勇者の妹ですが、病弱で死んでしまったら魔王が求婚して生き返らせてくれました!

かぎのえみずる

文字の大きさ
上 下
57 / 88
畏れた心の在処編

第五十七話 信じても許しても傷つくからね

しおりを挟む
 瞳を開けて目に入ったのは、ゼリアだった。
 ゼリアは、じと目で私を見つめて「やっぱりわからない」と嘆息をついた。

「恩人様、そういうのよくないとゼリアは思うの」
「そうね、ゼロからしたら、裏切りに見えたのかも」
「ううん、魔王様は恩人様を信じてる。だからこそ、何をしても信じるからこそどんな行為も見過ごして許さなきゃいけない。とても辛くて傷つくわ、きっと。あとで魔王様に会いに行ってね、怯えてたわ」
「うん……有難う、ゼリア」

 私の声に、ゼリアは深々とため息をついて、少し苛立っている様子であった。

「恩人様、ゼリアね、魔王様の気持ちとっても分かるの。ほら、とと様はゼリアのこと女として全然見てくれないどころか、逃げ出すじゃない? そういう姿はゼリアは可愛いって思うけれど、傷つかないわけじゃないのよ。許すことは傷つかないことではないのよ」
「……うん。とても、身勝手だって思ってる。けど、これはきっと私の因果だから。私が解決すべき問題なの」
「難しいね、恩人様。そうそう、あの魔崩れはとと様が今は診てるわ。相当心にダメージを負っていたけれど、恩人様の魔法で少し良くなったからあとは治癒団で何とか出来る可能性もあるって」
「……分かった、有難う、今すぐ」

 向かおうとすると身体は崩れ倒れかけ、ゼリアが支えてくれて首を振った。

「駄目よ。ゼリアは今は、魔王様にも魔崩れにも会うべきじゃないと思う。今は、そうね。寝て体力回復させて、魔力も。それで、明日、二人に会えばいいと思うの」
「……ゼリア、いつの間にか本当に大人になったのね。あんなに小さかったのに」
「運命の人と出会えたから。とと様のことうんと大事にするって決めたの。恩人様は、どちらを大事にするのかしら。ゼリアは、まだ少しそれが分からない」

 ゼリアは微苦笑して私の頭を撫でると部屋から出て行った。
 入れ替わりでやってきたのは、ラクスターだった。
 ラクスターはいつもなら少し懐いた子犬みたいな仕草を見せるのに、今は険しい顔をしていた。

「奥様、なーにしてんだよ。折角アンタ自身で魔物たちから信頼勝ち取ったのに、少しざわついてるぜ」
「そうね、少し考えなしだったかもしれない。それでも放ってはおけなかったの」
「だろうな、オレはまあ? そういう? 奥様予想してたから、ざわつかねえけどな!」

 一瞬でやっぱり懐いた子犬みたいな笑みを見せてくれたので、私はほっとした。
 状況をラクスターから聞こうと思った。
 ゼリアも魔物だし私の味方ではあるけれど、百パーセント私の気持ちを分かってくれるとは思えない。先ほど、そういう「宣誓」をしたように見えた。
 私に何か思惑があったとしても、ゼロを傷つけるのなら理解しあえないから頼らないでね、と瞳が言っていた。
 だけど、ラクスターは何があっても、私の気持ちを汲もうとする意思が見える。
 少しだけ私もずるい人なんだと思う。味方でない限り話そうとしないなんて。
 でも、今は否定の言葉より、どうするかや、していきたいことに必要な情報が欲しかった。

「アルギスは今精神面が落ち着いて、眠っている。魘されてるんだけどな、その寝言でひっかかるんだがもしかしたらアルギスはヴァルシュアと揉めたかもしれないな」
「じゃああの傷はヴァルシュアが傷つけたってことかしら」
「ワンチャンだがアルギスが、謀反したのかもな」
「……何でかしら」
「さて、そこまでは探りきれてねえ。魔王も探る気はないみてえで部屋に閉じこもっている。シラユキ姐に魔王のことは少し任せてある。姫さん、覚悟はあるか。冷たい眼差しを受けてでも、アルギスを何とかしたいって想いはあるか? 覚悟がないなら、今なら魔王に許しを請えば皆も気の迷いだって納得してくれる。だが、ここから先は茨道だ。オレにも何が誰がどうでるか予想つかねえ。それでも博打する度胸はあるか?」

 ラクスターの眼差しが少し真面目になってるところで、私の意見は最初から決まっている。
 ラクスターは予想していたからこそ、悲しげに笑う。

「あの人をおかしくしたのが私なら、治すのは私の役目なのよ」
「明日、明日だ。今日はよしとけ、明日アルギスに面会しよう、いいな? それと。これだけは覚えておけ。オレの主は、お前だ。誰が敵だろうと、誰が唾かけようと、盾になってお前を庇うのはオレだ。誰かが石投げるなら、噛みついてやるよ。だから、オレだけは信頼してくれよ、何があってもな」

 有難うと告げると、私はまた微睡みに身を任せて眠りに就いた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したら病気で寝たきりだった⁉︎完治したあとは、婚約者と一緒に村を復興します!

Y.Itoda
恋愛
目を覚ましたら、悪役令嬢だった。 転生前も寝たきりだったのに。 次から次へと聞かされる、かつての自分が犯した数々の悪事。受け止めきれなかった。 でも、そんなセリーナを見捨てなかった婚約者ライオネル。 何でも治癒できるという、魔法を探しに海底遺跡へと。 病気を克服した後は、二人で街の復興に尽力する。 過去を克服し、二人の行く末は? ハッピーエンド、結婚へ!

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。

緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」  そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。    私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。  ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。  その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。 「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」  お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。 「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」  

処理中です...