勇者の妹ですが、病弱で死んでしまったら魔王が求婚して生き返らせてくれました!

かぎのえみずる

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畏れた心の在処編

第五十五話 彼を知らない

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 魔崩れの主人を変更する過程を書いた秘術書には、「魔崩れの対象をどれだけ知っているかがポイントになる」と書いてあった。
 そこで私は気づいた、私は今までアルギスから世話されることが多くてそのままに有難く受け止めていたけれど。アルギス自身の過去や、家族については何一つ知らない。

 アルギスは……一方的に私を知ってはいるけれど、私自身はアルギスを何一つ知らずに一緒に過ごす寂しさだけは二人で分けてきた。

 なんて我が儘な生き方だったのだろう、と少し落ち込んだ。

「ミディ団長、もしも団長は自分に無関心な人がいて、その人の世話をしろと言われたら出来ますか?」
「仕事ならね」

 確かに最初は仕事だった。仕事でアルギスは私の元に来たの。
 それでも徐々に、私達は打ち解けていったのだったと、少し懐かしい思いをした。

「奥方様、僕から一つ言うならね、貴方は優しすぎるね」
「どういうこと?」
「無視していいことまで受け止めて傷ついて笑顔で何でも無いって言うのが、貴方の印象だね。過去は過去、済んでる上に今もうどうすることも出来ない箇所なら、完全に無視しなさいな。他の改善できる場所や、何か出来ることにだけ目を向けるといいんだね」
「ミディ団長、有難う。少し、疲れてしまいました」
「おっとそりゃそうだね、いつの間にかもう夕飯時だ。怒られちゃう、上に戻ろう、奥方様」

 私達は上に戻ると、玉座にふんぞり返って座っていたのはラクスターだった。
 ラクスターは不機嫌そうに、私とミディ団長を見やる。

「オレ、護衛なんだけどな!」
「あ」
「奥様の護衛なんだけど、何でオレ置いていくかな!?」
「ごめんなさい、ラクスター。ちょっとしたら戻るつもりで……」
「ちぇ、悲しい顔するなよ、分かったよ。さっさと飯食いに行こうぜ、皆多分集まってるよ。ミディもあまりうちの姫さん、誑かすなよ」
「はは。つい親切心がね、疼いてしまったんだね。今日は夕ご飯は何だね?」
「シラユキ姐から聞いた話じゃ、姫さんの帰還祝いも兼ねてステーキだってさ」
「我らが大将は、妻には甘いんだねえやっぱり。とはいえ、ステーキは楽しみだね! アア、あの肉汁といったら堪らない。想像するだけで涎が出るんだね!」
「作ったのが誰かを聞いても涎が出るか?」
「え?」
「ゼリアが遊びに来て、お前にだけはゼリアが焼いたステーキだよ」
「ヒョエッ!!!!!!!」

 一気に青ざめたミディ団長は後ずさり、地下に戻ろうとしていたので、肩をとんと叩く。

「何処へお向かいに?」
「ちょ、ちょっと思い出したことがあってね」
「明日にしましょう、団長。今日はもうご飯ですよ、行きますよ」
「嫌なんだねええええ、あああああ~~~!!!!!」


 私とラクスターに引きずられ、食事の間までくるとミディ団長は項垂れ観念した。
 再会したゼリアと全身鳥肌のミディ団長の話は、言うまでもない。

 夕食後に大浴場のお風呂に浸かってから、部屋に戻り、明日の支度をしているとふととんとんと窓から小石を投げられてる音に気づく。
 どうしたのだろうと思って、部屋から外を見下ろすと、そこには血だらけのアルギスがいた――。

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