈夫よとあやすように撫で続けた。
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